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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.8 超・刺激的なレベルアップ!

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 するとブーブは、
 「へ!? え、え~と、これには深~いワケがございましてぇ」
 なんて冷や汗気味に言い訳をしようとした。だが、答えはマリアの口からあっさりと、

 「え? おじさん、あなた師匠なんて人、最初からいないでしょ。私見てたんだからね」

 なんて出てきたものだから、僕たちはもはやこうべを垂れるしかなかった。

 「いこう? そのアゲハが住んでいる王宮、見てみたいな~♪」
 というマリアの機転により、こうして僕たちはブーブの洞穴を後にした。ブーブは、
 「えぇぇぇ!? ちょ、ちょっと待っておくれ妖精ちゃん! あっしと、これまでずっと一緒にいたのだから、これからもずっと…!」
 「ごめーん♪ もう魂を解放されたから私、妖精じゃなくなったんだ。バイバーイ!」
 「そんなぁー!!」
 なんて最後のトドメをさされ、涙しながら洞穴の底へと転がり落ちるブーブであった。



 「――しかし、まさかサリバとイシュタの『おまじない』で、クリスタルチャームに眠る魂を解放出来るなんて思ってもいなかったなぁ。
 でも、ありがとう2人とも。お陰で、仲間の1人目を救う事が出来たよ」

 森を抜けた後、僕は先住民の男女2人に、そうお礼を告げた。
 てっきり、魂の解放には上界にいるひまわり組を経由しなきゃダメだと思っていたから。

 「お二方も、魔法使いなんだね。私を解放してくれてありがとう~」
 「いえいえそんな!」「それほどでも~」
 と、前にも王宮で見たのと同じ、謙遜けんそんの仕草を見せる男女2人。マリアがこう続けた。
 「『魂の息吹』っていうらしいね? そのおまじない。いいな~。私も一応は魔法を使えるんだけど、こういう、雷を生み出す魔法しかなくてさ~」

 そういって、自身の両手にそれぞれ1玉ずつ、電気球を浮遊させたマリア。



 そうだった! 思い出した!
 あの地獄の魔王を務める礼治さん曰く、もしかしたらそれら魔法によって、僕の力が徐々に戻るかもしれないんだったわ!
 僕はすぐさまマリアへと振り向いた。

 「だけど、ちょっと変なんだよね。言葉にするのは難しいけど、こう、同じ魔法を2つも持っている様な感覚なんだよ… もしかして、セリナが言っていたのってこれ・・の事かな?」
 と、マリアが僕に質問する。

 僕は緊張した面持ちで、コクリと頷いた。

 「じゃあ、今からこの魔法1つをセリナにぶつけるよ。2つあっても意味がないからさ」

 なんて、言い方としては少し物騒だが、このさい受け取れるならお安い御用だ。
 僕は覚悟を決めた。マリアが、少し間合いを取ってレシーブに入る。

 「少しビリビリするよ!? 私のこの力、しかと受け取りな!!!」


 バーン!

 「うっ…!」
 僕の胸部に、マリアの雷魔法が飛来した。派手に打ち付けられた。
 ちょっと、ビリビリして痛い。だけど、その痛みはすぐに引いていった。

 アゲハ達はハッとなった。
 僕の全身が、僅かに黄色いオーラを放ち、やがて光は体の芯へとみていった。



 「…力が、みなぎっている」

 マリアからのレシーブを受け、静寂になり、僕が最初に発した言葉だ。
 凄く、ドキドキする。
 この感覚… 凄く、懐かしい感じがするからだ。

 きっと、今の僕なら、出来る!

 僕は片手を空に掲げた。



 「はっ!!」



 ドーン!

 「「うわぁ…!」」

 サリバとイシュタが、至近距離で落ちてきた雷に驚く。

 その雷は、僕が生み出したものだ。
 空へ掲げた片手に、小規模だけど、雷を落とす事が出来た。
 そして… 僕は帯電したその体で、手から電気球を作って色々な小技を披露したのだ。

 「1つ目の力を、取り戻したんだね」
 アゲハが、安堵した笑顔でそういう。

 「うん」――と、僕は零れるような笑みを浮かべ、頷いた。
 電気球を自らのコントロールで仕舞い、帯電から、元の冴えない白髪男の姿へと戻す。


 「アゲハ… みんな… できたよ。俺、雷魔法を取り戻したんだ!」

 嬉しかった。涙がこぼれそうだ。
 だって、いつの間に殆どの能力が失われていて―― アゲハとマニーの能力だけ受け継がれているとはいえ、このまま最弱の立ち位置で終わると思っていたから。

 「よかったねセリナ。これで、どんどん仲間を解放してどんどん強くなるんだね~」

 マリアが拍手を送りながら、僕を励ます。
 安心できる要素が、また1つ増えた。今の僕なら、雷に打たれてもへっちゃらだ!


 「芹名アキラ、か… 空から降ってきた人に、そんな凄い力があったなんて」

 と、ここで顎をしゃくったのがイシュタ。
 サリバはマリア同様、僕の魔法復活を喜んでくれている。

 「そうときたら、私達もクリスタル集めを手伝うよ! だって魂を解放させれば、彼はどんどん強くなるだけでなく、私達と同じ人間の種族がどんどん増えてくるんでしょう!?」
 「そうしたら、国が賑やかになるね。ところで、仲間ってあと何人散らばっているんだ?」

 と、イシュタが根本問題をきいてきたので、僕は思い出すように答える。
 「う~ん。仲間は俺を含めて、ぜんぶで31人いるんだけど…
 アゲハみたいに最初からいるのが、上界の人たちも合わせて6人で、さっきみどりの聖母マリアが解放されたから… あと24人!」
 「「24人!?」」

 2人は目を大きくしたものだ。きっと、自分達が思っているより多い人数なのだろう。

 …確かに、24人は多い方だと僕も思う。
 なにせ、あのドワーフが隠し持っている所を見つけて、やっと1つ目なのだから。以降も状況によっては、中々見つけられないチャームもあろう事は、想像に容易いのだ。

 ぜんぶ見つけるまで、一体、どれくらいの時間が掛かるんだろう?
 仲間がいればその分、見つけやすくはなるだろうけど、ここは異世界だから現実のような一筋縄ではいかなそうだし… こりゃ相当長い道のりになりそうだぞ。

 「つまり、セリナには元々、それだけの種類の魔法が備わっていたって事なのか!?」
 「え、すごい数じゃなーい! きっと、あのフェデュートなんか怖気おじけづいて降参してしまうほど、強くなるのかもね!!」

 「フェデュート?」
 僕は馴染みのない語句を反芻はんすうした。

 いや… その名称、前にどこかで耳にしたな。でも、なんだったっけ?

 「サリバ、イシュタ。その件については、私が後でアキラに説明するよ。そっちにはマニーが調査しにいっていて、この国への安全確認は取れているし、今はクリスタル集めが先だ」
 と、アゲハが釘を刺した。
 2人は肩をすくめるように、口をつむぐ。

 あー思い出した。アゲハがバルコニーで電話していた時だ。
 そこで確か、その「フェデュート」ってのと、あと「富沢」? の名が挙がってたっけ。
 でも、それって何だろう? 話のニュアンスからして、もしかして敵対勢力?

(つづく)



※ドワーフ、ハーフリングの小人たち(一番左がブーブ)
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