夢の世界とアガーレール! 第一部 ―カナリアイエローの下剋上―

Haika(ハイカ)

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第一部―カナリアイエローの下剋上―

ep.3 僕の恋人は、女王陛下でした。

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 「で、ここから中に入ればいいの? 門番とか、誰もいなさそうだけど」
 僕がそういうと、イシュタが正門を指さした。
 よく見ると、扉の横に、どこかで見た事があるような黒い四角形の物がついている。
 「それなら、その扉の横に付いているインターホンを鳴らせば、きっと女王様がロックを解除してくれるよ。今はそのぅ、勇者様が、敵陣への潜入調査で遠方に出ちゃってるから」

 インターホン!!
 しかも「ロックを解除」なんて言葉、もろ現代じゃねーか!!

 マジかよ、流石にここまできたら、言い逃れはできないだろう。
 こんなにバンバン証拠が出てきておいて、これで女王様が実は「転生者」ではなく、この星の先住民でした~! なんて言われたらもうワケが分からないぞ。


 あ。
 よく考えたら、ここの人達と言語が通じている時点で気づくべきだったわ。



 「――だね。うん、了解… うん。フェデュートが大人しい今のうちに、その『富沢』ってやつをどうにかしないとだね… あ! ちょっとまって?」



 王宮の上階、バルコニーから、聞き覚えのある女声がした。
 しかも、誰かと電話している?

 その人は、下の門前にいる僕たちの姿を見て、急いでバルコニーを後にした。

 僕はドキッとした。
 少しだけ、見たかった顔が見られた。
 間違いない。その人も僕を見て、すぐさま門へと顔を出しに向かったのだ。

 インターホンを押しにいくより、早かった。

 大きな扉が、ゆっくりこちらへ開く。

 僕は今にも泣きそうだ。
 そこから、遂に会いたかった仲間の1人がやってきた。

 「アキラ!」



 「――アゲハ」

 そうだ。
 彼女こそ、夢の世界ではいつも一緒だった、清水あげ
 小柄で、赤毛で、強くて優しい人。僕の大好きな人。

 僕とアゲハは、門前と噴水をバックに、抱擁ハグを交わした。

 「アキラ…! 久しぶり。元気にしてたんだね」

 アゲハが、嬉し涙を流しているのが、よく分かる。
 僕も嬉しかった。
 ここでは、あれ・・からどれほどの年月が経っているか分からないけど、僕が知っている通りのアゲハで安心した。少し高価そうな和服を着用している以外、何も変わってないようだ。

 暫くの抱擁を終えた後、僕はアゲハを見つめながら、今回の経緯を話した。
 「心配をかけさせて、ごめん… 俺、なんでか知らないけど、ひまわり組から、あの日を境に3年も眠りについていたってきいたんだ」
 「え? 3年??」
 「うん。だからその間に、アゲハに淋しい思いをさせたんじゃないかって」
 『あれ!? おーいアゲハ! 今の声って、もしかしてアキラか!?』

 あ。そういえば先のバルコニーのシーンで気になってたんだけど、アゲハはそこで誰かと電話をしていたよな?
 今の音声は… 携帯端末から? 保留にせず繋がったまま??
 僕がその音声の鳴った方を見ると、それは黒いガラパゴス携帯であった。

 て、ガラケーかよ!!
 スマートフォンより一世代前のアイテムじゃないか!!
 しかも今の声って、

 「マニュエル!?」

 そう。その声の主も、僕はよく覚えている。

 桜吹雪満獲まぬえる。通称マニー。
 僕が夢の世界で、何度もくじけそうになった時、よくサポートしてくれたのが彼だった。
 在籍校の人気者で、文武両道の頼れる先輩だ。僕は今度こそ涙が溢れそうになった。

 『やっぱり、アキラだったか! 久しぶりだな。今までどこで何をしていたんだよ?』

 アゲハが手に持っているそのガラケーから、スピーカーをONにし、マニーの声が僕にもハッキリ聞こえる様にしてくれた。
 僕は申し訳なさと同時に、マニーにも事の経緯を話そうと思った。
 「ごめん。俺、どうやら眠らされていたみたいで…」
 『眠らされた?』
 すると、ここでアゲハの表情が変わった。アゲハは、夕陽を見つめていう。
 「もう日が暮れる。悪いマニー、続きはまた今度」
 

 そういって、このあとマニーの返事が返ってくることはなかった。
 ガラケーの画面を見ると、真っ暗になっている―― もしや充電切れか?

 「ごめんアキラ。この世界で流通しているガラケーはソーラーパネル式だから、屋外の日中でしか使えないんだよ。マニーも私も、この通り無事だから安心して」
 「え? そうなんだ。不思議な機能だな… わかった」
 「あ」



 …アゲハが、陽の沈んだ山をバックに僕へと振り向いた途端、何かに気づいたらしい。
 少し、表情が引きつっている?
 僕は、その視線の先である後ろへと振り向いた。そこには、



 「あわわ… あわわわわわ…!」

 サリバが、真っ赤に染めた顔を隠すように、自身の両手で口元を抑え、
 イシュタは、オバケでも見たかのように目を大きくし、石のように固まっていた。

 「じょ、女王様が…! 男の人を前に、あんなに喜んでいられるなんて…!!」
 「ま、まさか! じょじょ、女王様が、今まで独身を貫いていた理由って!!」

 バタンッ!

 「え? ちょっと、イシュタ!?」

 サリバの声かけも叶わず、イシュタはベニヤ板のように、そのまま仰向けに倒れた。
 あまりに衝撃的な光景だったのか、ショックで失神したようだ。

 「えー」

 そんな? そんなに衝撃的だったか?? 僕とアゲハが抱擁する姿。

 てゆうか、もしかしてこの男女2人、結構ウブなのかな。
 思えば、体格のわりには「幼さ」というか、どこか垢抜けてない感じがするし。もしかして、彼らはまだ「恋愛」というものを知らないのでは?
 なんて憶測は、今はやめておこう。さて、こうなるとアゲハが心配だ。

 「やっば」

 と、アゲハはとてもこの国の女王とは思えないようなラフな口調で、自身のこめかみを掻いていた。今日の事が国中の噂になるのを、危惧しているのだろうか。
 僕は、ただ戸惑うばかり。何を、どうすればいいのか、全然分からなかった。

 それでも時間は残酷で、空はあっという間に、月光に照らされる夜へと変わった――。



 【クリスタルの魂を全解放まで、残り 25 個】



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