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プロローグ
ep.2 天国も地獄も、僕の大切な場所。※
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※残酷な表現が含まれます。ご注意ください。
上界にもし、「距離」の概念があるとするならば、きっとここからかなり遠い場所にある星なのだろう。少し画面がぼやけて見える。解像度が低い。
「この星よ。つい最近になって、私達の手でようやく見つけたの。この星から、あなた達『仲間』の生きた波長を捉える事ができた」
「生きた波長?」
「そう。つまり、この星は私達人間でも、問題なく暮らせる環境であることが推測できる。そしてなぜかこの星に、恐らく仲間たちみんなが飛ばされた可能性があるわ。
それも、あなたがいま左手首に嵌めている、そのクリスタルチャームと同じ鉱物に、魂が封印されている時と同じような波長までもが、星から現れているってわけ」
えーと …なにがなんだか、意味が分からないんだけど。
クリスタルチャームって、確かに僕の左手首には、六角柱の大きなクリスタルがついた銀のアクセサリーが、身に着けられているけども。
それと同じ“波長”って、なに? つまりどういう事? 話がついていけない。
まず、なぜ僕以外の仲間たちがそっちへ飛ばされたんだ?
そこには何がある? 僕が寝ている間に、いったい何が起こったっていうんだ!?
「あぁ、混乱するのも分かるよ。だが、ここでずっと迷っていたって何も変わらない。いきなり酷な事をいうがセリナ、覚悟が出来てからでいい。
上界の管理で、手が離せない俺たちの代わりに、皆を探しにあの星へいってほしいんだ。そうすれば、今回こうなった原因が掴めるかもしれない」
相手の表情から察したイングリッドから、とんでもない事を頼まれてしまった。
僕は、思わず目が点になった。
この僕に、よく分かりもしない星へ、たった1人で行ってこいって? どうやって!?
「その星へは、私たちが先代から受け継いだ『神』の力で、現地にあなたの肉体を生成する事ができる。前まで一緒にいた、夢の世界と、現実世界との二重生活のように、この上界では寝ている間の『夢』として、とうの星で目覚められる様に手配するわ」
「え… ウソでしょ?」
「いいえ、ウソじゃないです。それに、本来なら死者が真っ先にいく場所だとされる地獄に、仲間の誰1人召喚されていないの。つまりみんなあの星で、今も生きているのよ」
涙が出そうだ。
よかった。皆、生きてるって事は確かなんだね…? そうとなれば、僕は。
「あ! そうだ」
1つ重要な事を思い出した。2人が… 通称「ひまわり組」が息を呑む。
「地獄も、確かあのパーティーを一区切りに魔王が交代されただろう!? という事は、そっちに礼治さんがいるよね!? ひまわり組の2人がこうして無事だって事は!」
「え…? あぁ、そうだが」
と、なんとも歯切れが悪い返事をするイングリッド。
その微妙な反応はもしや、僕が眠っている間に、何か両者の間で揉め事でもあったのだろうか?
いや、今はそんな事を考えたって仕方がない。この際だから、僕は行動に移した。
「その星へ行く前に、礼治さんに会わせてほしい。場所はどこ?」
僕はベッドから立ち上がり、辺りを見渡した。
目覚めて早々、地獄へ行こうとする僕に戸惑う神様2人。でも、僕がこうやって行動を決意した姿を見て、すぐに案内するべきだと判断したようだ。
「こっちよ」
ミネルヴァの方が、凛々しい表情で「とある方向」に手の平を向ける。
その数センチ先の空間から、人が通れるサイズの「異空間へのトンネル」が出来あがった。
息をのんだ。
ミネルヴァが解放した、そのトンネルの先の異空間には、灼熱のマグマが広がっている。
暗い足場に、空から降り注ぐ小隕石。
ドロドロした溶岩に、小刻みに揺れる地鳴り。
そして、とても近い軌道を回る「焼けた月」… 原始地球がモチーフか。
「この先に、礼治がいまも悪人を相手に戦っている。用があるなら手短にね」
その灼熱世界で、身を焼かれたりするようなら、きっとただでは済まされない。
でも、ここは上界だ。死者と神のみが、立ち入りを許された場所。
だから、ここではいくらやられようが死なない。というか、死の概念がないことは僕にも理解できるのだ。
僕は意を決して、そのトンネルの奥へと進んだ。
――――――――――
「礼治さん!」
僕が目当てとしている、その人物に会うまでの道のりは、案外短かった。
なにせ、ミネルヴァが神の力か何かで、本人の近くにトンネルを作ってくれたのだ。僕は持ち前の身体能力を活かし、小さな足場から足場へと飛び移る様に、先へ進んだ。
その男――羽柴礼治は、黒い片手剣を持って敵を攻撃していた。
敵、というよりは、地獄へ召喚された悪人、というべきだろうか?
その悪人をこれでもかと切りつけ、冷酷非情な眼差しで、なおも剣先を向ける。
「何かいうことは?」
礼治のその一言は、負傷した悪人にとって、かなり煩わしいもののようだ。
悪人は、ぜぇぜぇと息を切らしながら、礼治をキッと睨む。礼治は剣を振るった。
バーン!!
悪人の全身が、礼治の剣先に触れた衝撃で、一気に風船のように膨張し破裂した。
「うぇえ」
僕は、その悪人の悲惨な全身破裂を目にし、少しばかり気持ち悪さを覚える。
こっちは、元きた世界からの途中参加ではあるものの、礼治達と同じ神の一員として仲間入りした1人だ。今じゃこんなグロテスクな展開には慣れたけど、まだ少し抵抗がある。
「…アキラ?」
礼治が、悪人への拷問を終えてから真っ先に、僕へと振り向いた。
豪く、返り血を浴びているものだ。まぁ、それもきっと時間経過で消えるだろうけど。
僕は、先の惨劇のことは置いておいて、礼治の声掛けに対し真剣に目を向ける。
いま、この周辺には僕と礼治以外はいない。
「起きたんだな。3年ぶりに」
礼治の眼差しが、僕に対して少しだけ優しかった。
僕は小さく頷く。礼治は手に持っていた黒い剣を、静かにフェードアウトさせた。
(つづく)
上界にもし、「距離」の概念があるとするならば、きっとここからかなり遠い場所にある星なのだろう。少し画面がぼやけて見える。解像度が低い。
「この星よ。つい最近になって、私達の手でようやく見つけたの。この星から、あなた達『仲間』の生きた波長を捉える事ができた」
「生きた波長?」
「そう。つまり、この星は私達人間でも、問題なく暮らせる環境であることが推測できる。そしてなぜかこの星に、恐らく仲間たちみんなが飛ばされた可能性があるわ。
それも、あなたがいま左手首に嵌めている、そのクリスタルチャームと同じ鉱物に、魂が封印されている時と同じような波長までもが、星から現れているってわけ」
えーと …なにがなんだか、意味が分からないんだけど。
クリスタルチャームって、確かに僕の左手首には、六角柱の大きなクリスタルがついた銀のアクセサリーが、身に着けられているけども。
それと同じ“波長”って、なに? つまりどういう事? 話がついていけない。
まず、なぜ僕以外の仲間たちがそっちへ飛ばされたんだ?
そこには何がある? 僕が寝ている間に、いったい何が起こったっていうんだ!?
「あぁ、混乱するのも分かるよ。だが、ここでずっと迷っていたって何も変わらない。いきなり酷な事をいうがセリナ、覚悟が出来てからでいい。
上界の管理で、手が離せない俺たちの代わりに、皆を探しにあの星へいってほしいんだ。そうすれば、今回こうなった原因が掴めるかもしれない」
相手の表情から察したイングリッドから、とんでもない事を頼まれてしまった。
僕は、思わず目が点になった。
この僕に、よく分かりもしない星へ、たった1人で行ってこいって? どうやって!?
「その星へは、私たちが先代から受け継いだ『神』の力で、現地にあなたの肉体を生成する事ができる。前まで一緒にいた、夢の世界と、現実世界との二重生活のように、この上界では寝ている間の『夢』として、とうの星で目覚められる様に手配するわ」
「え… ウソでしょ?」
「いいえ、ウソじゃないです。それに、本来なら死者が真っ先にいく場所だとされる地獄に、仲間の誰1人召喚されていないの。つまりみんなあの星で、今も生きているのよ」
涙が出そうだ。
よかった。皆、生きてるって事は確かなんだね…? そうとなれば、僕は。
「あ! そうだ」
1つ重要な事を思い出した。2人が… 通称「ひまわり組」が息を呑む。
「地獄も、確かあのパーティーを一区切りに魔王が交代されただろう!? という事は、そっちに礼治さんがいるよね!? ひまわり組の2人がこうして無事だって事は!」
「え…? あぁ、そうだが」
と、なんとも歯切れが悪い返事をするイングリッド。
その微妙な反応はもしや、僕が眠っている間に、何か両者の間で揉め事でもあったのだろうか?
いや、今はそんな事を考えたって仕方がない。この際だから、僕は行動に移した。
「その星へ行く前に、礼治さんに会わせてほしい。場所はどこ?」
僕はベッドから立ち上がり、辺りを見渡した。
目覚めて早々、地獄へ行こうとする僕に戸惑う神様2人。でも、僕がこうやって行動を決意した姿を見て、すぐに案内するべきだと判断したようだ。
「こっちよ」
ミネルヴァの方が、凛々しい表情で「とある方向」に手の平を向ける。
その数センチ先の空間から、人が通れるサイズの「異空間へのトンネル」が出来あがった。
息をのんだ。
ミネルヴァが解放した、そのトンネルの先の異空間には、灼熱のマグマが広がっている。
暗い足場に、空から降り注ぐ小隕石。
ドロドロした溶岩に、小刻みに揺れる地鳴り。
そして、とても近い軌道を回る「焼けた月」… 原始地球がモチーフか。
「この先に、礼治がいまも悪人を相手に戦っている。用があるなら手短にね」
その灼熱世界で、身を焼かれたりするようなら、きっとただでは済まされない。
でも、ここは上界だ。死者と神のみが、立ち入りを許された場所。
だから、ここではいくらやられようが死なない。というか、死の概念がないことは僕にも理解できるのだ。
僕は意を決して、そのトンネルの奥へと進んだ。
――――――――――
「礼治さん!」
僕が目当てとしている、その人物に会うまでの道のりは、案外短かった。
なにせ、ミネルヴァが神の力か何かで、本人の近くにトンネルを作ってくれたのだ。僕は持ち前の身体能力を活かし、小さな足場から足場へと飛び移る様に、先へ進んだ。
その男――羽柴礼治は、黒い片手剣を持って敵を攻撃していた。
敵、というよりは、地獄へ召喚された悪人、というべきだろうか?
その悪人をこれでもかと切りつけ、冷酷非情な眼差しで、なおも剣先を向ける。
「何かいうことは?」
礼治のその一言は、負傷した悪人にとって、かなり煩わしいもののようだ。
悪人は、ぜぇぜぇと息を切らしながら、礼治をキッと睨む。礼治は剣を振るった。
バーン!!
悪人の全身が、礼治の剣先に触れた衝撃で、一気に風船のように膨張し破裂した。
「うぇえ」
僕は、その悪人の悲惨な全身破裂を目にし、少しばかり気持ち悪さを覚える。
こっちは、元きた世界からの途中参加ではあるものの、礼治達と同じ神の一員として仲間入りした1人だ。今じゃこんなグロテスクな展開には慣れたけど、まだ少し抵抗がある。
「…アキラ?」
礼治が、悪人への拷問を終えてから真っ先に、僕へと振り向いた。
豪く、返り血を浴びているものだ。まぁ、それもきっと時間経過で消えるだろうけど。
僕は、先の惨劇のことは置いておいて、礼治の声掛けに対し真剣に目を向ける。
いま、この周辺には僕と礼治以外はいない。
「起きたんだな。3年ぶりに」
礼治の眼差しが、僕に対して少しだけ優しかった。
僕は小さく頷く。礼治は手に持っていた黒い剣を、静かにフェードアウトさせた。
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