妻は従業員に含みません

 フリードリヒは貿易から金貸しまで様々な商売を手掛ける名うての商人だ。
 ある時、彼はザカリアス子爵に金を貸した。
 彼の見込みでは無事に借金を回収するはずだったが、子爵が病に倒れて帰らぬ人となりその目論見は見事に外れた。
 だが返せる額を厳しく見極めたため、貸付金の被害は軽微。
 取りっぱぐれは気に入らないが、こんなことに気を取られているよりは、他の商売に精を出して負債を補う方が建設的だと、フリードリヒは子爵の資産分配にも行かなかった。

 しばらくして彼の元に届いたのは、ほんの少しの財と元子爵令嬢。
 鮮やかな緑の瞳以外、まるで凡庸な元令嬢のリューディア。彼女は使用人でも従業員でも何でもするから、ここに置いて欲しいと懇願してきた。
 置いているだけでも金を喰うからと一度は突っぱねたフリードリヒだが、昨今流行の厄介な風習を思い出して、彼女に一つの提案をした。

「俺の妻にならないか」
「は?」

 金を貸した商人と、借金の形に身を売った元令嬢のお話。
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