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02:閑話

誕生日プレゼント

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 学年も上がりましてついに最高学年です。
 そんな春先の事、アウグスト様からデートに誘われました。婚約して半年経ちましたが、未だにデートと言う言葉には慣れません。

「週末に迎えに行くから、準備しておいてね」
 いらっしゃる時間はいつもと同じ、つまり朝食前ということです。

 実は婚約してからデートの度にフェスカ侯爵邸へ拉致られて、朝食をお義母様と一緒に取る流れがとても多いのです。
 そしてお昼まではお義母様とサロンや庭園でお茶会です。

 お茶会では、懇意にされている他の貴族のご夫人らが幾人もいらっしゃっています。何度か開いても被る事が無かったので、かなり広い交友関係のようです。
 お義母様曰く、お茶会の目的は「お披露目よ」だそうです。
 息子の婚約者と言う意味と、いずれ私が継ぐであろう侯爵夫人の立ち位置に対してのお披露目でもあるのでしょう。
 しかと名前を覚える努力をしなければと、決意を新たにします。

 ちなみに私たちがお茶会を開いている間、アウグスト様はお義父様と一緒に執務室に篭ってお仕事をされています。
 そんな訳で二人でデートに行くのはお昼以降と言う事になりますね。




 デート当日の朝、いつも通りの時間にフェスカ侯爵の馬車が迎えにやってきました。
 朝とは言えどアウグスト様の微笑みには隙は無く、相変わらずの糖度十二分です。
 流石ですね!
 挨拶もそこそこに馬車に連れられ、向かうはフェスカ侯爵家。

 では無かったようです。

 馬車が向かったのは街の大通りで、そして連れられたのはその通りに面したカフェテラスでした。
「ここで朝食を食べましょうか」

 アウグスト様に促されてお店に入ります。
 お店の外観は全体的に白を基調として統一感があり、おしゃれな感じがするお店でした。席は通りに面したテラス側と、窓に覆われた店内の二つがあるようです。

 私たちが案内された席は、ガラス張りの店内側で通りの様子が良く見える席でした。
 まぁまだ早朝と言える時間ですから、人通りは少ないですけどね。


 朝は数種類ある朝食用のプレートから注文する形式のようです。数ある朝食のプレートはどれもおいしそうで、どれにするか悩みます。
 結局、私が好きなものを二つ選び、アウグスト様とシェアする事になりました。
 私の食べ残しをお渡しするのは恐縮です、すみません。


 カフェテラスを出て向かったのは花屋でした。こちらのお店には切花だけではなく、苗も置いてあるようです。
 いいですね、私好みです!

 品揃えが豊富で、見慣れた苗に混ざって知らない苗も数点あり、どのような花が咲くのかを店員さんに教えていただきます。
 ついでに育て方の難易度やらコツも伝授して頂きます。
 どれも綺麗で楽しそうな花なのですが、残念ながら家の庭事情では総ての苗は植えられそうにありません。

 いま開いているスペースを考えると、う~ん……三つほどならいけるか?
 そんな事を考えていると、気づけば結構な時間が経っていたようです。

 またもやアウグスト様を放置してしまい、申し訳ない気持ちで一杯になります。
 私は一旦保留にして、次回また来て考えることにしました。

 視線を上げて「お待たせしました」と、私が言えば、

「じゃあそれを下さい」と言われて、悩んでいた苗が総て購入されてしまいました。
「え?」
 そんなに買っても植える場所が、ね?

「止めて下さい。植える場所が無いので購入した苗が無駄になってしまいます」
 しかしアウグスト様はニコリと笑われて、そのまま苗を手にして出て行かれました。
 あぁ植えられない苗に申し訳ないと困まり果てました。



 馬車に揺られて向かった先は、予想通りのフェスカ侯爵邸です。

 屋敷に入ると使用人の方々が綺麗に整列されてまして、
「お帰りなさいませ、アウグスト様、ディートリンデ様」と挨拶されます。
 相変わらず角度が綺麗に揃った一礼でございました……



 アウグスト様は庭の一角にある寂れた東屋に私を連れて行きました。
 東屋の前には、がっちり目の壮年の男性が立っています。
「彼はクンツと言って、家の庭師だよ」

 庭師とな?
 我が子爵家では5の付く日だけやってくるお爺さんが庭を管理しています。その役目は主に樹の剪定ですね。
 なお小さな木や花は私が勝手に植えているので、その管轄には入っていません。

 こちらもそうなのかな~と聞いてみると、
「侯爵家で雇っているから、毎日居て管理してくれてるけど?」
 と、逆に不思議に思われてしまいました。

 そのお方がどうしたかと言えば、先ほど購入した苗を差し出しつつ、
「はい、これ。誕生日プレゼントだよ」
 と、糖度十二分な笑顔で仰いました。

 笑顔は相変わらず素敵ですが、言っていることが真っ黒です。
 だって苗と人が誕生日プレゼントですよ?
「あの、人身をプレゼントされましても困ります。はっ? それともクンツさんと婚約しろと仰るのですか?」

 その時のアウグスト様は、過去見たことも無いような白い目でした……

「ここら辺の庭を自由にしていいよって意味なんだけどね」
 そしてぽそりと「誰が可愛いリンデを人にやるものか」と、聞こえてしまい赤面しました。

 そう言ってくれたのがとても嬉しく、
「あ、ありがとうございます」

 そして背伸びをし初めて私から……
 驚きの表情のまま固まるアウグスト様が可笑しくてクスクス笑いました。
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