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01:本編

12:公爵様とご挨拶

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 私はあれから三度、他家で行われた夜会に参加しています。
 そのエスコート役はすべてアウグスト様でした。

 エスコートに伴いまして、当然ドレスは侯爵家のエスコート令嬢として恥ずかしくないようにと、エルゼ様のお店でオーダーメイドです。
 エルゼ様のデザインでないと、私の地味っぷりが隠せずにエスコート役が恥をかくからですね。

 なお三回とも最初に作成したドレスに装いは近く、メリハリの無い地味な体型を隠すストンとしたシンプルドレス、だけど後ろのリボンは凄いのよバージョンです。
 回を重ねる度に、リボンが大きくなっているのは気のせいではないと思う。

 四回目となる本日の会場は、悪役令嬢こと公爵家のクラウディア様のお屋敷です。

 エスコート役はお馴染みアウグスト様です。
 本日のリボンはもっと凄いのよバージョンを越えて、さらに凄いのよバージョンです。

 そう言えばお屋敷にエルゼ様がドレスの採寸に来ると、エスコート役が分かることに気づきました。
 だって子爵パワーで、お忙しいエルゼ様がこんなに早く来るわけが無い!

 自宅大好きだった私ですが、そろそろ夜会慣れし始めたのか、エルゼ様が来てエスコート役が分かると、新しいドレスの期待感から夜会を心待ちにしてドキドキわくわくとするようになりました。
 私も成長したものですね。


 アウグスト様と言えば、最近はモーリッツ様と非常に仲がよろしいようです。
 ただ、ゲームの関係性とは違うようで、どうやら普通の友人のように仲が良いように見受けられます。

 食堂ではお二人は必ず同じ席で食べています。会話が無かった以前では絶対に考えられない事です。
 ただしついでに私も一緒に巻き込まれているのは勘弁して下さい。
 お二人と一緒にいると、周りの視線に居た堪れない気持ちになり、さらには動悸が激しくなりまして、食欲が無くなるのです。

 それからお二人は私のクラスへ良くいらっしゃるようになりました。
 毎回お相手は違うのですが、クラスの男子と二~三言ほどお話されます。
 何の話なんでしょうか?

 男子との話を終えると、ついでに私とお話します。その際には、以前買って頂いた本の続編や同じ作者の別の作品をプレゼントしてくれます。
 本といえども高価ですし、毎回頂いて恐縮なのですが~と言えば、「気にしないで」といつも通り糖度十二分の笑顔でした。
 こちらも負けずに有難うございますと、笑顔を返しておきました。
 糖度に差があるのはスルーの方向です。



 そんなアウグスト様ですが、相変わらず女性には興味が無いようです。
 夜会では積極的に、パートナー不在、かつ当たり障りの無い私のエスコート役を買って出ていらっしゃいます。
 雇われ令嬢としての私のポジションは非常に都合がよいのでしょう。

 もしやプレイヤーたるモーリッツ様が、何らかのエンディングを迎えないとゲーム補正で女性に興味が沸かない設定なのでしょうか?
 プレイヤーの友人位置のアウグスト様が、一体どんな令嬢を選ばれるのか大変気になります。
 そんな事を思いながら、隣のアウグスト様を見上げれば、いつも通り・・・・・視線が合います。
 そしてニコリと糖度の高い笑顔もいつも通り、私も同じ様に笑顔で対抗です。
 糖度で惨敗なのは致し方が無い。


 夜会は開催の挨拶と主催者側のダンスを終え、参加者のダンスパートまで進みました。

 ダンスの裏側ではまずはご年配の方、つまり爵位の高い方から、主催者である現国王の弟君である公爵様にご挨拶が始まっています。
 私やアウグスト様のような若輩は、当主である父らが挨拶しますのでその必要はありません。
 だから関係ないのですって、誰が言った?

 先ほど始めて聞いたのですが、なんとフェスカ侯爵家からは、アウグスト様しか出席されていないので、当主名代として代わりに公爵様にご挨拶するとの事。

「聞いてません!」と言うのは五分ほど前の私の台詞でした。
 今は大人しく列に並んでいます……

 ご年配の貴族の中に並んでいる私は超場違い。
 こんな地味っ子連れて元王族の公爵様に挨拶とか、頭は大丈夫ですか?


「フェスカ侯爵のアウグストです。父が参加できませんでしたので代わりに参りました。公爵様、公爵夫人様、本日はお招き頂きましてありがとうございます」
 その挨拶の後、公爵様の視線は私へ、
 やはり……、私もですか……、はぁ。

「ギュンツベルク子爵家のディートリンデと申します。本日はお招き頂きましてありがとうございます」
 笑顔でそう挨拶すれば、
「おお、君が噂のディートリンデ嬢か。噂以上に可憐だな!」
 と、公爵様が興奮気味にお話されます。
 お隣の公爵夫人も興奮気味です。

 流石は貴族のトップクラスです、社交辞令のオブラートがすげーですね!
 もちろん「いやいやそんな事は無い」と全否定ですよ。

 若輩者で相手の会話が上手く切れない私達は、公爵夫妻にがっつりと捕まり続け、挨拶の列が伸びに伸びた頃に、何とか抜け出すことが出来ました。
 列を去るときの皆様方の視線が痛いのなんのと……


 会場の端に逃げ、ほっと一息ついたところで、
「よろしければ、私と踊っていただけますか?」
 と、アウグスト様が先ほどの口直しとばかりに、敢えておどけた口調で私に手を差し出して来ます。
「もちろん喜んで」と、こちらもおどけた様に、スカートをちょんと持ち上げて手を取れば、笑顔で返します。


 二人で会場の中心部へ移動しダンスを踊りました。
 挨拶は冷や汗ものでしたが、やはり夜会慣れし始めたのか、曲に乗ってくるくると回っているととても楽しい気分になります。

 二曲ほど踊った後、飲み物を取りにテーブルまで戻ると、モーリッツ様が妹令嬢の手を取りながら声を掛けて来ました。
「いやーお前らダンス上手いよな」と、ニヤニヤ顔からの社交辞令です。もちろん「そんな事無いですよ」と返しておきます。
 だって未だにイレーネからは厳しい指導が入るしね。


 アウグスト様がお皿に取り分けてくれた食事を摘まみつつ、果実を薄めた口当たりの良いジュースを飲んでいると、何を思ったのかモーリッツ様が私をダンスに誘って来ました。
「よし、ディートリンデ。いっちょ踊ろうぜ?」

 どこからどう聞いても貴族ならざる誘い方ですが、モーリッツ様はこれで標準です。
 私が能面の笑顔で「呼び捨ては止めて下さいと言いましたよ」と、言えば、
「えーと、ディートリンデ嬢、俺と踊ってくれますか?」
 う~ん、微妙。
 まぁ頑張った感じが見受けられたので、「喜んで」と言い笑顔で手を取りました。

 ちらりと見たアウグスト様の表情が険しい気がしたのは、一瞬のこと。
 見間違いかと思い、もう一度見ればいつもの糖度の高い笑顔でした。

 ん、気のせいかな?


 そしてアウグスト様は、妹令嬢のファニー様に手を差し出してダンスに誘われました。
 二人だけで残っても困りますからね、当然のことです。
 ファニー様がその手を取られると、ズクンとなにやら胸の中で鳴った気がします。

 モーリッツ様に「どうした?」と聞かれますがなんと言えば良いのか。
 言い表しようも無く、そしてすでに何とも無いので何も言えない。
 私は浮かない顔で「いえ、別に……」とだけ言いました。


 さて新しく掛かったのは、とても簡単な曲です。
 が……

 先ほどからモーリッツ様のステップが怪しい。
 何度も何度も、あわや足が踏まれそうになります。
「もしも踏んだら、倍にして踏み返しますよ?」
 そう言って能面の笑顔を見せれば、モーリッツ様は引きつりながらも必死に踊ってらっしゃいました。

 先ほどのようにくるくると踊りながらも私は、何か違うなぁ……とモヤモヤを感じました。
 これはこれで楽しいのですが、先ほどまでのダンスとは違う気がします。

 何が違う?

 う~ん。
 推理モノと恋愛小説くらい違う? って本で例えてどうするのよ。
 結局、ダンスが終わっても違いは表現できませんでした。
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