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01:本編

11:変わりつつある学園生活

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 新たな夜会の招待状はかなりの枚数が届いているらしい。
 執事のセリムに聞けば、全て参加するのは不可能との事。ドレス代も馬鹿にならないですしね、金銭的に厳しいのでしょうと言えば、
「いえ、三箇所で開催する日もありますので、物理的に、でございます」
「は?」
 聞かなきゃ良かった……

 その後のセリムの報告では、お父様とお母様の判断により、参加する夜会はかなり絞られたとか。




 夜会シーズンとは言え、学園は完全休校と言う訳ではない。勉強が嫌いではない私は、休校だろうとどちらでも良かったのです。
 だけど最近は学園に行くのが憂鬱になりつつあります。


 なぜなら、
「ディートリンデ様、今度わたくしのお屋敷でお茶会を開きますの。よろしければ参加して下さいませんか?」
 と、まぁひっきりなしにお茶会のお誘いが来るようになったのです。
 夜会と違い、お茶会は費用もそれほど掛かりません。それに女性のみの催しの為、家柄とかをそれほど気にしなくて良いという利点があります。

 お茶会のお誘いは、最初は名前だけ知っているクラスメイトから、先日には話した事も無い他のクラスの方から、今では他の学年からも誘われ始めています。


 地味な私を誘ってどうするのだ? と、勘違いはすまい。

 間違いなく事の発端は、雇われ令嬢をやったあの夜会の一件でしょう。


 まずこの国において、爵位で最上位に位置する公爵とは、現国王に連なる者でその爵位は子に相続が出来ない名誉的な扱いです。ご子息やご令嬢はもっぱら王に連なる親族と言う名誉を求める家に、婿や嫁に行くのだった。
 だって爵位継げませんからね、貴族で有り続けるには家を出るしかないのですよ。
 対して侯爵は(現在は6家あり)代々より国の要職に就いています。先日のフェスカ侯爵ならば先祖代々が財務担当である名門貴族ですね。
 そんな侯爵家側として、私が参加していたので、周りが勘違いをしているとしか思えない。つまり次代の当主の嫁と言う意味でしょう。
 裏は分かりますけどね。
 実は雇われ令嬢なのですよーと、声を大にして言いたい!

 まぁ実際に言えば侯爵家の恥になるから言えません……


 さて、誘われはすれど返答は至極簡単で、
「ごめんなさい。お父様に確認してみないと分かりませんわ」
 と、保留で終わりです。

 お相手の令嬢も、「後ほどお屋敷に招待状を送っておきますわね」と、お互いの線引きはここまで。
 あちらもお父上から、私に声を掛けるように言われているのだろう。
 貴族令嬢たるもの、お友達付き合いでさえも許可無く、自分だけの判断で決めて良い事は無いのです。
 お互い判断を父に委ね、笑顔で別れます。

 願わくば、不参加の回答を出して頂けますように……と、そっと祈る私だった。




 平穏だった学園生活が一変したある日の食堂の一角。
 私の目の前には、ランチプレートが……、じゃなく。糖度の高い笑顔が目印のアウグスト様と、その隣にはモーリッツ様がいらっしゃいます。
 なぜに私はここでご飯を食べなければならないのか?


 私はいつも通りクラスから出て、一人で食堂に向かいました。
 メニューを決めてプレートを貰う為に、列の後ろに並べば、前の方が私に気がつき「先にどうぞ」と譲ってくれて~を繰り返し、何故か先頭まで移動していました。

 もちろん断りましたよ!?
 でもね、断ると「用事を思い出した」とか「忘れ物をした」と、次々と列を抜けていかれるのです。
 これは間違いなく侯爵様効果と言う奴です。
 雇われ令嬢とバレた時のしっぺ返しが怖いなぁ、おいっ! っと、失礼。


 無駄に列を早く抜けてしまったので、席はガラガラで選び放題でした。
 これ以上目立たないように、なるべく端っこに行こうと壁端の席に向かえば、同じく列を早く抜けていらしたアウグスト様に手を引かれて、ご自分の前の席へエスコートされました。
 当然ながら周りのザワザワが大きくなります。

 エスコートされながら、私はドキドキが止まらない自分に気が付きました。
 この動悸……、きっとバレたら~と思って、緊張しているのかな?
 結局、席に着く頃には、すっかり食欲も無くなっていました。

 フォークでサラダを突きつつ、顔を上げるといつから見ていたのでしょうか、アウグスト様と視線が合います。
「!?」
 何用かと首を傾げれば、糖度の高い笑顔が返ってきます。
 その笑顔を見れば、皆を騙している罪悪感なのか、再び動悸が激しくなりました。

 うぅ、居た堪れない。

 結局、私は何も言わずに再び顔を下げ、そして食べる気が起きないサラダを突くこと数回目。
「ディートリンデ嬢はいつも一人で食事なのか?」と、アウグスト様が尋ねて来ました。

 視線を上げれば再び笑顔、先ほどとは全く違う優しい瞳にドキっとしました。
 まぁ質問の内容は一切の優しさも無いのですけどね!

 要訳「おまえぼっちなの?」ですよ!?
 べ、別にボッチじゃないですよ!


「私は食後に図書館で本を読みますので、周りの方とはペースが合わないのです」
 これは本当で、本の続きが気になり、他の令嬢に比べて食べるのが早いのです。
「確かにそのペースだと合わないかもねー」と、これはモーリッツ様。

「今日は食欲が無いのです!」と、噛み付いていると、
「そうか、僕も一緒に図書館に行っていいかな?」
 そして笑顔で返事を待っています。
 何を言っているのですか、アウグスト様。
「図書館は共有の施設ですから、私の許可は不要ですよ?」
 私がそう言えば、アウグスト様は声を出して「あ、あはは、はぁ」とため息混じりに笑いました。
 力なく笑うその肩を、モーリッツ様がポンポンと叩かれています。


 何か変だったかしら?




■幕間
「セリム、先方からリストは届いたかね?」
「はい、こちらにございます」
 そう言って私が差し出したのは、先日に届けられたフェスカ侯爵が参加される夜会一覧だった。
 貴族令嬢たるお嬢様が夜会にエスコートも無くお一人で参加なさる事はない、参加されるからには必ずエスコート役が必要だ。

 あの夜会以後、お嬢様のエスコート役はフェスカ侯爵のご子息と両家の間で決められている。つまりフェスカ侯爵が参加しない夜会には出ないこと言うことだ。
 旦那様は先ほどお渡ししたリストを見ながら、うんうんと頷いていらっしゃる。

 きっと自分が出なければならない物と、お嬢様だけで良い物を選択されているのだろう。

 もう少し立てば、お茶会用にフェスカ侯爵と他家の関係性を聞いて来られるだろう。
 私は頭の中でフェスカ侯爵と仲の悪い貴族を羅列する作業を開始していた。
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