伯爵閣下の褒賞品(あ)

夏菜しの

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13:年始のパーティー

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 夕食の片づけを終えたベリーがお茶を入れて戻って来た。
 お茶請けのクッキーを手に取り一口。サクりという小気味よい音と共に広がるバターの風味。甘さ控えめで香ばしさが際立つ。
「ほお美味いな」
「お口にあったようで良かったです」
 得意げににこりと微笑むベリー。
 その様子から、
「まさか手作りなのか?」
「はい」
「晩御飯も美味かったがお菓子まで得意とはなあ」
 何もかもがハイスペックで俺には勿体ない。そんな女性を褒章品とは言え〝妻〟に迎えられたことはまさに奇跡だろう。
 ただそのお披露目のために、年始には王宮で開かれるパーティーに呼ばれたのは想定外だったがなぁ。

「ん……?」
「どうかなさいましたか」
「ベリーは年始に王宮でパーティーが開かれているのは知っているだろうか?」
「ええ存じていますよ」
「そうか、良かった。
 じゃあ準備は万端だな」
「準備とは、いったい何のお話でしょう?」
「今年は俺もベリーも出席する予定になっているんだが、もしや聞いていなかっただろうか?」
 王家の主催する数々のパーティー。
 今回のは新年初めのパーティーだが、これらに出席できるのは領地の有無に関わらず、伯爵位以上と決まっている。
 今回の褒章で、領地なしだが伯爵などと言う大層な爵位を賜ったから、俺も王家が主催する新年のパーティーに参加する権利を手に入れた。
 しかし手に入れたのは権利であって義務で無い。そのため俺の様な武官の場合だと、参加するのは二割以下と非常に低い。
 だが今回ばかりは、『出席するように』と宰相閣下から直々に沙汰を頂いている。
 もちろんその裏にあるのは、前代未聞の褒章品〝妻〟のお披露目だろう。
「まっっったく聞いてません!」
 これを聞いたベリーはすっかりご立腹。
 なんという理不尽か、その怒りの矛先はすべて俺に向かった。
 おい宰相、ちゃんと言っておけよ!?



 新年のパーティーまではたった三日。
 ただし三日目は当日なので準備に当てられるのはあと二日しかない。
 軍属の場合は、軍服での出席が認められているので、俺の方は滅多に袖を通さない儀礼用の軍服を出すだけで足りる。
 ついでに言うと褒章を受け取った時にも着ていたから、〝滅多に〟の時期がやたらと重なっているのだが、礼服とは案外そう言うものに違いない。

 そしてベリーは。
 クリューガ侯爵の名を名乗れない彼女に社交界の経験は無いそうだ。ただし経験が無いのと教育を受けていないのは別だと言うので、ベリーならば卒なくこなすだろう。
 それよりも問題は彼女が着るドレスの方だ。
 初日にも聞かれたが、彼女はドレスで過ごすと侍女が要ると言っていた。
 そして現在の我が家には、ドレスも無ければ、侍女もいない。

 事の発端の宰相にケツを任せるのは最後の手段として、
「ドレスは買えば済むだろうが、侍女はな。
 悪いが俺にはそんな伝手は無いぞ」
「一度しか着ないドレスを買うなんてとんでもないです」
「一度とは言い切れんと思うんだが……」
 丁度ここに俺の礼服の例もあるのだしなぁ。
「いいえ。次の予定が無いイコール一度です」
「むぅそう言うものか」
 何をそこまでと思っていると、ベリーはドレスの平均的な値段を教えてくれた。
 普段着用のドレスはもう少し安いそうだが。なるほど確かに、買えない訳ではないが一度きりならば勘弁して貰いたい額である。


「……背に腹は代えられません。
 お父様にお願いしてみます」
「まて。ベリーに無理をさせるくらいなら俺は喜んで出すぞ」
「いえ。先ほどお伝えしたのはドレスの平均値です。三日後のパーティーに間に合わせるとなるとさらに値は上がります。
 それに私が名乗らなくとも、褒章品がクリューガ侯爵家だと言うのは周知の事実。そうなれば下手なドレスで出る訳には参りませんのでさらに値は上がるでしょう」
 控えめに半増しでも二度掛かれば二倍を超える。侯爵家の面子を護ると言う名目ならば二倍の二倍で四倍、または三倍の三倍で。
 うむむ……これは頭が痛い問題だな。

 だが彼女は気付いているのだろうか。
 父と口にした後から、顔はすっかり青褪め、唇も震えていた。会ってもいない内からこんな風に怯える妻を送り出せるわけがない。

「ならば俺も行く」
「よろしいのですか?」
 あからさまにホッとするベリー。出会って二日目、まだそれほど彼女を知っている訳ではないが、普段の彼女ならもう少し上手く隠したはず。
「良いも何もこれは俺の都合だろう?
 ならば俺が頼むのが筋だぞ」
「ありがとう、ございます……」
 ベリーの顔にほんのりと赤味がさしてきた。
 実の父に会うと言うだけでこれほど取り乱すとはな。一体どういう関係だろうか?

「礼を言うのは俺の方だ。
 ありがとう。でも無理はしないでくれよ」
 頭を撫でたかったが向かい側では手が届かず、妥協案としてテーブルに置かれていたベリーの手に自分の手を重ねた。
 顔と同様、血の気を失っていた彼女の手はとても冷たく、早々に両手に切り替えて彼女の手を包み込んだ。
 強張る手に自らの熱を分け与えるかのように愛しむように撫で続ける。
 その甲斐があって、彼女の手が徐々に熱を帯びてくた。
 もう良いだろうかと手を放すと、ベリーは困ったように顔を染め、アーモンド形の瞳を潤ませていた。
「えーとすまん」
「いえ全然いいのですけど。
 それよりもフィリベルトって、謝ればすべて許されると思っていますよね?」
 完全な図星。
 今までがそうだったからそう思っていた。
「そんなことないぞ」
 じぃと訝しげに見つめてくるアーモンド形の瞳。
 ああこれは一目でわかる。全然信じてないな。
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