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31:異性の見習い
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わたしは『能』に昇格した後、すぐに〝神の種〟を収穫した。
神力をひとつ消費するだけで樹には一〇前後の〝神の種〟が生る。なお消費する神力を増やしてもその数は変わらない。では質が増すのかとも思ったがそれもなく、ただ〝神の種〟が生る時期が早くなるようだ。
これで神を量産できるぞ~と思いきや、過度な神力を与えるのは樹の方に負担が掛かるからやめろと二姉さまから指導が入った。
使用する神力は1っきり。
一度収穫した後は時期を置くのがルールだってさ。
なお叱られるまでに収穫した〝神の種〟は三回分。それらはやがて種が芽吹き、『見習い』未満の研修生として生を受ける。
三回分なので丁度いいと、四姉さまと『星』と『愛』で分けたら、また二姉さまから教育的指導が入った。
「第九位『無』に研修させるのはヤメて~」
「ありゃ駄目でしたか」
「駄目っていうか~、下手すると『愛』が自我を失って消失するかも?」
めっちゃダメなやつじゃん!
もっと強く止めて!
慌てて『愛』から研修生を回収。それを半分に分けて第八位の『砂漠』と『嵐』に分けた。まだまだ伝手が少ないからそれ以外ないんだよ。
そして……だれも神見習いへ至る者はいなかった。
新たな神どころか見習いも誕生することがないまま〝神の種〟だけが失われていく。
いまさら神力1なんて、惜しむつもりは無いけれどここまで失敗が続くと結構来るもんだなぁ。
試行一七回目、皆から上がって来た報告書を確認。ついに『砂漠』が指導した研修生から『見習い』が誕生した。
しかしやっと誕生した『見習い』は男性だった。
さて現在、わたしの眷属に男神は一柱もいない。そして神界規定により異性の『見習い』を受け入れられるのは、中三位『能』からと決められている。
要するに、うちで中三位『能』に至っているのはわたしだけなので、『砂漠』から『見習い』を引き上げることになった。もちろん『見習い』を育ててくれた『砂漠』には、お礼として幾ばくかの神力を譲渡、さらに新たな研修生を預けたよ。
「わたしは第六位『月』よ。よろしくね」
「は、はい。
こ、こ、こちらこそよろしくお願いします」
見習い君が超震えている。
実は〝神の種〟から芽吹くとき会っているのだけど、当時の彼では神力を正しく測れず、わたしの神力の内封量に気づかなかったのだろう。
そして今は判るようになった。
さて先ほどまで彼を指導していた『砂漠』は第八位。対してわたしは第六位だけど神力詐欺付きで実質第四位だ。
そりゃあ威圧されるよねぇ……
見習い君の指導を開始。『環』に『愛』そして『無』に続いて四人目なので、わたしの指導もまだまだ拙いのだが、それ以上に見習い君の怯えや萎縮が酷かった。
これはあかん。
ワンクッション入れるべきかと、『愛』と『無』を招いて隣で同じ作業をして貰った。するとどこから聞きつけたのか『環』までやって来た。
「『環』は呼んでないでしょ。自分の巣に帰りなさい」
「いいえお断りいたします。だってこれは同窓会のようなものですもの」
「おや? 君も月先生の生徒だったのかい」
「ええそうよ。私は第八位『環』、五姉さまの妹ですわ」
「月先生直系の姉妹神!? 失礼しました。ボクは第九位『愛』です」
「あら同窓会と言ったではないですか。畏まった口調は不要ですわ」
「えっと……」
「『愛』気にしないで。『環』はもう帰らせるから」
「えー嫌ですぅ。私もここに残りますわ!」
「じゃあ静かにして」
途端に『環』の顔がパァと明るくなった。我が妹ながら単純だ。
きゃいきゃいとした二人のお陰か、見習い君の緊張もかなり解れたらしい。やっと研修が進められる。
見習い君の研修を見つつ、わたしは四姉さまから上がって来た報告書を読んでいた。今回の種たちは優秀らしく、カリキュラムの七分目の時点で三人が『見習い』水準をキープしているそうだ。もし本当にこのまま行けるなら四姉さまはノルマ達成。ぜひ頑張って欲しい。
気分よく報告書から顔を上げると同時に異空から馬が入ってきた。
馬が突然出現しようが驚きはしない。これは先触れだ。だが馬を先触れに使う神に覚えは無い、わたしは馬を促し伝言を聞いた。
馬の差出人は第七位『冒険』を名乗る男神らしい。
要件はこちらへの訪問。もちろん来ただけで話が終わるわけはなく、来た後、さらに詳しい話が訊けるのだろうけど……
是と返し、再び空間が揺れると革鎧を纏った男神が現れた。彼の色合いは茶色と緑でつまり土と草か。山や森を冒険するには打って付けの色合いだろう。
少し気になるのは、その表情はどこか陰を帯びていて暗いこと。
なるほどね……
「訪問のご許可ありがとうございます。
初めまして月神様、俺は第七位『冒険』です。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ初めまして、第六位『月』です」
さて『冒険』とはわたしの『月』と同じく、正と負または、光と陰を合わせ持つ神性だ。
人々は挑戦をし名声や財を手にすることもあれば、無謀な挑戦をした結果に命を落とすこともある。つまり〝栄光〟と〝死〟が『冒険』の権能だ。
彼の表情から察するに、彼は〝死〟寄りの『冒険』なのだろう。
居場所を求めてわたしの元に来たのかな?
ただなぁ~わたしが『権』の時代は同格だからと敬遠していたが、『能』へ上がったことでその憂いも消えたって感じでしょ。
同格でも派閥に入る決断をした『星』に比べて、決断力が劣り、先見の明もない凡庸な神って感じかな。
結局彼はわたしの予想通りで、わたしの眷属に加わりたいと言った。ちなみに彼の眷属は第九位『無』が一人だけでまだ神性は持っていないそうだ。
だけど彼は運だけは良かった。
さすが『冒険』の神だけあってチャンスを掴む力は随一なのか、彼の思考は凡庸だけど、運だけは良かったようだ。
神界規定によりわたし自ら教えるしかなかった男神の『見習い』、この子が『無』に至ったとき、どこの傘下に入れるのか悩んでいたのだがこれで解決する。
利害の一致をみて、わたしは『冒険』の願いを承諾した。
神力をひとつ消費するだけで樹には一〇前後の〝神の種〟が生る。なお消費する神力を増やしてもその数は変わらない。では質が増すのかとも思ったがそれもなく、ただ〝神の種〟が生る時期が早くなるようだ。
これで神を量産できるぞ~と思いきや、過度な神力を与えるのは樹の方に負担が掛かるからやめろと二姉さまから指導が入った。
使用する神力は1っきり。
一度収穫した後は時期を置くのがルールだってさ。
なお叱られるまでに収穫した〝神の種〟は三回分。それらはやがて種が芽吹き、『見習い』未満の研修生として生を受ける。
三回分なので丁度いいと、四姉さまと『星』と『愛』で分けたら、また二姉さまから教育的指導が入った。
「第九位『無』に研修させるのはヤメて~」
「ありゃ駄目でしたか」
「駄目っていうか~、下手すると『愛』が自我を失って消失するかも?」
めっちゃダメなやつじゃん!
もっと強く止めて!
慌てて『愛』から研修生を回収。それを半分に分けて第八位の『砂漠』と『嵐』に分けた。まだまだ伝手が少ないからそれ以外ないんだよ。
そして……だれも神見習いへ至る者はいなかった。
新たな神どころか見習いも誕生することがないまま〝神の種〟だけが失われていく。
いまさら神力1なんて、惜しむつもりは無いけれどここまで失敗が続くと結構来るもんだなぁ。
試行一七回目、皆から上がって来た報告書を確認。ついに『砂漠』が指導した研修生から『見習い』が誕生した。
しかしやっと誕生した『見習い』は男性だった。
さて現在、わたしの眷属に男神は一柱もいない。そして神界規定により異性の『見習い』を受け入れられるのは、中三位『能』からと決められている。
要するに、うちで中三位『能』に至っているのはわたしだけなので、『砂漠』から『見習い』を引き上げることになった。もちろん『見習い』を育ててくれた『砂漠』には、お礼として幾ばくかの神力を譲渡、さらに新たな研修生を預けたよ。
「わたしは第六位『月』よ。よろしくね」
「は、はい。
こ、こ、こちらこそよろしくお願いします」
見習い君が超震えている。
実は〝神の種〟から芽吹くとき会っているのだけど、当時の彼では神力を正しく測れず、わたしの神力の内封量に気づかなかったのだろう。
そして今は判るようになった。
さて先ほどまで彼を指導していた『砂漠』は第八位。対してわたしは第六位だけど神力詐欺付きで実質第四位だ。
そりゃあ威圧されるよねぇ……
見習い君の指導を開始。『環』に『愛』そして『無』に続いて四人目なので、わたしの指導もまだまだ拙いのだが、それ以上に見習い君の怯えや萎縮が酷かった。
これはあかん。
ワンクッション入れるべきかと、『愛』と『無』を招いて隣で同じ作業をして貰った。するとどこから聞きつけたのか『環』までやって来た。
「『環』は呼んでないでしょ。自分の巣に帰りなさい」
「いいえお断りいたします。だってこれは同窓会のようなものですもの」
「おや? 君も月先生の生徒だったのかい」
「ええそうよ。私は第八位『環』、五姉さまの妹ですわ」
「月先生直系の姉妹神!? 失礼しました。ボクは第九位『愛』です」
「あら同窓会と言ったではないですか。畏まった口調は不要ですわ」
「えっと……」
「『愛』気にしないで。『環』はもう帰らせるから」
「えー嫌ですぅ。私もここに残りますわ!」
「じゃあ静かにして」
途端に『環』の顔がパァと明るくなった。我が妹ながら単純だ。
きゃいきゃいとした二人のお陰か、見習い君の緊張もかなり解れたらしい。やっと研修が進められる。
見習い君の研修を見つつ、わたしは四姉さまから上がって来た報告書を読んでいた。今回の種たちは優秀らしく、カリキュラムの七分目の時点で三人が『見習い』水準をキープしているそうだ。もし本当にこのまま行けるなら四姉さまはノルマ達成。ぜひ頑張って欲しい。
気分よく報告書から顔を上げると同時に異空から馬が入ってきた。
馬が突然出現しようが驚きはしない。これは先触れだ。だが馬を先触れに使う神に覚えは無い、わたしは馬を促し伝言を聞いた。
馬の差出人は第七位『冒険』を名乗る男神らしい。
要件はこちらへの訪問。もちろん来ただけで話が終わるわけはなく、来た後、さらに詳しい話が訊けるのだろうけど……
是と返し、再び空間が揺れると革鎧を纏った男神が現れた。彼の色合いは茶色と緑でつまり土と草か。山や森を冒険するには打って付けの色合いだろう。
少し気になるのは、その表情はどこか陰を帯びていて暗いこと。
なるほどね……
「訪問のご許可ありがとうございます。
初めまして月神様、俺は第七位『冒険』です。どうぞお見知りおきを」
「こちらこそ初めまして、第六位『月』です」
さて『冒険』とはわたしの『月』と同じく、正と負または、光と陰を合わせ持つ神性だ。
人々は挑戦をし名声や財を手にすることもあれば、無謀な挑戦をした結果に命を落とすこともある。つまり〝栄光〟と〝死〟が『冒険』の権能だ。
彼の表情から察するに、彼は〝死〟寄りの『冒険』なのだろう。
居場所を求めてわたしの元に来たのかな?
ただなぁ~わたしが『権』の時代は同格だからと敬遠していたが、『能』へ上がったことでその憂いも消えたって感じでしょ。
同格でも派閥に入る決断をした『星』に比べて、決断力が劣り、先見の明もない凡庸な神って感じかな。
結局彼はわたしの予想通りで、わたしの眷属に加わりたいと言った。ちなみに彼の眷属は第九位『無』が一人だけでまだ神性は持っていないそうだ。
だけど彼は運だけは良かった。
さすが『冒険』の神だけあってチャンスを掴む力は随一なのか、彼の思考は凡庸だけど、運だけは良かったようだ。
神界規定によりわたし自ら教えるしかなかった男神の『見習い』、この子が『無』に至ったとき、どこの傘下に入れるのか悩んでいたのだがこれで解決する。
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