下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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28:権に至る

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 やる気が出たので詳しくルールを確認した。
 使ってよい【機能】は最初の試験でわたしが創った【水】と【月】に、彼が加えた【公正】の三つだけ。追加は禁止だし、未使用もだめ。テコ入れで使用してよい神力は研修と同じく5まで許可されていた。ここで齟齬あり。一つの世界で5ではなく、この試験全体で5だった。第七位へ至ろうとする者が研修生と同じなわけないよねー

「ところで【公正】の微調整はして貰えるの?」
「本来ならすべきだがこの試験では、してはならないことになっている」
 過去に【鍛冶】で痛い目を見ているだけに確認したが、どうやらそれも試験の一環のようで駄目らしい。
 ふうんそっかぁ。
 当時わたしが得た教訓は『触るな危険』だ。しかしわたしは諦めが悪い上に負けず嫌いだったから、その後も【鍛冶】を買ってはやらかした。そして得た答えは『相手に合わせて世界を創造する』だ。
 彼から貰った【公正】の【機能】を読み解くべく集中する。
 彼は二姉さまの枝の一つだと思っているが、彼の【機能】には三姉さまから学んだコツや癖はない。おまけに二ランク上の神が創った【機能】だから単純なのにどこか精密で、これが格の違いかと思わせる。
 7:3で読めなかった方が多いと言う結果になった。しかし今回は解った方の3で十分だ。この【機能】は精密だが単純。つまり融通が利く。

 わたしは【公正】を根幹にして世界を創造した。
 隣から「ほぅ」と声が聞こえてくる。それを聞きながら、出来上がった世界に対し、【水】と【月】の機能を調整して混ぜ入れた。

 生命のスープたる【水】は数多の命を生み出し続ける。生命が増えると集団が現れて対立する。世界では何度も何度も争いが起きた。争いに勝った方は正義を振りかざし、負けた方の民を虐げた。公正であるのは常に勝利した己の民のみで世界全体ではとても不公平。人々は絶えることなく慈愛の月に祈った。

「終焉だな」
「……そうですね」
「不満そうだが、これは快挙だぞ」
 この世界で手に入れた【信仰】は4336で、目標の5000には届いていない。不満たらたら、しぶしぶ創った二つ目の世界が始まるとすぐに目標の5000を超えた。
 世界一つと半分なんていう中途半端な結果を世界一つにしてやりたかったのに!
「世界一つと二割ってとこか」
「冗談一割でしょう?」
「おいおい試験官は俺だぞ」
 くそう、公正なんて嫌いだ!



 試験に合格したわたしは第七位『権』に昇格した。
 前の失敗を教訓に報告は一姉さまから順番に。しかし出鼻は挫かれて一姉さまと共に兄貴の元へ移動した。
 フロントダブルバイセップス取りながら祝われた。終わり。
 なお兄貴宅から戻った後のこと「挨拶が終わったらまた来なさい」と言われて解放された。なにそれ怖い。
 二姉さま三姉さまと順調に進み、ついにもっとも報告しにくい四姉さまの元へ移動する。
「そっおめでと。あーしもすぐ上がるから待ってなさいよ」
 軽い、やった!
 さっさと逃げて『環』のところへ。姉さまたちと会っていた流れでうっかり先触れを出してしまい、月狼が帰ってこない事件発生。
 これで何匹目だろう。

「五姉さま!」
 名を叫びつつダイビングハグ。
「どうどう『環』、ちょっと落ち着きなさい。そしてわたしの月狼を返しなさい」
「嫌ですわ。もうあの子はうちの子です!」
 最後は根負けしてその通りになるのだけど、いまはまだ違う。しかし説得はむなしく空振りに終わる。
 くぅ結局また一匹とられた……
 月狼創るのだってタダじゃないのにぃ!


 姉妹への報告が終わり、しばし悩む。
 ここからは豊穣ちゃん、『鍛冶』、歌さん、『愛』と回るつもりだが、終わったら帰って来いと一姉さまに言われている。
 友達とは長く話したい。取引先は後でいい。教え子はその中間ってことで『愛』のところだけ行くことに決めた。
 しかし不在なのか送った先触れに反応は無く、一姉さまの元へ向かった。
 さて一姉さまの神域には、二姉さまと三姉さま、そしてなぜか『愛』がいた。彼女の顔が青ざめているのは一姉さまの神力に当てられてだと思う。だってわたしを見たらあからさまにほっとしたもん。

「お帰り~『月』」
 一姉さまは沈黙し、第一声はなぜか二姉さま。
 ここ一姉さまの神域ですよね……なんで我が物顔なんですか?
「ただいま戻りました。なぜ『愛』がここに、と聞いても良いですか?」
「そりゃ~組み換えだよ。ウチらの場合、第七位『権』から眷属を持つことを許可しているんだ。今後、『愛』は『月』の眷属になるからよろしく~」
「三姉さまのところに行った豊穣ちゃんのような感じですか」
「まっ大体そんな感じ?」
 なんで疑問形なの?
 この場での『愛』の用事はそれだけだったようで、こちらの話が終わるまで、わたしの神域で待つようにと言われて帰された。

 『愛』が去り姉妹四人だけの空間に。先に帰されたということはここからはぶっちゃけトークOKってことだろう。
「わたくしたち第七位『権』の主な役割は神の育成よ。詳しい役割は後で話すとして、『月』にはいま育てている子が居たわね。その子も『無』に至ると判断したなら、二姉さまのところへ連れて行きなさい」
「三姉さまを通さずにです?」
「わたくしと貴女はもう同じ階位でしょう。わたくしの許可は不要よ」
 それは不安だな。
 助言は頂けるんだろうか?
「そそっ『大地』の言う通りだよ。神への昇格権限は『権』にはまだないから、ウチのところへ連れておいで、問題なければ『無』に昇格しちゃうよ~」
「質問してもいいですか?」
「『環』と『愛』の違いについてお願いします」
 聞きたいのはもちろん二人の扱いの方だ。

「育成している見習いについては書類に纏めて二姉さまに提出しています。その中で見込みありの子が直系に入るのだけど、『月』が聞きたいのはこれじゃないわよね。
 直系に入るかどうかの判断はすべて一姉さまが行います。わたくしたちはそれに従うだけよ」
 珍しい複合の素質があれば目に留まる? いやわたしも環も神性それを発現する前に直系となっている。一姉さまには【予見】の権能でもあるのだろうか。

「『月』」
「何でしょう一姉さま?」
「今後あなたに従属を申し出てくる者が来るでしょう。その際は『月』の直感で返答していいわよ」
「はい、判りました……?」
 なんだこの会話。下神の『権』ごときに従属なんて来るわけないだろうに。もしやこれも一姉さまの【予見】かな?

 一姉さまのところから自分の神域へ。初めての眷属だからと、一緒に三姉さまも来てくれるようで助かります。
「ただいま『愛』」
「お帰りなさい月先生と、『大地』神様」
「貴女、月先生と呼ばせているの?」
 呼ばせているわけではなく勝手に呼んでいるだけなのだが、いまは改めさせていないことを突っ込まれているのだろう。
「親しみやすいでしょう?」
「それが『月』の持ち味ならいいわ。好きになさい」
 許されたらしい。
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