下っ端から始まる創造神

夏菜しの

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25:歌

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 今日は二姉さまが管理を放り投げたけんぞくの先っぽにやってきた。ちなみに豊穣ちゃんの居たところとは違う枝らしい。
 何本枝があるんだろう?

 ここに来た目的は研修生を受け持ち、あわよくばそのまま神まで育てること。
 こちらの要望に対して、彼らが望むことは、一姉さまを頂点とした我ら姉妹との繋ぎを得ることだそうだ。とくにわたしと・・・・だそうだが……
 わたしなにかしました?

「なに言ってんの。『月』は下剋上成功させて第四位を喰ったじゃん」
「それ噂になってるんですか?」
「チッチッチ。噂にしてんだよ~」
 つまり派閥的なアレですね、把握です。そして知られたくない話を流されている座神の方は、今頃顔を真っ赤にしていることだろう。
 つぎ会ったら刺されてもおかしくないかも。

 そんな他愛もない話をしていると、黒系統のカジュアルな服を着た女神が現れた。髪の色も黒、瞳は茶。見た目こそ闇っぽいが、闇の気は感じない。
 なぜ確信を持っているかと言えば、神力が大幅に上がり、三姉さまの十八番だった、神性鑑定が朧気ながらわたしも使えるようになったから。
 じゃあ何の神かって、たぶん技巧系。
 その精度はまだまだ遠く及ばない……

「お久しぶりです。『白炎』様、こちらが?」
「うん。ウチの妹で『月』だよ」
「初めまして第八位『月』です」
「こ、こちらこそ。初めましてわたくしは第七位『歌』ですわ」
 ほうらやっぱり技巧系だった。

 〝歌〟は〝音楽〟の一部を特化した神性だ。〝歌〟が所持する権能は【音楽・歌】の二つだが〝歌〟は複合とは呼ばれない。
 何故なら『歌』は正式名ではなくて略名で、正式には『音楽(歌)』というからだ。技巧系の神はとにかくこういう特化した神が多くて、どうせ一緒の意味だからと正式名は略されて名乗られている。


 挨拶もそぞろに早速研修の準備を開始する。ちなみに二姉さまは顔合わせしたらさっさと帰っていった。忙しいのではなく面倒だから逃げたんだと思う。
 さて詳しく聞くと、今回の研修生の数は五人だそうなので、見本わたしのを加えて創る世界は六つ。いつも通り一つ創り、それをコピーして数を増やしていく。
「あのぉ『月』様」
「『歌』神の方はが上位の神なのに〝様〟は止めてください。格下のわたしに敬称なんていりません、呼び捨てで結構です」
「しかし『月』様はいずれ第四位『主』になられるお方でしょう。呼び捨てにするなんて恐れ多くてとても無理ですわ。むしろわたくしの方こそ呼び捨てにしてくださいまし」
 えー……この人めんどくさい~

「じゃあお言葉に甘えて、歌さんと呼ばせて貰いますね。歌さんも、わたしのことは、呼び捨てがし辛いならさん付けにでもしてください」
「本当にそうお呼びしてもよろしいのですか?」
「ええもちろん」
 すると歌さんの緊張が少しだけ解れたように見えた。

 あっそう言うことね。
 豊穣ちゃんの話によれば二姉さまの枝たちは、一姉さまとは会っていない。つまり彼女たちにとって、もっとも強い神は二姉さまである。
 そこに神力量だけなら二姉さまを超えるわたしがやってきた。きっと彼女は過去に、わたしが一姉さまから感じていた威圧感をずっと味わっていたのだろう。

 悪いことしたなぁ。そうだ。
「歌さん。今日のお礼に月の【機能】を差し上げますよ。
 何か希望があれば言ってください」
「本当ですか。でしたらお噂の『月光の聖剣』をお譲りください」
 それはバザールで売った後から、よく頼まれるようになった【機能】だけど……
 なんで噂になってんの?

 もともと『聖剣』に月の権能を足しただけの、とても創りやすい【機能】である。そこに注文過多による慣れも加わり、今では片手間で創れるようになった。
 悪い言い方をすると、大変原価率の良い優良商品だ。

 言われるまま、パパッと創って渡してあげたら、「これが神力の差ですのね」と呟かれて再び恐れられた。
 違うよ。わたしは怖くないよー



 やってきました研修生たち。
 五人の前には世界は七つある。なぜかあの後、歌さんが一つ受け持つことになり急遽足した。いまはとにかく数を稼ぎたい時期なので増えるのは大歓迎、喜んで増やしたよ。

 部屋に入ってからずっと、研修生がガヤガヤと私語を漏らしている。
 初めての実技研修なのでよくある話だけど、隣で様子を見ている歌さんの顔がどんどんと青褪めていき、非常に不味い状態になっているのでそろそろ黙ろうか。
「はい静かに」
 研修生はそっちがしゃべるのかとギョッと目を見開いた。
 過去の自分と照らし合わせれば、神力の量は判らなくとも、どっちの圧が強いかくらいは判っていた。そしてより強い方が先に声を上げるのは叱られるときと相場が決まっているわけで……

 歌さん真っ青。研修生も真っ青。
 前途多難です。

 いつも通り、研修生には一人ひとつの世界を管理して貰った。
 さて今回の研修生には世界を割る阿保は居なかったとだけ言っておこうかな。

 研修生たちの世界がすべて終わり、残った世界は二つきり。もちろんわたしと歌さんが管理している世界である。
 いつもはここで研修は終わりなのだけど、今回はどっちが永く残るのかと競争っぽくなっていた。
 なぜかなんて言わない。自分の世界を終わらせた研修生らが、どちらともなく応援を初めて、それに煽られた感じかな。
 わたしは負けても良いんだけど、歌さんが真剣なので手を抜き辛いんだよね……
 生真面目な人相手に、手抜きすると嫌われそうじゃん。

 さらに刻が流れていくが二人の世界は終わらない。
 さっきこっそり行った【信仰】の試算によるとこれ以上続けるよりも、いま世界を終わらせる方が採算が良いのだけど、どーしたもんか。
 いまの場の空気が、永く存続した方が勝ちになっていて壊しづらいんだよね。
 あー月落としたいわー

「え……?」
「あ、やばっ!」
「「「ハェァ!?」」」
 これは空から月が降って来て、わたしの世界が滅んだ時の声だ。
 最初が歌さん、次がわたしで、最後は研修生たち。
 落としてーと思っていたら、実はもう落ちてた。

 すっかり安定したと思っていた神力は実はまだまだ馴染んでいなかったようで、ちょっと暴走しちゃったみたい。てへぺろ。
 唖然とする歌さんにだけ聞こえるように『ごめん神力が馴染んでなくて暴走した』と念話で謝罪を入れておく。
 そして研修生たちには。
「えーと研修はここまで。研修生は報告書を書いて提出するように!」

 出てきた報告書の所感はすべて『月が落ちて世界が滅んだ』だった……
 ごめんね歌さん。
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