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トントンと、ちゅう

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 結界はなるべく早くが良いから、明日は一日作り置きをして、明後日には転移で王都まで行くことになった。
 ココさんはチッチの部屋の隣の部屋にお泊り。僕はチッチが寝付くまでは隣にいたくてトントン。

「おにーちゃん!」

「うん?眠れない?」

「チッチねぇ!もうとんとんいらないよぉ!」

 ぷんぷんしてるの可愛いでしかない…

「聞いてますか!」

「ふふ。うん、聞いてるよ?でも淋しいし可愛いしで…だめ?」

「だめです!おにーちゃんはだんちょーさんのおよめさんでしょう?だんちょーさんからはなれちゃだめだよ!」

「ええ…家の中にいるんだから大丈夫だよ…」

「つがいはいっしょなんだよ!おうちはずっと!」

 だからはやくあっち行ってと言わんばかりにしっぽがうねうね。

「あああ…チッチ可愛い。チッチ大好き。」

「チッチもおにーちゃんだいすき!おにーちゃんかわいい!でもだめですぅ。チッチはひとりでねるの!もー、いっかいだけすはすはしていーよぉ。」

 チッチからお許しが出たから抱き上げてむぎゅう。顔をふかふか毛並みに埋めさせて貰う。はぁ、幸せ。

 ココさんにもドア越しに挨拶をして寝室のシュロの元へ。チッチは反抗期とかあるのかな…?僕しぬかも…と真顔で告げれば苦笑いのシュロ。手招きされてシュロの、チッチよりもふかふかな胸に囲い込まれる。

「獣人は親離れがはやいぞ。」

「…ん。覚悟しとく。でも僕兄だから。」

 親でなければ親離れもなにもないのではないか。

「チェチリは素直に成長しそうだが…なんせ山猫だしな…」

「え!猫とか関係あるの?」

「猫の中でも山猫は気まぐれで我が道を行くタイプが多い。ただ、好きなものには一直線だ。」

 なるほど。

「シュロは?」

「俺は狼だからな…番を囲い込みたいし、一緒に生きたいし、一緒に死にたい。」

「…なるほど。」

「まぁ、前にも言ったかもしれないが…重いんだ。」

「ふふ。」

 耳をぺしょりとしながらも僕に巻き付くしっぽ。

「ヒカル以外いらないなんて生易しい感情じゃなくてだな、ヒカルだけが欲しいんだ。」

「くふっ」

「あぁ、可愛いな。ほら、もう寝ような。」

 さっきまでチッチを抱っこしていたけれど、今度は僕が抱き上げられてぽすり。

「胸を叩いてやろう。」

「…トントンはいらないけど。聞こえてたの?」

 え、どれだけ…どれだけ耳が良いんだ?

「…怒ったか?」

「別に怒らないけどさ、凄いなって。」

「意識しなければ音や声は聞こえないのだが無意識にヒカルの動向を探ってしまっていた…すまない。」

 嫌いにならないでくれと呟くシュロ。

「可愛すぎる。」

「可愛くはないだろう…」

「とても可愛いです。」

「何で真顔なんだ…」

 真顔にもなってしまう可愛さ。言ってる事が可愛いのにおまけにもふもふだなんて。格好良くて可愛いシュロと婚姻を結んだ事がまだ信じられない。

「あれ、もしかして今日が僕たちの結婚記念日になるの?」

「うん?記念日か…あまり気にする者はいないが、ヒカルの国では祝うのか?番などはないと言っていたが。」

「うーん、入籍した日をお祝いしたりはすると思う。人それぞれだろうけど、ささやかなプレゼント交換とか、美味しいもの食べたり、何年経ってもその日を思い出したりするの、素敵じゃない?」

 うむ、と悩むシュロ。所変わればってやつだなぁ。

「何年経っても思い出すというかな、毎日毎朝毎晩いつでもヒカルを想っていつでもこの日を思い出すだろうな。」

「え。」

「初めて出逢った日も一緒に眠った日も、手を繋いだ事も尻尾を掴ませた事も、常に何度でも思い出す。…もちろん、番となった日もな?」

 きっと近々つがいとなる僕たち。ちょっと…顔があっつい。

「可愛いな。」

「可愛くないです…顔、あつい。」

 シュロの言葉は真っ直ぐで熱い。

「ほら、今日はもう寝ような。」

 トントンではなくぎゅっと抱き締めて背中を優しく撫でられる。

「ヒカル、毎年この日はどんな事があっても抱き合って眠ろう。」

「…ん。」

「美味いものを食べたり、互いに贈り物をしたりもしよう。」

「…ん。」

 結婚記念日という風習がなくても寄り添ってくれるのが嬉しい。
 寝転んだまま、首に腕を回してシュロの鼻先に口づける。

「んんっ、」

 鼻にちょんとキスをしたのに、ペロリと唇を舐められて舌が入ってくる。

「ふっ、あ…」

 大きな舌が歯列をなぞって口の中を行ったり来たり。僕はどうにも出来なくてシュロの胸のもふもふを握りしめるしか出来ない。

「んんー!」

 クチュリと最後に水音がして、僅かに離れたシュロの首筋にぽすり。はふはふと息を整えていれば、指の間にシュロのふかふかの毛がついている。
 ごめんね、と伝えたいのに呼吸は乱れているし、シュロの首に埋めた顔をあげたくない。少しも離れたくないのもあるけれど、きっと真っ赤。

「ヒカル?嫌だったか?」

 そんな僕にお構いなく、頭をぽんぽん。

「…なでてて。」

「承知した。」

 頭と背中を優しく撫でられ、やっと一息。

「たくさん毛抜いちゃった…ごめんね?」

「そんなの良い。これくらい痛みも感じない。」

 シュロの鼻先も僕の髪に埋まるのを感じる。ぴったりとくっついていることにひどく安堵してやっと顔をあげることが出来た。

「すき。」

「俺も好きだ。…もう一度しても?」

「…ん。」

 ほっぺをがじがじとされながら了承した。

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