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灰色ネズミのおばあさん
しおりを挟む帰宅して、珈琲を飲みながら庭を駆けるチッチを見ていたら、見知ったネズミの魔術師さんがいらした。
魔力の通り道を広くするようにと教えてくれた魔術師さんは灰色ネズミのココさん。ネズミのおばあさん…小さくておとぎ話に出て来そうな可愛らしいおばあさんなのだ。
「こんにちは、先日はありがとうございました。お陰様で大きな魔力、出来ました…!たぶん結界もできます!」
「はい、聞きましたよ。ヒカルちゃんは頑張り屋さんねぇ。不調はないかしら?」
「シュロとくっついていたいくらいです。」
「ほほほ、それは良い事ねぇ。少しお話しましょう。」
シュロとくっついていたいと告げるとシュロのしっぽもパタパタ。はぁ、可愛い。
「チッチちゃん、クッキーを持ってきたわ。一緒に食べましょうか。」
「チッチねぇ、クッキーすきだよ!おばあちゃんありがとう!あのちょーちょ捕まえたらたべるねぇ!」
走ってココさんに抱き着いてまたてっちてっち走って行くチッチ。はぁ、こっちも可愛い。
チッチの目の届くところに居たいから、庭のガゼボにお茶の用意。今まで一人でお留守番していたと聞いたけど、やっぱりみっつの子を一人で遊ばせるには抵抗がある。チッチは全然気にしないみたいだけど…うん、過保護だと思われても良いから見ていたい。
紅茶とココさんが好きなドライフルーツ入りのパウンドケーキ。
紅茶を飲んでホッと一息ついたココさんに結界をやってみて良いかと問う。
「そうねぇ、じゃあ今から地の騎士団長に炎弾を放ってみるから結界で防いでみてもらおうかしら。」
「え…もし失敗したら、シュロ焦げちゃう…?」
「焦げない」
「やあねぇ、私の攻撃がこの方に効くわけないじゃない。はい、投げるわよ~。」
とりあえずどんなものかやってみせてと促され、頷くと同時に放たれる炎の弾。わ、沢山…
思わずシュロだけじゃなくココさんとチッチにも炎が行かないように結界を張る。キィンと音がして、炎の弾が雲散される。みんな無事で一安心。魔力が練られてそれが1度に外へと出る感覚。……シュロのしっぽ触りたい。そっと右手で触れようとすれば気がついたのかしっぽで顔をスリスリ。その後にココさんに断りを入れてから椅子を隣に移動してぴったりとくっついていてくれる。
「ほほほ、仲良しねぇ。」
うぅ、恥ずかしい。でも離れたくない。安心する。
「ヒカルちゃん、この国の為に結界を張ろうとしてくれてありがとう。」
小さなココさんの手が僕の手をきゅっとする。
「地の騎士団長とはこの先どうするつもり?」
「番う。」
「ほほ、貴方には聞いていませんよ。」
「えと、シュロとずっと一緒にいたいです。シュロが好きです。その、つがいになりたいと思っています。そわそわしたり離れたくないのも落ち着くのですよね?」
「そうねぇ、それは個人差があるでしょうけど、まずお互いの事しか見れなくなるわね、番の心情や匂いなんかにも敏感になる。地の騎士団長くらいになるとヒカルちゃんがどの辺りにいるかとか、危険が迫ったらわかっちゃうかもしれないわね?」
それは…ファンタジーだ。冗談なのか本当なのか…
「あとは…良いところだけじゃなくて悪いところで言えばね?……番ったらもう逃げられないわよ。」
「…ココ。」
「おばあちゃんはね、そりゃあ幼い頃から知っているシュロ様も心配だけど、異世界から急に使命を持って渡ってきたヒカルちゃんも大切なのよ。」
ぺしょりと下がった耳としっぽ。その姿で体の向きを変えて僕に向き合ってくれる。
「狼の獣人はただでさえ執着が酷い。番うと決めたら一生相手は変わらないし、逃がしてもやれない。逃げられそうになったら閉じ込めてでも愛し続ける。……だが、今ならまだ間に合う。番う前なら…」
「そんな、シュロは今なら離れられるの?」
僕はもう、無理。シュロがいない生活は考えられない。
「すまない、もう離してやれない。だが、本能とは違って理性ではヒカルを無理矢理縛り付けたいとは思わないんだ。だから、もし少しでも迷う事があるならココに魔術で抑えて貰っている間に逃げてくれ。」
「僕はシュロとずっと一緒にいたいよ。逃げろなんて言わないで。」
「…ヒカル。」
思わず涙が溢れてポタポタとテーブルに落ちる。あらあら、とココさんがハンカチで優しく僕の頬を拭ってくれる。
「意地悪言ってごめんなさいね?ただ、ヒカルちゃんには狼の執着をちゃんと理解してから番って欲しかったの。地の騎士団長は意外と臆病なのよ。」
更に耳がぺしょり。
「すまない。一生離してやれないが一生大切にする。」
「ん。僕ももうシュロを離せないからお互い様だよ。」
「ほほほ!じゃあ解決ねぇ。早速だけど書面上だけでも番っちゃいましょ!」
「えっ、今ですか?書面上…?」
僕の頭にはハテナが沢山。
「まずは婚姻関係を結んだ方が良いわ。あのね、結界が張れるというのはこの国だけでなく他国からも狙われてしまうの。地の騎士団長は継承権を放棄していても王族、地位もある。それだけで簡単に手出し出来なくなるわ。」
なるほど…?
「番うのは…二人のペースで良いと思うわ。」
「ちなみにつがうって言うのは具体的にはその、どうやって…?」
「うん?まぐわって、項を噛むの。ヒカルちゃんはヒトだから体格が違うから…時間をかけなさいね。」
顔から火が出そうだ…熱い。
「ココ、あまりヒカルをいじめるな。」
「あらまぁ、地の騎士団長こそヒカルちゃんをいじめ過ぎないようにね?あぁ、それと…チッチちゃんの母親の事だけど…」
「何かわかったのか?」
実は呪縛と隠密が得意と言うココさんは走り疲れて木陰で丸くなるチッチを見つめる。
「チッチちゃんの母親だけじゃないのよ、ある日急に消えちゃうの。ここは魔獣が出る土地だけど、魔獣に襲われたらわかるわ。血や持ち物なんかは残るもの。」
「あぁ、母親の狩りや素材を集める辺りにはそんな痕跡はなかった。」
「隣国は結界を張って他国との繋がりを次々に絶っているわ。でも、国内だけで全てが賄えるはずもない。限界があるわ。奴隷制度のある国から沢山の奴隷も買っているのよ…それでも働き手は足りてはいない。」
それって…誘拐…?
隣国を思い浮かべて背筋がぞくりとした。
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