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お兄さんは一緒にねんねしないらしい
しおりを挟む鼻と鼻をくっつけて、ぎゅっとシュロの背中に回した手が彼のしっぽに触れる。
「逆立ってる?」
「…ヒカルが近いからな。」
「昨日もぎゅうしたよ?」
「鼻が触れたからな。」
鼻はだめなの?散々僕にフンフンしておいて?僕のジト目に気づいたのか頭にしっぽが乗る。
「しっぽでさわさわすれば良いと思ってるでしょう?…もー、しっぽ良いなぁ。」
「ははっ!尻尾などあってもなくても関係ないと思っていたがヒカルがこれ程気に入ってくれているのなら、尾を持って生まれてきた事に感謝しよう。」
「胸のフカフカに埋もれるのも至福…」
「いつでも埋まってくれ。」
いつでも…フカフカな毛並みに頬をつけて目を閉じる。胸だから心臓の音が力強くドクドクと聞こえてそれも凄く落ち着く。
ぐるるる…とお腹の音に思わず噴き出した。
「朝ごはんにしよう?」
「あぁ。」
手を差し出せばそっと握ってくれる。
いつの間にか探検を終えたチッチも寝室へと戻ってきていて、皆で団子のようにくっついてリビングへ向かった。
「シュロは今日はお仕事行くよね?時間大丈夫?」
食後のコーヒーを出しながら疑問に思い問いかける。
「いや、異世界からの使者の保護を第一優先にするようにと御達しがあった。指示は出しに行くが。」
「そうなの?え、大丈夫?挨拶とか…する?」
正直、結界が張れなければただの子ども食堂の店主だから…ってか使者とか信じてくれているのだろうか。
「あー…」
耳がぺしょり。僕に隠し事出来ないの不便過ぎない?
「ヒカルは急な事で驚きを隠せておらずいきなり連れて行く事は出来ないと…すまない、勝手に。」
あぁ、しっぽも椅子の下へと入っていく。
「僕は良いけど、シュロは怒られない?食堂は開けちゃって大丈夫?」
取り乱してたら食堂出来ないよね…
「通信機を使い陛下と兄上には説明してある。獣人を怖がることもなければ、孤児たちの事を考え行動してくれているとも。感謝していた。予算も割くと言って貰えたから欲しいものは遠慮なく言ってくれ。」
「そうなの?とりあえず食堂の事怒られなくて良かったぁ。じゃあ何でわざわざ他の人に嘘を?」
「……暫くは俺の目の届くところに居てほしい。気丈に振る舞っていても昨日の今日だろう?」
運命だと告げたら逃がすな捕まえろと助言を貰ったと。あああ、塞がっていく耳かわいい。
「僕も離れるのは淋しいから嬉しいよ。でもお仕事優先してね。」
「あぁ。立場上どうしても有事の時は出なければいけない。だから暫くは良いだろう。」
しっぽも耳もぱたぱたしだすものだから、ついつい笑みが溢れる。
「ヒカルは何をしていてもどんな表情でも可愛いが、笑顔は一際可愛いな。」
「わかるー!おにーちゃんかわいい!」
「何それ。褒めても何にも出ないよ?」
シュロのカップにコーヒーのおかわり、チッチのコップにはミルクのおかわりを注ぎ入れると可愛い可愛い連呼され、また笑ってしまった。
その後客間を整える為に掃除をし、皆でお買い物。チッチ曰く偶になら良いが3歳のお兄さんとして毎日一緒に眠るのはちょっと…との事。そんな事ある?遠慮して…と思ったらそんなものらしい。10歳くらいまで祖母と寝ていた僕としてはとても複雑であるし、シュロとチッチと毎日寝たいと告げた時のチッチの生暖かい表情は忘れられない。
「おにーちゃんはヒトだから…ひとりでねんねしないほうがいいよ!だんちょーさんといっしょならあんしんだね!だいじょうぶだよぉ!」
そう励まされた。チッチは3歳にして母親と寝ていなかったらしい。獣人の成長ははやいと言うけど、本当にその通りで驚く。
「あ、シュロ。ここの塗料屋さんみても良い?」
「勿論。何をするんだ?」
「せっかくこの国の言葉がわかるし、黒板?白板?作って文字と簡単な計算とか教えられたらなって。子ども食堂では勉強もみてたんだよね。」
素人だけど小学生くらいまでなら教えてあげられる。孤児の識字率は低いと教えてもらってから考えていたけれど、紙は高価そうだし白い板を使って炭で書けばいけるかな…?
「無理強いはしないし、やりたい子だけ…どうかな?」
「孤児院では生きる術をメインに教えているから文字を覚えられる子は僅かだったな。素晴らしい事だが、ヒカルの負担が増えないか?」
「大丈夫だよ。夕方から夜にかけてだから昼間は休めるもの。本当は朝食も作りたいけど…とりあえず簡単なお弁当とかは渡せたら嬉しいなぁ。」
ぴくぴくぱたぱた。ふふ、チッチもひげがピクピク。
「昼もか。それは子どもたち以外にも売れそうだな?楽しみだ。」
「チッチもー!チッチもおてつだい!するね!」
「うん。お手伝いしてくれたら嬉しい。でも朝は寝ていても良いよ。チッチはまだ寝ることと食べることがお仕事の年齢だよ。」
ハイッと手をあげての発言が可愛らしい。
「そうしたらね!チッチもおべんきょうしたいな!」
「うん。じゃあ少しずつお勉強しようね。」
「わぁい!」
幼いのに働いている子達も読み書きが出来れば仕事の幅が広がるかもしれない。本来なら学校へ通っている年頃なのに。
自分が置かれていた環境がいかに恵まれていたかを思い知る。
「今日の夕食はハンバーグにするね!」
「はんばーぐってなぁに?」
「細かいお肉を混ぜて丸めて焼いてソースをかけたお料理…かな?」
「おにく!よくわからないけどおにくすきだよ!」
「俺も肉が好きだ。」
ぱったぱったと大きく揺れる二本のしっぽ。
「あー、癒やされる…」
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