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幸せ空間
しおりを挟む「いいにおい~!」
「そろそろかな?手洗っておいで。」
「はーい!」
こどもたちの手洗い場も欲しいな。水道って作れるかなぁ。
「おにーちゃーん!とどかないよぉ。」
「そっか、そうだよね!ごめんね?踏み台はないし…とりあえず抱っこね。」
「もうスハスハしないでねぇ。」
「えー」
抱っこして背中に顔を埋めてすーはーしてチッチに怒られたばかりなのだ。
「だめだっ、我慢出来ない!もふもふさせてぇ!」
手洗い後にわざとふざけて追いかけてみれば楽しそうに逃げ回るチッチ。はぁ、可愛い。
「捕まえたっ!」
「えへへ、捕まったぁ!」
走って、ぎゅうして、もふもふ。
くっついて笑っていればドアの開く音がしてシュロが帰ってきた。
「何をしているんだ?」
「だんちょーさん、あのね、おにーちゃんね、チッチをもふもふってしたいんだって!チッチさせてあげてたの!」
「そうか、良かったな。」
「チッチはお手伝いもしてくれるし、強いし偉いし優しいんだよ?」
「おにーちゃんはもふもふが好きなんだって!」
抱き上げたチッチの背中に顔をぐりぐり。キャッキャと声があがる。
「俺の事もいつでもやって良いぞ。」
真顔。真顔でしっぽがパタパタ。
「ふふっ。シュロもありがとう。」
太くてかたくてもふもふな腕に頬を乗せて顔を見上げればしっぽでなでなで。……器用だなぁ。それにしてももふもふに挟まれて幸せ!
「……くぅ。」
可愛い音に下へ目を向ければお腹を擦るチッチ。
「チッチおなかすきました。」
「わ!ごめんね、ごはんにしようね。」
この家には四人がけテーブルがひとつ。テーブルも椅子も獣人さんサイズなのか大きい。
「チッチ座れる?抱っこしようか?」
「だいじょうぶだよ。」
「俺の膝にくるか?」
「もうっ、チッチはみっつになったんだから、だいじょーぶ!」
「そうか、もう3つか。無理だったら言え。」
「はーい!」
椅子に膝立ち…これは椅子を要改良だな。
「はい、熱いからね、気をつけて。」
「んんっ…!あちっ、あちちだけどおいひい~!」
ほっぺた赤くして、はふはふ。可愛いなぁ。
「美味い。」
シュロは大きな口で大きなスプーンを使ってばくり。あ、牙。牙かっこいい。
「本当?良かったぁ。シュロは狼さんだけどお肉とかの方が好き?」
「そうだな、まぁ肉は好きだが、何でも食うぞ。野菜も肉も魚もバランスは気をつけている。身体作りも仕事のうちだからな。まぁ、肉が好きだが。」
「うん、次はお肉料理に挑戦するね。」
「チッチもおにくすきぃ!」
もぐもぐあぐあぐしていたチッチの顔を見て思わず声を上げる。
「ふはっ、お顔が美味しそうだよ…?」
濡らしたタオルで顔を拭いて、デザートに林檎を剥いてあげればショリショリ。あ…こっくりこっくりしている。
お母さん、待ってるんだもんね、眠いよね。ソファーへ寝かせて、2階にあった毛布をシュロが持ってきて魔法で綺麗にしてかける。
「珈琲でも淹れようか。他の小さな子たちはお腹すかせてないかな?」
「手伝おう。孤児院へ入れない年齢の子たちは夕方にならないと帰らない。」
じゃあチッチがお昼寝から目覚めたらまた一緒にグラタン作って配ろう。
そう考えながらマグカップを出して保管庫から珈琲豆を探してガリゴリと挽く。欲しいものが何でも出てくる…すごい。試してみたら食材限定だったけど、本当に助かる。
「マグカップ使っても良い?」
「ヒカルには大き過ぎないか?」
「中身は少しにするから大丈夫だよ。」
珈琲を飲んでホッと一息。
「えっと、チッチが寝ている間にお母さんの事を聞いても良い?」
「あぁ。その前に、あの子の名前はチッチではなくてチェチリな?チッチは愛称みたいなものだ。」
「みたいなもの?」
「本人がチェチリと発音出来なくてチッチと言っていたら周りもそう呼ぶようになったんだ。」
何それかわいい。
「あの子の父親は地の騎士団でな、強い男だった。3年前にデカイ魔獣が出るようになってその時に…な。」
魔獣…強い騎士団の人でも敵わない程なのか…
「母親は冒険者だったが、あの子が生まれてからは近場で狩りをしたり簡単な依頼を受ける程度で…夜に家を開けることはなかった筈なんだ。薬草採取の依頼を受けて森へ入ったところまでしか足取りは追えなかった。」
「そっか…何事もなく帰って来てくれると良いけど…」
「あぁ、それで帰りにこの街の孤児院も見てきたが、チェチリが入ると7つの子が出なければいけなくなる。只でさえ人数を大幅にオーバーしているからな。だから、うちで面倒をみようと思うんだ。チェチリの父には生前世話になった恩もあるしな。」
「え、シュロのところ?」
勝手にだけど、お母さんが見つかるまではチッチはこのままここにいてくれると思ってた。異世界の夜も、もふもふにゃんこなチッチがいればさみしくないと…思ってた…でも…そうだよね。僕より地の騎士団の団長であるシュロの方が…良いよね。
「嫌か?」
「え!ううん!全然嫌じゃないよ。ただ…」
「ただ?」
「チッチは今日はここにお泊りだと思ってたから…僕もさみしくないなって思ってて、だから、あの、本当に嫌じゃないの。」
もふもふ抱きしめて寝たかった…
「うん?さみしい?ここで寝る…?」
「うん。異世界の夜だしひとりは少し不安だなって思ってて…」
「うん?ヒカルも俺のところだろう?ここらは観光地ではないし魔獣は出るしで宿は冒険者用の宿くらいしかないぞ。」
「え?」
「…俺の家は嫌か?ここにはベッドもないし、一人になんて出来るわけがないのだが。」
あああ、ぺしょって…耳が伏せられて、しっぽもぺしょり。
「いや、逆に僕も良いの?」
「すまない。浮かれてしまって、勝手に一緒に住むと決めつけていた。」
「シュロのお家にお邪魔しても良いの?」
「当たり前だ。だが、うちには通いの使用人がいるくらいだから生活は質素だぞ?」
「シュロがいれば良いよ。」
驚くほど素直に言葉が出た。シュロがいれば良いって恥ずかしくなってきた…いやでもシュロと離れたくないのは継続中なのだ。
パタパタと高速で動くしっぽを見て羞恥心が和らぐ。大きくて尖った爪も牙も怖いはずなのに、こんなに心が落ち着くのは何故だろう。考え込むが泣き声に我に返る。
「ふぇぇん…おかしゃぁん…」
ひんひん泣くもふもふちゃんを毛布ごと抱きかかえてトントン。
暫くすればまたすーすーと寝息が聞こえる。
「ゆっくりおやすみ。」
チッチを抱いてゆらゆら揺れる僕をみて、シュロが微笑んで手招き。
膝の上にそっと抱き上げられて僕ごとゆらゆらしてくれた。何この幸せ空間…もふもふ抱いてもふもふに抱かれてる。しっぽもぱたぱた。
「…良いなぁ。しっぽ。」
楽しそうな笑い声を聞きながら僕も眠りに落ちた。
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