ひきこもぐりん

まつぼっくり

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給餌は幸せ

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 日々は忙しなく回る。
 僕は話す練習を毎日毎日、本当に毎日行った。
 この世界で生きていく上で、話せないと何も進まないから。帰りたくても望みは薄いし、なんと言うか…ジズといるとふあっとする。ふあっとして、ふんわりして、落ち着くのだ。あの翼の中は真っ暗で、でも暖かくて、ジズの心臓の音がどっくんどっくん響いて…あーもう、落ち着くなぁって。つがい補正なのか何なのか、一緒にいるのが当たり前に感じてしまう。





「シャルせんせー、これここ?」

 最近では暗いシャルの部屋で片付けまで手伝えるようになってきた。

「また先生だなんて。リュート君こそ先生でしょう?」

 おいそこで顔を赤らめるな。僕がエロ本作家みたいじゃないか。…うぅ、否定は出来ないけど。

「先日の新作も素敵でした…」

 手で顔を覆ってもじもじ。でもね、その気持ちわかるよ。今描いてるのは街中の本屋で同じ本を取ろうとして手が触れてアッてなって、その後新しい職場で再会するというベタ中のベタなお話。ベタな世界にお似合いのベタなお話。
 それをね、シャルに絵を見せながらセリフを口頭で伝えて、文字を書いてもらっている。
 一冊分出来たら例の新人君にも読んで貰って、新人君が鼻血を出す程に興奮したら出版社代わりのギルドに出してもらう。ここで複写してもらって、本にしているのだが…残念な事に僕の本はエロ本扱い。でも、中にはシャルのようなお腐れ様もいるって聞いた。新人君…アイ君もその中のひとり。
 僕もシャルも太陽が苦手だから、仲間が欲しかったのだ。 



「リュー、新作出来たんですね。ぜひ読ませてくださいね?」

 今日のお勉強とシャルのお手伝いはお昼で終わり。迎えに来たジズに暗幕でくるまれて運ばれながらのおしゃべりはとても穏やか。新作をジズに見せるのはちょっと恥ずかしい…でもね、新作を出すとしっかりがっつりと感想を貰うから…うん、読まれてるね。いや~、身内に読まれるのは恥ずかしいよね!…いやなんだ身内って。ジズは身内じゃない。血の繋がりはないし、家族じゃない。う、うわぁ何だか恥ずかしい、BL読んで落ち着こう。自問自答して、慌てて本棚へ。思わず手を伸ばしたのが鳥獣人もので赤面。あ、いや、でもこのBLは大鷲とウサギちゃんだもの。ジズみたいに格好良いとか思ってない。…ちょっとだけしか。

「……ッ!」

 背表紙に指をかけたところで手に何かが触れて思わずびくりと手を引いてしまう。

「…なるほど。このシチュエーションはドキリとしますね。」

 引いた手をキュッと握ってにっこり。引き抜こうと無言で引いても抜けない。

「ジズ…」

「リュー、可愛いです。」

「…っ!も、いや。」

 元々赤くなってたほっぺを空いてる方の手でパタパタと扇ぐ。

「…もー、」

 ぎゅってして、ほっぺすりすり。

「ご飯にしましょうか。今日は大盛シチューですよ。」

「シチューすき。」

「わたしは?」

「え?すき、だけ…ど。あ、ちょっと待って、いまのなし!」

「ふふふ。いつまででも待ちますよ?」

「…もおおおおお。」

 握られている手の甲にキス。王子か!似合いすぎて心臓がばっくばく。

「食事にします?」

「…しますっ!」

 ふわりと微笑んで笑いながらテーブルセットするその姿は優雅で本当に王子さまみたい。
 あー、召喚されて王族に嫁ぐ系も良いよね。可愛い系も美人系も良いけど、元の世界じゃガタイ良い攻めだったのに召喚されたら「巨人の国…?」ってなっちゃうのも勿論良いよねぇ…体格差ありで…あ、でもでもやっぱり体格差ありだったら華奢でふわふわしてる受けちゃん良いよね…頑張って受け入れちゃう健気な子でさ…不憫な境遇だった受けちゃんが心開いて、攻めを受け入れて、おちんちんも受け入れて…くふふ。王道テンプレだけどやっぱり良いよね。…んぐっ、このシチューめっちゃおいし。とろとろクリーミーなホワイトシチュー。それでさ、やっぱり攻めは受けのことでっろでろに甘やかしてでっろでろに溺愛だよね?これがガチムチ受けだとケンカっぷるも美味しいけどさ…うむむ、生野菜はあんまり…茹でてくれたらとても嬉しい…いや、そんな贅沢言っちゃだめだよね、うん。居候に人権なし…!それでさ、そのケンカっぷるだけど、

「おかわりしますか?」

「お願いしますっ…!…あれ?」

 気がついたらめっちゃ食べさせて貰ってる…えぇ…ジズすご…兄嫁ちゃんみたい…兄嫁ちゃんは僕が没頭してるとおにぎりを口のちかくで固定してくれたりしてたけど、ジズはいつの間にかしっかり食べさせてくれてる…こわ。すご。

「はぁ、雛鳥のように給餌させてくれるなんて…リューは最高のつがいですね?」

「そういうの、すきなの?」

「えぇ。好きです。今まではこんな感情など湧かなかったのに、今はリューのお世話がしたくて堪らないんです。自分の巣へ連れ帰って閉じ込めてしまいたい。」

「…なるほど。」

「引きますか?…すみません、本当に閉じ込めたりしません。だから、怯えないでください。」

 いや、うーん。

「…僕、基本的に引きこもりたいから。正直願ったりかなったりと言うか…まぁ、BLは見たいけども。シャルとアイ君には原稿届けなきゃだけど。たまに夜ジズと外に出れれば大丈夫。」

 うん?あれ?これだと何だか受け入れたみたい…?っていうかちょっと待って。さっき巣って言った…?僕、オメガバースの巣作りしちゃうのほんと…好きで…!可愛いよねぇ。受けちゃんの発情期につくる可愛い巣も、攻めが囲い込む為の巣も、どっちも良い。
 …ジズの作る巣はどんな巣なんだろう。やっぱりカラスだからキラキラビー玉なんかの光り物があるのだろうか。それともその漆黒の翼のように、ほわりと太陽の匂いがする暖かい巣だろうか。そこに入るのは、僕。他の人がその巣に入るなんて、考えただけでも…いやだ。これは本能?それとも…?

「わっかんないなぁ。…んむっ、あまぁ。」

 デザートの桃みたいなフルーツの爽やかな甘味が口の中に広がる。
 よしよしと頭を撫でられ顔をあげれば満足そうなジズ。

「いつまででも待てますからね?」

「…うん。」

 いつまでも待たせる気はない。まずは帰る方法を探してくれると言った事について追及しよう。だって、そこが一番引っかかる。
 本当に好きなら本気で帰る方法なんて探せないはずだから。



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