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ドーナツもぐもぐ
しおりを挟むシャルはこの漫画の言葉が読めないのに、凄い。絵だけでも伝わるなんて神作家さんのBL凄い。やっぱBL凄い。国境ならぬ世界まで越えた。
それにしても…この部屋落ち着く…真っ暗で蝋燭の炎が揺らいでて…ねむ…ねたい…寝るのだいすき。あー、これで穴とかあったら更に最高なのに。大きい籠とかでも良いんだけど…お金稼げるようになったら絶対買おう。大きな籠買って、横向きにくるんて丸まって寝よう。うん…良い。ここに置かせて貰えるかな…BL本献上すればいける気がしてきたぞ。
シャルのお勉強は絵入りの単語の本を使う。とっても分厚くて、重い…これをひとつずつシャルに読んで貰って、僕は母国語で横に書き込んでいく。とりあえず、この本の全ての単語が埋まるまではここに通わせて貰う事になった。
「リュー、迎えに来ましたよ。」
そっと扉を開けた隙間から体を滑り込ませるようにジズが入室。
手に持った暗幕を広げて、僕をすっぽりと覆う。そしてそのまま横抱き……ふぁ、見たいなぁ。壁になってお姫様抱っこ…見たいなぁ。残念ながら相手は僕だけど。暗幕で誰だかわからないからそれでも良いか。
「ぼく、歩く、する。」
「羽のように軽いですよ?」
歩けるよ、布被って歩けるよ、重いっしょ?と言いたいけど、まだ話せる言葉が少ないから歩くという事だけ伝えるけど…けど…
ねぇ、羽のように軽いって、異世界で言われる言葉上位に入ってない?抱き上げられて、はわわってなって、言ってもらうの。ちゃんと飯食ってるのか?羽のように軽いって。良く考えたら人ひとり横抱きに出来るのって凄すぎない?それでスタスタ歩いてるんだよ?それで羽のように軽いって…あー、だめだBLじゃん頬にやける。あ、僕はびっくりする程食べてるけど。少食じゃないけど。
「…くふふ。」
「隠れてて笑顔が見えないのが悔やまれますね。」
「ジズは良い攻め。」
「え?すみません…名前しかわかりませんでした。」
「ジズ、かっこいー。」
「………」
…無視?無視なの?悲しい…とちょっぴり暗幕を捲って覗いてみる。
「それは反則でしょう…」
ほっぺをほんのり赤く染めて、前を向いて歩くジズ。すれ違う隊の人に挨拶されても平静を装って僅かに頷くだけで歩みを止めずスタスタ。
これ僕しか気づいてないのか。そっかぁ、美味しいな。ちょっとだけ、抱いてくれている腕がきゅっと僕を強く抱き締める。
「くふふっ。」
「笑わないでください。」
間髪いれずに返ってきた言葉に思わず笑い声をあげた。
部屋に戻って、暗幕を被ったままちらり。
あ、これ知ってる。必然的な上目遣い。ごめんごめん、こういうのドキドキしちゃうよね。うん、そんなに見つめないで。僕もドキドキしてきちゃう。絶対キスする雰囲気なのに、ジズはやっぱりおでこやほっぺにちゅっちゅするだけ。いや、いいけどさ。
「ジズ、食堂、いく、したい。」
「食堂?今日は食堂で夕食にしますか?あぁ、でも、今日は混み合いますよ?」
「はい。ぼく、でる、する。」
「…え?」
「ぼく、たくさん、たべる、する。」
本日は月に一度の辺境騎士団大食い選手権…らしい。シャルが言ってた。
何でも屈強な肉体を誇る騎士たちが食って食って食いまくる食の戦い。賭け事としても人気らしく、一番人気はやっぱり隊長。
「確かに普段から沢山食べていますけど…」
ジズは知らない。僕は普段かなり我慢している。もぐらってね、本当に大食漢でね、食べないと動けないの。だから少しずつ時間をかけたり、間食が多いんだけど、本当は一度に沢山食べることが出来る。むしろ食べたい。でも居候だから…人権ないから…
だからこれは、挑戦してみたい。掛金の中から賞金も出るって聞いたし…うん、賞金もだけど、遠慮しないでドカ食いしたい。人混みは苦手だけど、隊長が受けになるところが見たくて、たまに夜の食堂ウォッチングしてるんだ…こっそり物陰から……ジズも着いてくるけど。ガチムチたちがチェスみたいなものやカードなど、卓上のゲームをきゃっきゃしてるのも…美味しい。たまに付き合ってるのか腰を抱いて座ってるカップルみるのも美味しい。
「は?こいつが出るのか?」
「…私のつがいをこいつ呼びしないで頂けます?」
「……あー、リュートが?」
なにこいつ面倒くせぇとぼやく隊長の足をぐりぃっとかかとを使って踏みつけるジズ。なんでも、この二人は異母兄弟で、仲良しらしい。こっちだと一夫多妻もありとの事で珍しいことではないとにっこり。
隊長と副隊長ではあるが、就業時間外は仲良し兄弟だ。うん、おにぃを思い出す。おにぃよりも優しかった兄嫁ちゃんたち。僕が食べてる姿が大好きだと言って、「ひきこもぐりんの日常」というチャンネルを動画サイトに開設して、地味に僕のおこづかいを稼いでくれてた兄嫁ちゃんたち。顔出しNGで基本引きこもって、ごはん食べてるところだけだったけど……うん。今日は兄嫁ちゃんたちの為に食べます。勇姿は見せられないけれど、頑張るね…!兄嫁ちゃん…!
カーンと鐘が鳴って、一皿目のドーナツを一つ取って、両手で持つ。ガチムチたちは両手にドーナツを持って一つを一口か二口でばくり。噎せて水で流し込む。うん、無理。早食いじゃなくて大食いだもの。お水飲んだらあんまり食べれなくない?僕はあぐあぐと小さく小さく口に入れて、一気にもぐもぐごっくん。…なにこれ美味しい。チョコ、イチゴ、プレーンで一皿だけど、全部美味しい。
「なにあれかわいい。」
「口ちっさー、頬に詰め込んでリスじゃん。あの子、リス?」
「うわほんと。あんなちっせぇ口で副隊長のブツも………すみません。」
「え、てか速くね?高速もぐもぐじゃん。可愛い……いや、可愛いってだけ………すみません。」
一回戦のドーナツは30分で10皿食べた。30個。一分でひとつ。なにこれ楽しい。美味しい。…楽しい。
無事に決勝進出を決めたぼく。たぶんね、僕にかけたのはジズと、覗きに来てたシャルと、後は面白半分で二人くらい。これ勝ったら万馬券じゃん。ちなみにジズはちょびっとじゃなくて、そこそこかけてる。うん、勝つぞ。普段おんぶにだっこさせてる分、勝つぞ。
決勝は骨付き肉…うぅ、おにく。……おにくだいすき!もぐらは肉食!
やっぱり、ライバルは隊長。こっちを見てにやりと笑うから、にやりと笑い返す。途端にシン、と静まり返ってびくり。そういえばジズの前以外じゃ笑うことなかったかも。皆の視線を遮るように立ってくれるジズにへらりと笑いかけて、甘辛なタレが絡む骨付き肉にかぶりつた。
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