ひきこもぐりん

まつぼっくり

文字の大きさ
上 下
6 / 22

ドーナツもぐもぐ

しおりを挟む
 
 シャルはこの漫画の言葉が読めないのに、凄い。絵だけでも伝わるなんて神作家さんのBL凄い。やっぱBL凄い。国境ならぬ世界まで越えた。

 それにしても…この部屋落ち着く…真っ暗で蝋燭の炎が揺らいでて…ねむ…ねたい…寝るのだいすき。あー、これで穴とかあったら更に最高なのに。大きい籠とかでも良いんだけど…お金稼げるようになったら絶対買おう。大きな籠買って、横向きにくるんて丸まって寝よう。うん…良い。ここに置かせて貰えるかな…BL本献上すればいける気がしてきたぞ。

 シャルのお勉強は絵入りの単語の本を使う。とっても分厚くて、重い…これをひとつずつシャルに読んで貰って、僕は母国語で横に書き込んでいく。とりあえず、この本の全ての単語が埋まるまではここに通わせて貰う事になった。

「リュー、迎えに来ましたよ。」

 そっと扉を開けた隙間から体を滑り込ませるようにジズが入室。
 手に持った暗幕を広げて、僕をすっぽりと覆う。そしてそのまま横抱き……ふぁ、見たいなぁ。壁になってお姫様抱っこ…見たいなぁ。残念ながら相手は僕だけど。暗幕で誰だかわからないからそれでも良いか。

「ぼく、歩く、する。」

「羽のように軽いですよ?」

 歩けるよ、布被って歩けるよ、重いっしょ?と言いたいけど、まだ話せる言葉が少ないから歩くという事だけ伝えるけど…けど…
 ねぇ、羽のように軽いって、異世界で言われる言葉上位に入ってない?抱き上げられて、はわわってなって、言ってもらうの。ちゃんと飯食ってるのか?羽のように軽いって。良く考えたら人ひとり横抱きに出来るのって凄すぎない?それでスタスタ歩いてるんだよ?それで羽のように軽いって…あー、だめだBLじゃん頬にやける。あ、僕はびっくりする程食べてるけど。少食じゃないけど。

「…くふふ。」

「隠れてて笑顔が見えないのが悔やまれますね。」

「ジズは良い攻め。」

「え?すみません…名前しかわかりませんでした。」

「ジズ、かっこいー。」

「………」

 …無視?無視なの?悲しい…とちょっぴり暗幕を捲って覗いてみる。

「それは反則でしょう…」

 ほっぺをほんのり赤く染めて、前を向いて歩くジズ。すれ違う隊の人に挨拶されても平静を装って僅かに頷くだけで歩みを止めずスタスタ。
 これ僕しか気づいてないのか。そっかぁ、美味しいな。ちょっとだけ、抱いてくれている腕がきゅっと僕を強く抱き締める。

「くふふっ。」
「笑わないでください。」

 間髪いれずに返ってきた言葉に思わず笑い声をあげた。

 部屋に戻って、暗幕を被ったままちらり。
 あ、これ知ってる。必然的な上目遣い。ごめんごめん、こういうのドキドキしちゃうよね。うん、そんなに見つめないで。僕もドキドキしてきちゃう。絶対キスする雰囲気なのに、ジズはやっぱりおでこやほっぺにちゅっちゅするだけ。いや、いいけどさ。

「ジズ、食堂、いく、したい。」

「食堂?今日は食堂で夕食にしますか?あぁ、でも、今日は混み合いますよ?」

「はい。ぼく、でる、する。」

「…え?」

「ぼく、たくさん、たべる、する。」

 本日は月に一度の辺境騎士団大食い選手権…らしい。シャルが言ってた。
 何でも屈強な肉体を誇る騎士たちが食って食って食いまくる食の戦い。賭け事としても人気らしく、一番人気はやっぱり隊長。

「確かに普段から沢山食べていますけど…」

 ジズは知らない。僕は普段かなり我慢している。もぐらってね、本当に大食漢でね、食べないと動けないの。だから少しずつ時間をかけたり、間食が多いんだけど、本当は一度に沢山食べることが出来る。むしろ食べたい。でも居候だから…人権ないから…
 だからこれは、挑戦してみたい。掛金の中から賞金も出るって聞いたし…うん、賞金もだけど、遠慮しないでドカ食いしたい。人混みは苦手だけど、隊長が受けになるところが見たくて、たまに夜の食堂ウォッチングしてるんだ…こっそり物陰から……ジズも着いてくるけど。ガチムチたちがチェスみたいなものやカードなど、卓上のゲームをきゃっきゃしてるのも…美味しい。たまに付き合ってるのか腰を抱いて座ってるカップルみるのも美味しい。









「は?こいつが出るのか?」

「…私のつがいをこいつ呼びしないで頂けます?」

「……あー、リュートが?」

 なにこいつ面倒くせぇとぼやく隊長の足をぐりぃっとかかとを使って踏みつけるジズ。なんでも、この二人は異母兄弟で、仲良しらしい。こっちだと一夫多妻もありとの事で珍しいことではないとにっこり。
 隊長と副隊長ではあるが、就業時間外は仲良し兄弟だ。うん、おにぃを思い出す。おにぃよりも優しかった兄嫁ちゃんたち。僕が食べてる姿が大好きだと言って、「ひきこもぐりんの日常」というチャンネルを動画サイトに開設して、地味に僕のおこづかいを稼いでくれてた兄嫁ちゃんたち。顔出しNGで基本引きこもって、ごはん食べてるところだけだったけど……うん。今日は兄嫁ちゃんたちの為に食べます。勇姿は見せられないけれど、頑張るね…!兄嫁ちゃん…!



 カーンと鐘が鳴って、一皿目のドーナツを一つ取って、両手で持つ。ガチムチたちは両手にドーナツを持って一つを一口か二口でばくり。噎せて水で流し込む。うん、無理。早食いじゃなくて大食いだもの。お水飲んだらあんまり食べれなくない?僕はあぐあぐと小さく小さく口に入れて、一気にもぐもぐごっくん。…なにこれ美味しい。チョコ、イチゴ、プレーンで一皿だけど、全部美味しい。

「なにあれかわいい。」
「口ちっさー、頬に詰め込んでリスじゃん。あの子、リス?」
「うわほんと。あんなちっせぇ口で副隊長のブツも………すみません。」
「え、てか速くね?高速もぐもぐじゃん。可愛い……いや、可愛いってだけ………すみません。」


 一回戦のドーナツは30分で10皿食べた。30個。一分でひとつ。なにこれ楽しい。美味しい。…楽しい。
 無事に決勝進出を決めたぼく。たぶんね、僕にかけたのはジズと、覗きに来てたシャルと、後は面白半分で二人くらい。これ勝ったら万馬券じゃん。ちなみにジズはちょびっとじゃなくて、そこそこかけてる。うん、勝つぞ。普段おんぶにだっこさせてる分、勝つぞ。

 決勝は骨付き肉…うぅ、おにく。……おにくだいすき!もぐらは肉食!
 やっぱり、ライバルは隊長。こっちを見てにやりと笑うから、にやりと笑い返す。途端にシン、と静まり返ってびくり。そういえばジズの前以外じゃ笑うことなかったかも。皆の視線を遮るように立ってくれるジズにへらりと笑いかけて、甘辛なタレが絡む骨付き肉にかぶりつた。




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……

鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。 そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。 これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。 「俺はずっと、ミルのことが好きだった」 そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。 お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ! ※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・不定期

執着攻めと平凡受けの短編集

松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。 疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。 基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

傷だらけの僕は空をみる

猫谷 一禾
BL
傷を負った少年は日々をただ淡々と暮らしていく。 生を終えるまで、時を過ぎるのを暗い瞳で過ごす。 諦めた雰囲気の少年に声をかける男は軽い雰囲気の騎士団副団長。 身体と心に傷を負った少年が愛を知り、愛に満たされた幸せを掴むまでの物語。 ハッピーエンドです。 若干の胸くそが出てきます。 ちょっと痛い表現出てくるかもです。

処理中です...