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おやすみ
しおりを挟むぐすぐすぴーぴー泣いて、顔をあげる。
途中から、ぎゅって抱き締めてくれてた副隊長。
「ふくたいちょー、ありがと。」
うん?と首を傾けられる。だよね。
「ジズ、ありがとう。」
目を見て、ぺこりとお辞儀。
「……!自己紹介もまだでしたね。柄にもなく舞い上がっていたようで…お恥ずかしい。」
そんなに舞い上がっているようには見えないけど…可愛いな。
「ジズ アシュガーと申します。この辺境騎士団の副隊長をしています。烏の獣人です。」
うんうん。副隊長なのはもうね、わかってたよ。隊長と一緒にいる頭良さそうな人は副隊長で間違いない。心の中で散々副隊長って呼んでたし。そんでカラスってのも何となくわかってた。漆黒の髪と瞳と、何より羽がね…漆黒の艶々な羽がね…折り畳まれているけど、丸見えだから。うん、綺麗。
「飛べるの?」
手をパタパタとさせて、飛ぶアピール。
「飛べますよ。今度一緒に飛びましょうか。」
ほー、それは凄い。飛べるの凄い。
「可愛いあなたのお名前をお聞きしても?」
「土屋竜斗です。えっと、りゅうと、…りゅうと。」
自分を指して竜斗と連呼。
「リュート?」
「ん。まぁ、良いか。」
「リューと呼んでも?」
「お!あだ名、良いよ。」
マルを書けばにっこり。ついでに絵を見せてもぐらも連呼して覚えて貰った。もぐら…可愛いんだよ、もぐら。
とりあえず、僕の処遇はこの騎士団預りとなる事になった…らしい。部屋はこのまま。太陽を浴びる事があまり出来ない可哀想な僕はまずは言葉の練習をして、少し話せるようになったら今後の事を話し合おうって。
ジズが言うには、"異世界"という言葉があるように、今までも何度か転移してきた者は居るらしい。
むかしむかしの話では、魔王や魔族が傍若無人に振る舞っていた時代もあり、聖女が来てくれたり、神子が来てくれたりと数百年に一度は落ちてきていた。そして必ずと言っていい程、落ちてきた国で大切にされて、恋に落ち、この世界を救い、この世界で天寿を全うした。
しかし、現在は魔族は友好的であるし、魔王は魔族の国の王としてしっかりと国を治めている。魔獣は出るけど、何とかなる。
え、じゃあほんと僕の来た意味は?
うんうん悩めばジズはふんわり笑顔。
「リューに出逢えて嬉しいです。」
むむむ。何だそれ。
「はぁ、可愛いです。幸せです。」
こっちがため息出る。甘い。甘すぎる。こんなの砂糖吐いちゃう。はぁ、どこで読めるの?体験じゃなくて読みたい。受けにだけ甘々でろでろになる攻め…読みたい。
「……でも帰る方法探してくれるんでしょ?帰っても良いくらいの気持ちじゃ信じられないぜー。」
「……?」
ハテナ顔も綺麗ですね!…はやく言葉覚えないと。
その後、何とか絵とジェスチャーでひとりの時間が大切と伝える。ってかお風呂も入りたいし、そろそろ部屋を暗くして、毛布を頭からかぶって丸くなりたい。その中でオレンジ強めのライトをつけて、BLが読みたい。落ち着きたい。その格好が一番落ち着くのだ。
名残惜しそうにしていたジズも、明日の朝の朝食を一緒に取ることを了承すれば、仕方がないというように立ち上がる。
戻る前に卓上の目覚まし時計を持って、ずい、と眼前に出す。
「…時計。あぁ、合わせますか?」
こくこく頷く。時計のある世界…!思ったよりも進んでて一安心。庶民向けの本屋さんもあるかなぁ。ポテチ的なお菓子とか…あるかなぁ。しゅわしゅわ炭酸はあるかなぁ。うーん、ないかなぁ。
見せられたこっちの時計は同じようなもの。かなりアンティークだけど。
時間の流れが一緒って事で良いのだろうか。とりあえず同じ時間に合わせて、興味津々なジズの為に目覚まし時計で起きる人を実演する。
まずは2分後にセットして、ベッドボードに置く。電気は…まぁ良いか。ベッドに入って、瞳をつぶって寝たふり。しばらくすれば…リリリリリリリリと軽やかな目覚ましの音。バシッと目覚ましの上を叩いたらリリリが止まって、僕はジズにドヤ顔。どう?目覚まし凄くない?どうなってるのかわからないけど、凄くない?
「…リュー。」
なぁに?
「男の前でベッドに入って目をつぶるなんて、したら駄目です。」
へ…男?あ、ジズ?
「…その顔も可愛いですが、誘ってるんですか?」
綺麗な顔が近づいてきて、思わずぎゅうっと目をつぶる。やばい、これやばい。濃厚ちゅーして、なんやかんやで初体験しちゃうやつ…幼馴染みの部屋で無防備過ぎるって乗っかられるやつ…
どうしよどうしよ…と心臓がバクバクで、でも思ったような感触はしなくて、そっと前髪を掻き分けられて、おでこにちゅってされた。
「…なるほど。そっちか。」
そっちか…あれか、保健室でうたた寝してる小生意気な受けにちゅってしちゃう奴か。そんで実は起きてて進展してくやつね、なるほど。
「私以外に可愛い寝顔を見せたら駄目ですよ?」
何だか恥ずかしくて、小走りで机までいって紙に大きくマルを書いた。
BL摂取して、シャワー浴びて、ベッドに入って丸くなる。電気も消して真っ暗。オレンジライトも良いけど、真っ暗はやっぱり格別。
いつもは生存確認も込みで家族のグループチャットでおやすみを言い合う。
「……おとーさん、おかーさん、兄嫁ちゃんたち、おにい、異世界転移したよ。おやすみぃ。」
あ、まって。声に出したら余計にさみしい。
返ってこないおやすみさみしい。僕の存在どうなるんだろう。消えてるの…?それとも行方不明?あー、もう、情緒不安定過ぎる。もう、もう、さみしい。
少しだけ、ドアを開ける。真っ暗。
でも、僕はもぐら。目は良くないけど、何となくわかるから大丈夫。
この階は隊長とジズの部屋しかないって言ってた。…どっちだろう。右みて、左みて、右。うん、わからん。右行こう。
小さくこんこんとノック。そして、直ぐにガチャリとドアが開く。こんこんしたばっかなのに。
「リュー、遊びに来てくれたんですか?どうぞ。」
きちんと整っているジズらしい部屋。ただ、入り口で大丈夫。直ぐに済むから。
「…おやすみ。」
「え?」
「おやすみ。」
「…?」
「ふぇ、おやすみって言ってよお…」
しくしくとおやすみ連呼する僕に困った顔のジズ。
「お や す み …あいさつだいじ…」
「えぇと、おや、すみ、ですか?発音合ってます?おやす、み。……おやすみ。」
何度も何度も言い直してくれるジズはきっとめちゃくちゃ優しい。
「…寝る時の挨拶ですか?おやすみ。ひとりで大丈夫ですか?一緒に寝ます…?我慢出来なかったらと思うと誘えませんでしたが、深夜に不安そうにしているこんなに可愛い未成年には手は出さないと誓います。」
んん。テンプレきた。また、きた。わかる。子供だと思われるの……いいよね、その設定すき。
こっちの言葉習ったら教えてあげよう。あと2年くらいですかね…?ってぶつぶつしてるの可愛い。涙引っ込んだ。良い夢みれそう。襲われる心配も今のところ無さそう、うん。
ジズのベッドを指さして、良いか問う。微笑みが返って来たから、奥に寝転べば直ぐにジズも隣へ滑り込む。そして、翼でハグ。翼ハグ…鳥獣人ものは少ししか読んだこと無かったけど、これ本当にやってくれるんだ…
ジズの羽は、お日様の匂いがした。
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