ひきこもぐりん

まつぼっくり

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カップラーメンおいしー

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 ドンドンガンガンがコンコンになった。

「飯もってきたぞー。」

 この言葉がわかるのは何なんだろう…何故話せないのだろう。何でばっかりが頭に出てくるけど、わからない。試したら魔法も使えなかったし。こりゃ使命とか格好良い事は求められてないな、ふぅ、良かった良かった。引きこもろう。それでいつかこの漫画たちを使って漫喫しよう。エロは世界を救う。だから、大丈夫。

「おい開けろってー、両手塞がってんだよ。」

 あ、はいはいごめんねぇと簡単にドアを開けた僕がバカだった。両手塞がってたらノック出来ないし、そもそも隊長さんはコンコンするようなタイプには見えなかった。

 そっと2センチ開けて窺えば真っ黒通り越して漆黒の瞳。

「ひいっ…」

 当たり前のように扉を開いて、固まる僕に微笑んで、ほっぺをするり。ビキリと更に固まる僕にまた微笑む。

「…嘘だろ。ジズ笑ってんだけど。超怖ぇ…」

「食事を。」

 無言で差し出す隊長。隊長ぉぉぉ、そんなに哀れんだ顔しないで。そしてあなたは後ろ手でドア閉めないで!うぅ、引きこもりだからドアを開けとく何か良くわからないストッパーがない。そっかそっか、こういう時の為にあったんだね…今すぐあれ欲しい。

「そんなに怖がらないでくれると助かります。」

 隊長に対しては真顔で怖いくらい綺麗な副隊長は僕に対しては優しく微笑む。うっ…かわいい。もうね、設定としては満点です。受けにだけ優しい攻め…良いよね。そしてやっぱ副隊長は頭脳派で筋肉あるけど隊長より細めですよね…わかります。その設定好きです。ベタだけど好きです。

「座って食事にしませんか?」

 トレーには湯気をたてるスープ。中身はなぁに、と指さして首をこてん。これ便利。

「トマトスープとチキンソテー、サラダにリンゴです。」

 うん。食べ物も大丈夫そう。絶対美味しい。お金…ないな。うーん…使えないだろうけど机を開けて500円玉を手に取る。安い?知ってるけど、紙のお金ってどうなのお金ってわかって貰えるの。こういうのはさ、コインがテッパンでしょう?

 こっちを窺っている副隊長の片手を掴んで手のひらを上向かせて500円玉を乗せる。金色でぴかぴかだからさ、500円で許して欲しい。

「あなたの世界の貨幣ですか?」

 うんうんと頷いてトレーの前に座る。

「お代はいりません。私はあなたのつがいなのでわたしが全てお支払いします。…ですが、これは出会った記念に頂いても?」

 つがいねぇ…うーん、つがいねぇ…相手が僕じゃなければ満点なんだけどなぁ。あ、お金はどうぞ。

「それでですね、やはりあなたの文章は古語に似ていました。食べながらで良いので合っているか確認させて貰っても良いですか?」

 まじか。すごい。そんなんすごい。何なのやっぱり何かゲームの世界とかなの?

「異世界から来ました。僕は外には出られない種族です。間が解読出来ず…最後が、男が好きです。…合ってますか?」

 うーん…うーーーん…絶妙に、はしょられてるな。

 僕は紙をトントン。もう一度読んで貰う。

「異世界から来ました。」

 紙にマル。

「僕は外には出られない種族です。」

 紙にサンカク…わからないか…マルとバツ両方。そして隊長に見せた絵を見せて、太陽指さしして少しのジェスチャー。

「…出来るだけ外に出ない方が良いですね。肌も真っ白だ。」

 引きこもりですから。そこ突っ込まないで。

「男が好きです。」

 これ難しい。BLは好き!女の子を好きになった事はない!だけど男の人を好きになった事もない…!少し悩んで、自分を指さしてマルとバツ。わからないもの。そして、本棚から悩んで一冊引き出す。表紙が肌色ばっかじゃないやつ。
 それを渡して、目の絵を書いて、マル。悩んだ素振りの副隊長は何度か繰り返す僕を見て呟く。

「男が好きじゃなくて、男同士の恋愛を見るのが、好き?」

 すごい…!さすが副隊長…!パチパチと拍手を送れば微笑む。

「笑顔がとてつもなく可愛いです。怯えた顔も滾りますが。」

 びくぅ、と背筋が伸びる。

「さ、まずは食べてくださいね。」

 ふぅふぅ冷ましてスープを飲めば、ちゃんと僕の知ってるトマトの味。チキンもジューシーだし、サラダも異世界の生野菜に抵抗はあったけど、美味しい。もっしゃもっしゃと平らげれば副隊長は頬杖ついてにこにこ笑顔。

「あぁ、可愛い。それで足りますか?」

 隊長が小さくてフェアリーっぽいと言ったらしい。フェアリーは花の蜜で生きてるらしい。何だそれ。僕はもぐらの獣性があって、大食漢。沢山食べるし、本物は3時間食べないと餓死しちゃうくらいだから…うぅ。燃費悪い生き物なのだ。お外も苦手だし。

「おかわりを持ってきましょうか?」

 大丈夫、大丈夫。その為のこの何十箱と積んであるカップラーメンなのだ。何故か兄嫁ちゃんたちは会うたびにカップラーメンを運んでくる。はふはふ食べる僕がツボらしい。
 それはさておき、悩んだ末に醤油らーめんをチョイス。副隊長には塩らーめん。勝手にご馳走してあげよう。
 何故か使えるままの電気ポットからお湯を注いで、カップラーメン用の砂時計をセット。興味深そうにこちらを見ている副隊長の前に塩らーめん。そしてフォークを見せつける。

「私にくれるのですか?」

 うんうんと頷けば、ドアを開けてストッパーみたいなのつけてから出てった。あるじゃん。それ欲しい。

 いそいそと戻ってきた副隊長の手にはフォーク。わくわくした顔してるの可愛い。あー、ほんと可愛い。背が高いのに可愛い。受けにだけ甘いの可愛い。ただし、受けは僕だけど。はぁ、後で漫画にしよ。副隊長×隊長で描こう。読んでくれる人いるかわからないけど。

 3分経って蓋をあける。ちょこっと混ぜて息を吹き掛けて、はふり。おいしー。カップラーメンさいこー!
 副隊長も真似っこして食べる。食べ方まで綺麗。

「…とても美味しいです。お湯を入れただけで…こんな…ポットは魔道具ですか?」

 言葉が伝わらないと不便で、上手く説明は出来なかった。

「あの箱たちで終わりですか…?もしよければひとつだけ売って頂けますか?無くなる前に、同じようなものが作れないか掛け合ってみます。」

 故郷の味は大事にしましょう、と頭を撫でられて、あれ…やっぱり帰れない感じ?と心がざわつく。知ってる。こういうのは大体帰れない。家庭に恵まれてなかったり、何か使命があって転移や転生して、帰るってパターンは稀だ。でも、僕は帰りたい。家族が外へ出られない僕を本当はちゃんと心配してくれているのも知ってる。両親が自分たちの老後よりも僕の行く末を気にして、兄嫁たちに自分たちは老人ホームに入るから僕の事をたまにで良いから気にかけて貰えるようにお願いしていたのも知ってる。
 知ってるから、趣味だったBLも本腰入れて描いて、同人誌もちょっとずつ人気出て来て…兄嫁ちゃんや兄達も応援してくれて。もう少し頑張ってベタにマッサージチェアープレゼントしようと思ってネットで色々調べてたとこだったのに。電気ポットは使えるのに、スマホやパソコンはないのも、きっとこっちの世界に持ち込めない何かがあるのだろう…だから、わかってたんだ。もう戻れないんじゃないかって、知ってた。

「う、ぐすっ、うう…」

 ベタな展開でベタに泣きながら麺をすする。
 鼻水も出て、涙でぐちゃぐちゃで。

「……帰れる方法も探してみましょうね。」

 眉を下げて微笑まれて、うわぁぁんと大声出して泣きわめいた。


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