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あ、転移…ですか
しおりを挟むひきこもり、腐男子、住んでるところはコンクリート打ちっぱなしの地下室。
もぐらの獣性が関係してるのかはわからないけれど、やっぱり地下の方が落ち着く。お外こわい。お外まぶしい。
僕の事は、ほぼ諦めてくれている両親のすねかじり。それが僕。兄二人はバリバリ働いているし、家庭がある。将来的に両親の面倒をちゃんと見る事を条件に兄嫁さまたちからおこづかいを貰って、BL本を買い込む。そして、BL描いてSNSにあっぷ!この国は恋愛は自由だけど、僕にとって男同士のえっちな本は、さいこーなのだ。
そんな、くずでだめだめな僕は今日もお家でドラマCD聴いて、ぐふぐふして、ネットでまたコミックスを注文して。あー、配達員が僕のストーカーで扉を開けた瞬間押し倒されて~、なんて妄想に滾っていた。あ、まってまって。やっぱり異世界転生したいよねえ…チートたっぷりで王国を救うの。王子に番だって求婚されて、騎士団長にも大神官にも求婚されて…あ、でもひとつの穴にひとつの棒が良いか。やっぱり溺愛・ハッピーエンドタグがないと。くふふ、妄想楽しい。一生してられる。一生したい。
ドンドンドンドンッ!
びくぅっと体が跳ねる。なに…だれ…お母さん?BLライフワーク中はやめてって言ってるのにぃ…でも、こんなに強く扉をたたくことなんて…あった?
ドンドンガンガンと叩くその音は恐怖心を煽る。というか、煽りまくる。
「や、やめてよぉ…お母さん?お父さん?兄嫁ちゃん…?あ、まさかのおにい?」
やだなぁ。いくら少しでも良いから外へ出ろと言われても出たくないよ?お家さいこー!
「…急に現れたこのドアは何だ。ダンジョンへの入り口か…?おい、そこにいるのだろう?お前は何者だ。」
「…………」
ガンガンがガチャガチャになる。この部屋、鍵とかなかったけど…開かない?大丈夫?
いや、これキタな。どうしよう、全然嬉しくないけど。絶対したでしょ、異世界転移。え、どうする?どうすれば良い?僕、兄嫁ちゃんがいないと何も決められないんだけど。
「おい、」とか「返事しろ」とか聞こえるけどやっぱ無理。何が無理って全部無理。ダンジョンってことは魔物なんかがいて、魔法で戦うのだろうか。無理。言葉がわかるのは言語チートってやつ?こっちの言葉も通じる?
「だっ…だれですかっ!?」
声が上擦る。こわい。無理。
「中から声が聞こえるが…おい、ジズわかるか?」
「…知らない言語ですね。隊長は声が大きいから怖がっているのでは?。」
通じないじゃん!無理!こわい!
部屋には沢山のカップラーメンがある。ポットも水も…ある。よし。籠ろう。何か電気も普通についてるし。様子がわかるようになるまで籠ろう。
通じないのはわかっている。でも、一応紙とペンを手に取る。
「異世界転移してきたようです。僕は外には出られない種族です。出来ればほっといて欲しいけど、勝手に来たのはこっちなんで……落ち着いたらお話したいです。あと、ここは男同士の恋愛は盛んですか?BLあります?BLがすきです。BLさいこー!」
ふむ。我ながらわがままな手紙が書き上がったな。最後は通じないのわかっててふざけた。うん、よし。
ドアの隙間からそっと紙を差し出せば凄い勢いで引き取られた…こわい。
「読めるか?」
「私には無理です。これは古語に近いようですね…祖父に見せても?」
「頼む。」
うん、やっぱり通じなかった。知ってる。あと絶対古語じゃないと思う。僕のとこの共通語だもん。
「おい、一人か。大丈夫か?腹へってないか?」
「隊長、こんなに怪しいのに良くそんな甘い声が出せますね…そして言葉も通じてないと思いますよ?」
「あー、何か良い匂いがする。」
「…まさか、つがいですか?」
キタコレ。テンプレきた。
「いや、違うな…だが、嫌な感じはしない、清らかな気配がする。」
清らかってなんだまったくもう。僕はこう見えて18禁BLにしか興味ないのだ。ちなみに一番タイプなのは隊長さんと言われるようなガタイの良い男が線の細い副隊長さんに組み敷かれるようなやつだ。そこにいる隊長さん?がガタイ良いのかは知らないけど。あと違うって言われたけど。
「…それは良かった。私は先ほどから本能をビシビシ刺激されていますから。…隊長がつがいだと言い張った時の始末方法をいくつか考えましたが、どれも骨がおれそうなので。いや、良かった。」
「…お前が恐ろしい。」
同意。無理。そっち?ってシチュエーション的には100てん満点だけど、無理。僕は無理。はぁ、カップラーメン食べよ。
「では、私は祖父のところに行ってきますので。ここは頼みますね。」
「…おーう。」
気配がひとつ遠ざかる。
「おい…誰だか知らんけど頑張れよ。」
無理だよぉ。嫌だよぉ。
「あいつ、ここ頼むって時の顔すげぇ離れたく無さそうだった。あんな顔は初めてで怖ぇ。」
執着攻め?おいしいな。
「……がんばれよ。」
無理です。
…僕は意を決してドアをそっと開ける。隊長さんはとてもお人好しそうだから。びびりだから2センチ程。光は差し込まないしここは室内…?
「腐男子です。シチュエーションは大好物ですが僕には無理です。隊長さんに譲りますので雄っぱい揉まれてください。うん。イメージ通りのガタイの良さ…!あとここどこですかね?僕お金ないし、知恵もないし、BL本は壁一面にありますけど…どうしよ…あ、漫喫?漫喫作っちゃう?どうしよ。ここどこだろ。お客さん来るかな。」
「…おい。」
あ、やべ。目合った。
怖いからバンっと扉を閉めて一呼吸。……何か大きくなかった?彫りが深くてイケメンってかちょっとゴツかったけど。何か耳生えてたけど。…生えてたけど!うん、受け!貴方は受け!
「まじかよ。ジズに何て言ったら良いんだよ。何話してるのかわからないし。あ、ここは辺境騎士団の寮で、俺とジズの部屋の間に急にドアが現れたもんで何事かってな?あー、伝わらないか。」
それを聞いて紙に大きくマルを書いて差し込んだ。
「…わかるのか?」
また、マル。
「…こっちの言葉は話せるか?」
それは、バツ。
「伝わるのか。腹へってないか?」
お腹は空いてるけど、カップラーメンあるから、バツ。
「今、パンあるけど。」
…ちょっと気になる。欲しい。
少しだけ開けて、そっと見上げる。真顔で差し出されたパンをそっと両手に乗せ、ぺこりとお辞儀をして扉を閉め…閉めたい…!閉めさせて…!!
「いや、悪いけど話そうぜ?食堂にはおかずもスープもある筈だ。飯食おう。さぁ…出てこい。」
よよよ、とふらつきながら扉から手を離す。中へ隊長さんを招き入れようとしても入らない。だったら閉めてよぉ。
「人のつがいには極力触れてはいけない。近づくのもだ。」
何それ知らないけど。当たり前のように言わないで。
適当に猫の絵を書いて、隣にハテナ。隊長さんに首を傾けながら見せる。そして指をさす。
「…上手いな。猫か…?あぁ、俺か?俺は獅子の獣人だ。お前は…フェアリーか何かか?」
何だフェアリーって。妖精いるの?…それは見たいけど。
僕は紙の右端に太陽を描いて、紙の半分を乱雑に茶色に塗って、そこにモグラを。土の中でにこにこ笑顔。
「いや上手いな。良くわからんが、土の中の生物だな?」
嘘だろモグラいないの。害獣だけど可愛いモグラちゃんいないの。僕は今度は太陽の下でひっくり返ったモグラちゃんを。そして隊長に見せる。そして自分を指さす。
「……お前、太陽に当たったら死ぬのか。」
思い切り頷こうとして踏みとどまる。頷いたら監禁コースじゃない?もし、BLが盛んだったらウォッチングしたいし、本屋があるなら行きたい。お金ないけど!今後の事を考えて、親指と人差し指で"すこし"を表現。伝わるかな…
「…太陽が苦手なのか?」
それに僕は何度も頷く。
「…そうか。じゃあ食堂は止めておこう。あそこは自然光が良く入る。食事を持ってくるから声をかけたら開けてくれ。」
ぺこぺことして、扉を閉める。ふぅ、隊長さんが良い人で良かった。
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