ひきこもぐりん

まつぼっくり

文字の大きさ
上 下
1 / 22

あ、転移…ですか

しおりを挟む
 
 ひきこもり、腐男子、住んでるところはコンクリート打ちっぱなしの地下室。
 もぐらの獣性が関係してるのかはわからないけれど、やっぱり地下の方が落ち着く。お外こわい。お外まぶしい。
 僕の事は、ほぼ諦めてくれている両親のすねかじり。それが僕。兄二人はバリバリ働いているし、家庭がある。将来的に両親の面倒をちゃんと見る事を条件に兄嫁さまたちからおこづかいを貰って、BL本を買い込む。そして、BL描いてSNSにあっぷ!この国は恋愛は自由だけど、僕にとって男同士のえっちな本は、さいこーなのだ。
 そんな、くずでだめだめな僕は今日もお家でドラマCD聴いて、ぐふぐふして、ネットでまたコミックスを注文して。あー、配達員が僕のストーカーで扉を開けた瞬間押し倒されて~、なんて妄想に滾っていた。あ、まってまって。やっぱり異世界転生したいよねえ…チートたっぷりで王国を救うの。王子に番だって求婚されて、騎士団長にも大神官にも求婚されて…あ、でもひとつの穴にひとつの棒が良いか。やっぱり溺愛・ハッピーエンドタグがないと。くふふ、妄想楽しい。一生してられる。一生したい。

 ドンドンドンドンッ!

 びくぅっと体が跳ねる。なに…だれ…お母さん?BLライフワーク中はやめてって言ってるのにぃ…でも、こんなに強く扉をたたくことなんて…あった?
 ドンドンガンガンと叩くその音は恐怖心を煽る。というか、煽りまくる。

「や、やめてよぉ…お母さん?お父さん?兄嫁ちゃん…?あ、まさかのおにい?」

 やだなぁ。いくら少しでも良いから外へ出ろと言われても出たくないよ?お家さいこー!




「…急に現れたこのドアは何だ。ダンジョンへの入り口か…?おい、そこにいるのだろう?お前は何者だ。」

「…………」

 ガンガンがガチャガチャになる。この部屋、鍵とかなかったけど…開かない?大丈夫?
 いや、これキタな。どうしよう、全然嬉しくないけど。絶対したでしょ、異世界転移。え、どうする?どうすれば良い?僕、兄嫁ちゃんがいないと何も決められないんだけど。

「おい、」とか「返事しろ」とか聞こえるけどやっぱ無理。何が無理って全部無理。ダンジョンってことは魔物なんかがいて、魔法で戦うのだろうか。無理。言葉がわかるのは言語チートってやつ?こっちの言葉も通じる?

「だっ…だれですかっ!?」

 声が上擦る。こわい。無理。

「中から声が聞こえるが…おい、ジズわかるか?」

「…知らない言語ですね。隊長は声が大きいから怖がっているのでは?。」

 通じないじゃん!無理!こわい!

 部屋には沢山のカップラーメンがある。ポットも水も…ある。よし。籠ろう。何か電気も普通についてるし。様子がわかるようになるまで籠ろう。
 通じないのはわかっている。でも、一応紙とペンを手に取る。

「異世界転移してきたようです。僕は外には出られない種族です。出来ればほっといて欲しいけど、勝手に来たのはこっちなんで……落ち着いたらお話したいです。あと、ここは男同士の恋愛は盛んですか?BLあります?BLがすきです。BLさいこー!」

 ふむ。我ながらわがままな手紙が書き上がったな。最後は通じないのわかっててふざけた。うん、よし。

 ドアの隙間からそっと紙を差し出せば凄い勢いで引き取られた…こわい。

「読めるか?」

「私には無理です。これは古語に近いようですね…祖父に見せても?」

「頼む。」

 うん、やっぱり通じなかった。知ってる。あと絶対古語じゃないと思う。僕のとこの共通語だもん。

「おい、一人か。大丈夫か?腹へってないか?」

「隊長、こんなに怪しいのに良くそんな甘い声が出せますね…そして言葉も通じてないと思いますよ?」

「あー、何か良い匂いがする。」

「…まさか、つがいですか?」

 キタコレ。テンプレきた。

「いや、違うな…だが、嫌な感じはしない、清らかな気配がする。」

 清らかってなんだまったくもう。僕はこう見えて18禁BLにしか興味ないのだ。ちなみに一番タイプなのは隊長さんと言われるようなガタイの良い男が線の細い副隊長さんに組み敷かれるようなやつだ。そこにいる隊長さん?がガタイ良いのかは知らないけど。あと違うって言われたけど。


「…それは良かった。私は先ほどから本能をビシビシ刺激されていますから。…隊長がつがいだと言い張った時の始末方法をいくつか考えましたが、どれも骨がおれそうなので。いや、良かった。」

「…お前が恐ろしい。」

 同意。無理。そっち?ってシチュエーション的には100てん満点だけど、無理。僕は無理。はぁ、カップラーメン食べよ。

「では、私は祖父のところに行ってきますので。ここは頼みますね。」

「…おーう。」

 気配がひとつ遠ざかる。

「おい…誰だか知らんけど頑張れよ。」

 無理だよぉ。嫌だよぉ。

「あいつ、ここ頼むって時の顔すげぇ離れたく無さそうだった。あんな顔は初めてで怖ぇ。」

 執着攻め?おいしいな。

「……がんばれよ。」

 無理です。
 …僕は意を決してドアをそっと開ける。隊長さんはとてもお人好しそうだから。びびりだから2センチ程。光は差し込まないしここは室内…?

「腐男子です。シチュエーションは大好物ですが僕には無理です。隊長さんに譲りますので雄っぱい揉まれてください。うん。イメージ通りのガタイの良さ…!あとここどこですかね?僕お金ないし、知恵もないし、BL本は壁一面にありますけど…どうしよ…あ、漫喫?漫喫作っちゃう?どうしよ。ここどこだろ。お客さん来るかな。」

「…おい。」

 あ、やべ。目合った。
 怖いからバンっと扉を閉めて一呼吸。……何か大きくなかった?彫りが深くてイケメンってかちょっとゴツかったけど。何か耳生えてたけど。…生えてたけど!うん、受け!貴方は受け!

「まじかよ。ジズに何て言ったら良いんだよ。何話してるのかわからないし。あ、ここは辺境騎士団の寮で、俺とジズの部屋の間に急にドアが現れたもんで何事かってな?あー、伝わらないか。」

 それを聞いて紙に大きくマルを書いて差し込んだ。

「…わかるのか?」

 また、マル。

「…こっちの言葉は話せるか?」

 それは、バツ。

「伝わるのか。腹へってないか?」

 お腹は空いてるけど、カップラーメンあるから、バツ。

「今、パンあるけど。」

 …ちょっと気になる。欲しい。

 少しだけ開けて、そっと見上げる。真顔で差し出されたパンをそっと両手に乗せ、ぺこりとお辞儀をして扉を閉め…閉めたい…!閉めさせて…!!

「いや、悪いけど話そうぜ?食堂にはおかずもスープもある筈だ。飯食おう。さぁ…出てこい。」

 よよよ、とふらつきながら扉から手を離す。中へ隊長さんを招き入れようとしても入らない。だったら閉めてよぉ。

「人のつがいには極力触れてはいけない。近づくのもだ。」

 何それ知らないけど。当たり前のように言わないで。

 適当に猫の絵を書いて、隣にハテナ。隊長さんに首を傾けながら見せる。そして指をさす。

「…上手いな。猫か…?あぁ、俺か?俺は獅子の獣人だ。お前は…フェアリーか何かか?」

 何だフェアリーって。妖精いるの?…それは見たいけど。

 僕は紙の右端に太陽を描いて、紙の半分を乱雑に茶色に塗って、そこにモグラを。土の中でにこにこ笑顔。

「いや上手いな。良くわからんが、土の中の生物だな?」

 嘘だろモグラいないの。害獣だけど可愛いモグラちゃんいないの。僕は今度は太陽の下でひっくり返ったモグラちゃんを。そして隊長に見せる。そして自分を指さす。

「……お前、太陽に当たったら死ぬのか。」

 思い切り頷こうとして踏みとどまる。頷いたら監禁コースじゃない?もし、BLが盛んだったらウォッチングしたいし、本屋があるなら行きたい。お金ないけど!今後の事を考えて、親指と人差し指で"すこし"を表現。伝わるかな…

「…太陽が苦手なのか?」

 それに僕は何度も頷く。

「…そうか。じゃあ食堂は止めておこう。あそこは自然光が良く入る。食事を持ってくるから声をかけたら開けてくれ。」

 ぺこぺことして、扉を閉める。ふぅ、隊長さんが良い人で良かった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

偽物の僕。

れん
BL
偽物の僕。  この物語には性虐待などの虐待表現が多く使われております。 ご注意下さい。 優希(ゆうき) ある事きっかけで他人から嫌われるのが怖い 高校2年生 恋愛対象的に奏多が好き。 高校2年生 奏多(かなた) 優希の親友 いつも優希を心配している 高校2年生 柊叶(ひいらぎ かなえ) 優希の父親が登録している売春斡旋会社の社長 リアコ太客 ストーカー 登場人物は増えていく予定です。 増えたらまた紹介します。 かなり雑な書き方なので読みにくいと思います。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

我は最凶の魔王にして腐男子なり!

無月
BL
我は世界最強にして最恐、最凶の魔王である! 今まで幾度となく人間共を蹴散らしてきたがあまりに相手にならなくて我は暇を持て余しておるのだ! そんな折、暇つぶしに変装して降り立った人間共の街で運命に出会う。 そう、BLという尊い存在に!! かくして最強にして最恐、最凶の魔王である我は、世に恥じない腐男子として君臨するのである! さぁて今日の勇者は誰とフラグが立ったかな♪ これは腐男子魔王として歯向かう者共を一掃しながら日夜壁として、障子として、空気として男達のキャッキャウフフを覗き見る!予定の話である! 最終的には魔王を誰かとハッピーエンドにする予定なのは本人(魔王)には内緒なのである。

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです

野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。 あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは?? お菓子無双を夢見る主人公です。 ******** 小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。 基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。 ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ 本編完結しました〜

どうやら生まれる世界を間違えた~異世界で人生やり直し?~

黒飴細工
BL
京 凛太郎は突然異世界に飛ばされたと思ったら、そこで出会った超絶イケメンに「この世界は本来、君が生まれるべき世界だ」と言われ……?どうやら生まれる世界を間違えたらしい。幼い頃よりあまりいい人生を歩んでこれなかった凛太郎は心機一転。人生やり直し、自分探しの旅に出てみることに。しかし、次から次に出会う人々は一癖も二癖もある人物ばかり、それが見た目が良いほど変わった人物が多いのだから困りもの。「でたよ!ファンタジー!」が口癖になってしまう凛太郎がこれまでと違った濃ゆい人生を送っていくことに。 ※こちらの作品第10回BL小説大賞にエントリーしてます。応援していただけましたら幸いです。 ※こちらの作品は小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しております。

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

処理中です...