上 下
6 / 10

水族館へ行きましょう

しおりを挟む
 
 ごま団子を食べて、口のなかの甘さを堪能していると今度は駅の中のコーヒーショップへ。アイスコーヒーをふたつ。
 駅弁屋でカツサンドをひとつ。
 特急券は指定席。奢りということで気が引けて鈍行でと言ったけど却下、せめて自由席でと言ったけどやはり却下される。

「人多いし、痴漢されたらどうするの?ってか満員列車でぎゅうぎゅうなんて痴漢してって言ってるようなもんだよ?俺に。特急券は夜のうちにネット予約しちゃったし、行こ。」

 お前か!ふざけんな。痴漢爆発しろ!
 心の中で悪態をついていたら上手く誘導されて、気づいたら窓側の席に着席していた。

「ほら、はんぶんこしよ。しおりも読んでよ。頑張って作ったんだから。」

 その言葉にムッとしながらも半分になったカツサンドを受け取り、ボディーバッグから早くもシワが寄っているしおりを引っ張り出す。


 8:45 特急指定席にごねる
 8:53 までに宥めて乗車
 8:55 軽食
 9:00 発車

 え…こわ。
 ドン引きしていると、発車のベルが鳴る。
 プシューっと扉が閉まり、振動少なく動き出す。俺はそっとしおりを閉じてバッグに仕舞った。

「アイキちゃんと読んでよ。」
「いや、ドン引きし過ぎた…なんで俺の行動わかるの?」
「ふふ、愛だよ。」

 こっわ。

「もう、大丈夫です。イルカのショーが見られれば…なんでも…」

「イルカのショーは13時からだよ。アイキの好きなペンギンのショーも見ようね?」

「ん。少し、寝る。」

 食べたら寝る。家畜みたいだが寝不足なのだから仕方ない。この変態のせいでな!
 寝る前に一応、変態の隣で寝てエロい事されたら…としおりをもう一度出して確認した。

 9:10 アイキ体力温存

 こわ。体力温存って何の体力温存?歩くからだよね?夜の為じゃないよね…?こわ。寝よ。
 帽子を深くかぶって目を瞑ったらすっと眠りに落ちていった。

「アイキ、起きて?そろそろだよ。」
「んん、」
「ちゅー、する?」

 耳元でこそっと囁かれた言葉に飛び起きた。

「すぐに起きちゃうのはそれはそれで悲しいな。」
「ハイハイふざけんな。うあー、めっちゃ寝た…今何時?」
「もうすぐ10時半くらい。あと5分で着くよ。」

 全然起きなかった…電車の揺れって凄く眠くなる…

「ッんぐっ」

 ぽけっとしてると口の中にミント飴を突っ込まれた。

「もう、ぽやっとしないの。そんな可愛い顔してたら襲われたって文句なんて言えないんだからね?」
「いや、俺、男だから。」

 俺に欲情するのなんてお前くらいだ。言ってて悔しいな、くそ。

「そんなの知ってるけど、好きになったら性別なんて些細な事なんだよ。」

 変態ストーカーの言葉には重みがありますね?
 そう目で訴えると鼻を摘ままれた。

「ふがっ、何だよ、もう。」

「今絶対失礼なこと考えてたでしょう?ほら、停車するから立って!ぽやぽやしてると手繋ぐからね!」

「ハイハイ。」













 駅からバスに乗って、水族館へ。

「うわ!久しぶりだな~全然変わってない!」

「ね。いつぶりだろう…小学生のときのプチ家族旅行が最後?」

 保育園の遠足もここだったし、小学校低学年の頃は海に遊びに行く時は両親にねだって連れてきて貰ってた。
 二家族で旅行もしたし、うちの旅行にはコウヤがいたし、コウヤの家族旅行にも俺はいた。懐かしい。
 チケットを買ってもらっていざ、中へ。

 ホールは家族連れや恋人たちが沢山いた。
 ガラスに手をついて鯵の大群に目を奪われている小さな子が可愛らしくてつい微笑んでしまう。

「アイキもあんなだったよ?」
「ん?」
「アイキも小さいとき、ああやってガラスにぺったりくっついて目をキラキラさせてた。」

 そんなの覚えてなくて恥ずかしい。

「それでね?ルミコさんに促されても動かなくて、俺が手を繋いだらね?ふふ。「こーや、ぼく、このおさかなたべたい!」って。俺どうしようかと思ったよ?係りの人にいくらで買えるか聞きに行ったのを母さんに必死に止められた記憶がある。」

「ぶはっ、なにそれ!うける。全然覚えてないなー。ってかその頃からコウヤはコウヤな?」
「当たり前でしょ?アイキが食べたいなら買わなきゃ!って必死だったんだから。」

 ゆっくりと館内を順次にそって歩く。基本的に薄暗く、幻想的な空間が続く。
 開けた場所に出ると、ヒトデやカメなどが触れるキッズコーナーで子供達で溢れている。俺も見てみたくてふらふらと近づくとコウヤに腕を取られた。
 不思議に思いながら着いていくと、キッズコーナー脇にある岩をモチーフにした扉の前にひっそりとスタッフさんが立っていて、一組ずつ間隔を開けて中へと促す。
 少し並んで進むと先は真っ暗で、扉が閉まるとあまりの綺麗さに言葉を失った。
 真っ暗なのに水槽は青や桃色に輝いていて、ぷかぷか、ふわふわとクラゲが泳ぐ。10メートル程の短い通路には5種類程のクラゲの水槽が並んでいて、子供達のキャーキャー騒ぐ声が微かに聞こえるのにそこだけ異空間のようだった。

 思わず片手をガラスにつけて眺めているとそっと手を握られる。
 クラゲに目を奪われているからゆっくりとコウヤに振り向く。

「綺麗。」
「な?昔こんなのなかったよな…ほんと、キレイ…」

 前の一組がパタンと扉の音を立てて外へ出たのが視線の先に見えた。
 繋いでない方の手もコウヤにとられて、近づいてくる真剣な顔に瞳を閉じた。触れるだけだったけど、俺が初めて素直にコウヤのキスを受け入れた瞬間だった。

 長く感じたけど一瞬で、唇が離れた瞬間に焦って離れた。
 後ろから入ってきたカップルから隠れるように出口に向かう。
 急に明るいところへ出て、子供達の興奮した声も大音量だ。

「アイキ、お昼は二階のレストランね?」
「…俺、刺身定食にしよ。」
「言うと思った!俺もそれにしよっと。」

 騒音の中、俺に歩幅を合わせながら迷いなく歩みを進めるコウヤに着いていく。

「ねぇ、大好きだよ。」
「なに急に。」
「さっき、アイキめちゃくちゃ綺麗だった。」
「俺じゃなくてクラゲだろ?」
「海月なんていた?目に入らなかったな。」

 海月に謝れ!







しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

こいつの思いは重すぎる!!

ちろこ
BL
俺が少し誰かと話すだけであいつはキレる…。 いつか監禁されそうで本当に怖いからやめてほしい。

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話

あかさたな!
BL
潜入捜査官のユウジは マフィアのボスの愛人まで潜入していた。 だがある日、それがボスにバレて、 執着監禁されちゃって、 幸せになっちゃう話 少し歪んだ愛だが、ルカという歳下に メロメロに溺愛されちゃう。 そんなハッピー寄りなティーストです! ▶︎潜入捜査とかスパイとか設定がかなりゆるふわですが、 雰囲気だけ楽しんでいただけると幸いです! _____ ▶︎タイトルそのうち変えます 2022/05/16変更! 拘束(仮題名)→ 潜入捜査でマフィアのドンの愛人になったのに、正体バレて溺愛監禁された話 ▶︎毎日18時更新頑張ります!一万字前後のお話に収める予定です 2022/05/24の更新は1日お休みします。すみません。   ▶︎▶︎r18表現が含まれます※ ◀︎◀︎ _____

魔王討伐後に勇者の子を身篭ったので、逃げたけど結局勇者に捕まった。

柴傘
BL
勇者パーティーに属していた魔術師が勇者との子を身篭ったので逃走を図り失敗に終わるお話。 頭よわよわハッピーエンド、執着溺愛勇者×気弱臆病魔術師。 誰もが妊娠できる世界、勇者パーティーは皆仲良し。 さくっと読める短編です。

浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。

丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです! エロ特化の短編としてお読み下さい…。 大切な事なのでもう一度。 エロ特化です! **************************************** 『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』 性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。 キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

処理中です...