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面接と人族
しおりを挟むアランが直ぐそこと言っていたけど本当に目と鼻の先にギルドはあった。周りの建物より大きな2階建てで、1階に食堂が入っている。
短い距離を手を繋いで歩き、隣にはパン屋さんがあり、いつもここでパンを買っていると説明を受けながら入り口のドアを開ける。
一瞬、視線が突き刺さってきたような気がしたけれど本当に一瞬で。アランを見上げると視線でどうしたかと問いかけられ、自意識過剰だったかと恥ずかしくなる。
少しだけ赤くなった顔を手でパタパタと扇ぎながら何でもないと返すと何故か繋いでいた手を離されて、離された手を寂しく思う間もなくその手が腰に回され、引き寄せられた。
胸に顔を押し付ける形になり、落ち着く匂いと温もりにほっとするがこれから面接なのにと考え、手を突っぱねて距離を取ろうとする。
ムッとした顔をされれば強く言えるのに、シュンと傷付いた顔をされるとこちらが悪いような気がしてしまう。
「お前らは何をやっているんだ。」
どうしようかと悩んでいると、呆れたような顔をした大きな人。
隣には楽しそうなエリちゃんことエリヤさんがいる。
「みーちゃん、この人が料理長のマオさん!顔はギルマスと同じで怖いし、山熊っていう種族なんだけど優しいから大丈夫だよ!」
「マオさん!このギルマスをでろでろにさせてるのがさっき話したみーちゃん。名前はミナト!人族だからいろいろ助けてあげてね!」
にこにこと笑顔でお互いに紹介してもらって、ちょこっと良くわからない紹介だったけれど、緊張していたのも吹き飛ばして貰えたみたい。
僕は一歩前に出てマオさんを見上げる。
「初めまして。僕はアランに保護して頂いているミナトと言います。今日はホールスタッフを募集していると聞いて、面接をして頂きにお邪魔しました。よろしくお願いします!」
「あぁ。さっきこいつから聞いた。」
挨拶をすれば、頷いてくれ、エリちゃんを流しみる。
「うちはいちいち面接なんかしないんだ。会って直感で決めている。ミナトは俺の勘が大丈夫って言ってるから採用だ。アランの紹介だしな?」
今度はニヤリとしながらアランを見ていてアランに恥をかかせないようにしなきゃ!と心配になる。
アランはそんな僕に気づいて頭をポンポンとしてくれるが、それにハッとして挨拶をする。
「一生懸命頑張ります!よろしくお願いします!」
「マオ、ミナトが慣れるまでは俺の出勤に合わせての出勤にして欲しい。」
「そうだな。その方が良いだろう。客がいないときは奥で休んでれば良い。」
「ご迷惑おかけしてすみません。なるべく早く慣れるように頑張ります。」
僕の為に申し訳ない気持ちで一杯になる。
「こちらとしても長い時間いてくれるのは助かる。それに1人だけいる人族も番の仕事に合わせての出勤で送り迎えされているから気にするな。」
そう言って貰えて安心した。
「その人族が、今休憩してるから会っていくか?」
アランを見ると頷いてくれる。
「良いんですか?ぜひ、ご挨拶したいです。」
連れだって歩いて行こうとするとエリちゃんがギルマスはこっちっすー!サインが欲しいとこが!とアランを引いて反対方向に歩き出そうとする。
アランははぁ、とため息をひとつ吐いて、迎えに行くまでそこにいてくれと僕の頬をひと撫でして、マオさんと頷き合うと気だるげに歩き出した。
アランを見つめていたのだろう、マオさんに大丈夫か?と問われ、焦って大丈夫だと返すと、こっちだと案内してくれるマオさんに着いていった。
お昼も大分過ぎたこの時間にはお客さんはまだらにしかいないが、それでも厨房へ近づくと良い香りが鼻を擽る。
食事をしている獣人さんに会釈をしながら厨房へ入るとそこを抜けて裏口へ出る。
そこには日除けの下のベンチに座って本を読んでいる迫力のある美人さんがいた。
僕たちに気づくと綺麗な笑顔を浮かべて口を開く。
「さっきエリヤが騒いでたアランさんが連れてきた人族の子?」
「はい。アランにお世話になっているミナトと言います。よろしくお願いします。」
「よろしくね。私はユノア。獣人が多い中で人族は暮らしにくい事もあるけれど、困ったことがあったら何でも言ってね?」
アランさんに言えないこととかね!とウィンク付きで言われて、綺麗な顔立ちが少しだけ幼くなって力を抜くことができた。
マオさんが気を利かせてくれたのかいつの間にかいなくなっていて、ユノアさんと沢山の話をした。本人からユノでいいと言って貰えて、ユノさんと呼ぶ程に打ち解けられたと思う。
なんとユノさんはエリヤさんのお姉さんの番らしくその事を話すユノさんはキリッとした美人なのに恥じらい、頬を染めていてとても可愛かった。
暫くユノさんと話していたがアランが迎えに来たとマオさんに呼ばれ、ユノさんに挨拶をしてアランと一緒に家に帰る。
帰りがけにマオさんから明日からよろしくな!と声をかけられてそれが堪らなく嬉しかった。
「初めての同族はどうだった?」
「ユノアさんって言うんですけどとても綺麗で優しい女性でした!」
明日から頑張れそうです!そう言うと優しく良かったなと言ってくれる。
「ほとんど厨房にいるらしくてな、あまり姿を見ることができないらしいぞ?」
「えっ!そうなんですか。ユノさん料理上手なんですね。慣れたら色々教えて欲しいです…!」
そう言うとアランは料理は俺が教えたいと言って笑ってくれた。
そんな話をしているとすぐに家に着いた。
まだ夕方にもなっていない時間で少し休んてきたらどうかと言われたが明日からお仕事だし起きていたい…ということでアランにレターセットを貰って、ペンを借りてアイラさんたちに手紙を書くことにした。
暫く文字の勉強をしていなかったけれど大体覚えていたしアランが辞書も貸してくれたので助かった。
怪我の具合や怪我をさせてしまった事への謝罪、アランの事、これから始まる仕事の事、話の順番も書き方もバラバラになってしまったけれど言いたいことは書けたと思う。
封をして住所を書こうとしてあの帽子の裏にニーナさんが住所を書いて入れてくれたのを思い出した。
僕の荷物はどうなったのだろう。アランの家にはないし、やはりイルダのところだろうか。
部屋を出て一応キョロキョロと荷物を探してみるがやはり見当たらない。手紙を書いたのに出せないなんて…と落ち込んでいるとアランがどうしたと顔を出す。
「あの、必要なかったから気にしてなかったのですが、僕の荷物ってイルダのところにあったのかわかりますか?」
「あるぞ。この家に持って来て貰っている。何か必要なのか?」
「良かった!手紙を出すのに、住所が書いてあって。」
「住所は一応預かっているがミナトも持っているんじゃそちらを持ってくるか。荷物全部持って来ていいか?」
全部…シエロさんから頂いた服や荷物を見るのはまだ気が重い。
「えと、帽子だけ持ってきて貰ってもいいですか?すみません。」
大丈夫だと頷いて収納庫のようなところから僕の帽子を持ってきてくれる。
お礼を言って中の布を剥がそうと、はさみを手に取るとアランが小刀でパパっと剥がしてくれた。
あまりの手際の良さにおぉ!と見つめていると少し照れたように2つ折りの紙を差し出してくれた。
開いてニーナさんの書いてくれた住所を確認すると、それは見慣れたシエロさんの文字で。
少しだけ、ほんの少しだけ泣きたくなった。
それでも実際には涙はでなくて。それはきっと一緒にいてくれるアランのおかげで、その事に気づいてまた少し泣きたくなった。
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