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番外編 ニコさんジロさん

その頃のリオンとユキト

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 リオンに担がれてニコさんたちの家を出たけれど、流石に外に出れば降ろして貰えた。

「んもー、リオン、急に担がないでよ。びっくりする。」

「ふふ。すみません。急にユキトと二人きりになりたくなってしまいました。」

 しょんぼりとするリオンが可愛い。

「なにそれ。うける。でも俺も。」

「…驚くほど素直ですね?かなり酔っているみたいだ。抱っこしますか?」

 抱っこって子供じゃないんだからと、また笑いが出てくる。

「ううん。手、つなご?」

「あぁ、もう、ユキトといると心臓がいくつあっても足りません。」

「おーれーもー。俺もリオンといると心臓ドキドキして痛いくらい。、うわ!」

 道端でむぎゅりと抱き締められておでこにキス。
 何だかすれ違う人たちに微笑ましいというような視線を送られている。

「ほら、早く帰ろ?今日はリオンのところに泊まりたい。」

「…全く貴方って人は。どれだけ煽ってくるんですか…そう言えば、先ほど話していた不思議なお客さんの種族は何ですか?見た目の特徴は?」

 この時期は凄く寒くて。でもリオンが手をつないでくれるから繋いだ右手は暖かい。
 左手が冷たくて吐息で暖めているとそれに気づいたリオンは自分の手袋を片方貸してくれて、素手で繋いだ右手は繋いだままリオンのポケットへ。

「ふあー、あったかい。」

「それは良かった。私も暖かいです。それでユキト、質問の答えは?」

「うん?うーん。狼さんで、白っぽい銀で、イケメンだったよ。」

「いけめん?ですか?どういう意味です?」

「イケてるメンズ?格好いいみたいな感じ~」

 そう。不思議な狼さんはイケメンなのだ。ぱっちりくっきり二重瞼で筋肉モリモリでジロさんくらい身長がある。仕事も良くわからないけれど、筋肉を使う系らしい。

「…そうですか。あそこの団体の右端みたいな方ですか?」

 あそこ、と目線で示されてそちらへ目を向ければ飲み屋の前でぎゃあぎゃあと騒いでいる人たち。
 今夜は聖なる恋人たちの夜という、クリスマスみたいなバレンタインみたいな日なのだが、恋人がいないものたちは集まって飲み会をしたり家族でパーティーをしたりして過ごすそうだ。  

「そうそう、あんな感じのガチムチマッチョさん。ジロさんの方が凄いけど。」

 くふ、と笑みが洩れる。だってジロよりムキムキな人は見たことがないし、ジロさんより優しい人も見たことがない。…リオンは恋人だし例外だ。ニコさんもあんな見た目なのにお父さんみたいだし。家族のように夜道を心配されたり、ちゃんと食事してるか心配されたり、心配されることにあまり慣れていなくて強がったことを言いがちだが、本当は嬉しいのだ。

 ん?あれ?ガチムチって言ったの聞こえたのか、あそこのマッチョ近づいて来てない? 

「ユキトさん!」

「………あぁ!ご本人だ。うけるー。」

「何が面白いんですか?ご本人って俺の話してくれてました?嬉しいなぁ。」

「ユキト、こちらは?」

「えっと…」

 本人の前で不思議な奴とは言えないし、名前は言ってた気がするけど覚えてない。だが、俺は酔っている。だから大丈夫なのだ。

「常連さん!この隣にいるすっげー綺麗なのが俺の恋人~。」

 にへにへと笑いながらリオンへぴったりくっつくと、ポケットの中で繋がれた手にきゅっと力が入る。
 常連さんをリオンへ紹介することは諦めた。名前知らないし。

「…知ってます。リオンさんでしょう?この人はてっきり受けかと思ってました。…細いし綺麗だし。」

 リオンで細いとか、俺は何なんだろう…そしてイラつく。

「そう?俺の事持ち上げられるくらい力あるよ?」

「俺だったら片手で持上げたままトレーニング出来ます!」

 何それ誰得?何の自慢?

「そうなんだ…凄いね…」

 正直どうでも良いけれど…ってか寒いから早く帰りたいのだけれど。

「はい!なので俺と付き合ってください!!」

 ヒューヒューと冷やかす声と顔を真っ赤にさせてゲラゲラ笑っている彼の仲間たち。
 俺もだけど、こいつらも完全なる酔っぱらいだ。

 リオンが背筋の凍るような微笑みを携えて一歩前に出ようとするから、繋いだ手を引いて止めた。
 これは俺に売られた喧嘩だから俺が買うのだ。

「無理。リオンは俺のなの。俺だけのリオンなの。お前の入る余地はねぇ!」

 ビシリと言い切るとヒューヒュー、ゲラゲラが大きくなって俺の気も更に大きくなる。だが目の前の常連だけが固まっている。「いやっ、違っ…」と言いかけているのに気づきながら敢えて言葉を被せる。
 何かリオンも笑ってねぇ?告白された張本人なのに余裕か!

「そ・も・そ・も!折角注文して、折角作った花束を簡単にいらないなら捨てても良いとか言うような奴、俺は嫌いだ。リオンの事好きならそういうの直して出直してこい!あと、リオンの事綺麗とか言わないで。リオンの事見ないで。むかつく。あと、あと、リオンは受けじゃないし、アソコもでかいし、俺が受けだし、いつも気持ち良くしてくれるし、力もなくない!俺の事乗せて動いてくれるし、何なら抱っこして立ったままでもよゆー、何度もイカせてくれるし、イキ過ぎて潮も、ぶわっ」

 いきなりリオンの手に口を塞がれる。

「ユキト。面白いし嬉しかったから言わせといたけど、後半は無理。ここにいるクソ脳筋共がユキトの恥態を想像するとか耐えられねぇ…」

「え?えぇ?ここで敬語じゃなくなるの?え、無理。条件反射で勃起した…」

 こそりとリオンに報告したのに、音が聞こえるくらいにリオンのこめかみに青筋が立った。
 物理的にもブツリと布が切れる音。
 綺麗なグレーのロングコートからバサリと大きな羽が出てくる。
 抱えられて、少しだけ慣れてきた浮遊感を感じる。
 プレゼントが決まらなくて、何も用意出来ていなかったけど、今決まった。
 明日、新しいコートを買いに行こう。酔っ払った頭で明日の予定をホクホクと考える。



「…明日、起き上がれると思うなよ?」

「ちょっとー、更にギンギンになっちゃうよ!」





 酔いが覚めて後悔するまであと少し。





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