可愛いあの子を囲い込むには

まつぼっくり

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第二章

元魔王のマオさん

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 獣人の国を通って、転移の許可が下りるところは転移して。ようやくマオの生まれた国へと到着した。

「あー、もう帰りてぇ。」

 隣り合う国はなく、枯れた平地が続く。魔王城と呼ばれる城の周辺は、おどろおどろしい雰囲気で空気まで濁っているように感じるのだが、マリアとメルロは好戦的な瞳をしているし、シズカはマオの頭を撫でているし、ジジイ共は馬車移動疲れたと文句を言っている。



「ようこそいらっしゃいました。」

 いつの間にそこに居たのか、片手を胸に当て腰を折る魔族は立派な角が二本。

「んぬ!我は元魔王のマオぞ!我を知っているか!」

「ええ、勿論です。元魔王様、こちらへどうぞ。」

 ふよふよと近寄るマオの頭を思わず鷲掴んで引き離す。

「ステラリオ!痛いぞ!」

 煩いから無視。先程までマオがふよふよと浮いていた場所には一本の剣。

「あぁ、流石エルフですね。そこの元魔王はヒトに負けたというだけでも魔族の恥晒しなのに、今は浄化されて共に生活していると聞きまして。」

「だから何。」

「魔王様の側近である私が殺しておこうかと。」

 淀みない言葉にシズカが息を呑む。

「まぁ、良いでしょう。魔王様の元へご案内致します。」

 固まるマオをシズカがそっと引き寄せて外套の留め具を外して中へと押し込む。

「シズカ、出しとけ。」

 そんなんしたらシズカごと狙われる。

「だめ。マオさんは僕の家族だから、一緒にいる。」

 振り返った魔族の胡散臭い微笑みが気持ち悪い。

「あのぅ、ごめんなさい。聞きたいことがあるんですけど……」

 右手を軽く上げて魔族へ質問するのはマリア。

「妖精族のマダム、何でもお聞きください。」

「少し前にこちらからの呪いにやられてとっても痛い思いをしましたの。術師はどちら?」

「あぁ、血気盛んな者たちが申し訳ありません。それなら右手に見える呪いの塔の誰かでしょう。」

 少しも申し訳ないと思っていない様子の魔族に怒りを隠しきれていないマリア。

「そちらへ伺っても?」

「えぇ。案内は必要ですか?」

「結構よ。……ステラリオ様、私はそちらへ向います。シズカちゃんとマオちゃんも一緒にどうかしら?」

「僕はリオと一緒にいます。マオさん、マオさんはおばあちゃんと居てくれませんか?」

 間髪入れずに即答するシズカ。あの対応を見て、マオは連れて行きたくないのだろう。

「…んぬ。家族がいるか確かめたいのだ。我は一人で大丈夫だから、シズカとステラリオはマリアと行くが良い。」

 もぞもぞと出て来ようとするマオをシズカが抑える。

「僕もマオさんの御家族にご挨拶したいです。今は僕が家族ですって宣言します。」

 ふるふると震えながらマオの頭を撫でるシズカは強い。
 ニコラスは当たり前のようにマリアに付いていくし、ヤサはとりあえずマリアたちに付いて行って貰う。

「話は纏まりました?元魔王の血縁は現魔王様だけです。貴方がみっともなくヒトに負けた後御即位された最強の魔王様となります。貴方は少しだけ早く生まれ、馬鹿みたいに直ぐにヒトの国へ行き負けましたから、何も知らないでしょうが、きちんとした魔王教育を受け、御両親を殺して現魔王様となりました、とても素敵な方です。」

 恍惚とした表情で現魔王について語り出す気持ちの悪い奴。

「あー、両親が死んでるのわかったから正直もう良いのだが。」

「いえ、魔王様がお待ちです。ご案内致します。」

 溜息ひとつ吐いて、シズカの手をしっかりと握り直した。




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