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第二章
エルフになる
しおりを挟むやる気漲るマリアとメルロ。やる気のないヤサとニコラス。んぬんぬうるせぇマオと、可愛い半身のシズカ。そんでそんな可愛い半身に溺れている俺。
ちなみにマオとメルロは朝が早く、騒いでいたからか昼寝中。
今朝早くに森の家を出て、エルフの里の端まで転移した。そもそもこの里自体が幻惑をかけて隠してあるからエルフは国を持たない。ひっそりと、自分たちの好きな事をして永い年月を生きている。ここからは馬車で移動。御者は以前の二人が引き受けてくれた。……危なくなったら二人同時に一番に転移という条件だったけど、付き合わせてるんだから当たり前。
「ハイ作戦会議。意見ある奴どーぞ。」
ハイハイと手を挙げるマリアに嫌な予感しかしない。
「はい、私とニコラスに呪いをかけた魔族をぶん殴るわぁ。」
「マリアがそう言うなら俺もそれが良いと思う。」
この夫婦は本当にブレない。げんなり。
「俺はステラリオが遠くから魔王城に向けて特大の魔法攻撃をして、様子見が良いと思うのう。魔力切れを起こしたら置いて逃げよう。」
いやお前がやれ。
「うーん…マオさんのご両親がいらっしゃるならマオさんはお話したいと思う。お話出来るかな?」
優しくて窺うような顔がめちゃくちゃ可愛いが、無理。
「無理だったら二人で逃げような。逃げられなかったら腕の中に転移。」
何でシズカにしか返事をしないんだと文句を言われるが、無視して隣に座っているシズカの腰を引き寄せる。揃いの外套が嬉しくて肩に顔を埋めて深呼吸。耳が赤く染まっているのが可愛い。
「ってか、魔王城とか本当にあるのか?」
「あそこも一つの国だからな、あるぞ。人の国から搾取を繰り返す鬼畜な国だ。この度エルフを献上すると文を出して受け入れられたのも納得だわな。」
だはは!と笑うヤサには殺意しかわかないが、まぁ、こうでもしなければ近づけないのはわかっていた。
「……リオ。」
「近づけたらこっちに手出ししないように契約……出来なかったら何とかしよう。あとこれは俺も初耳。でもこのやり方が一番最短でぶん殴れそうだぞ?」
「ヤサさん…僕も。」
「無理無理無理。」
「約束破るの?」
「…無理じゃない。はぁ、好き過ぎる。」
にっこり笑顔。可愛いのに笑顔が怖い。常に一緒に居て、最悪共に逝こうと決めたのに、いざとなったら躊躇するのは仕方がない。
「お前らは離れてるよりくっついていた方が良いだろう?何、人になるのが得意な俺がシズカに力を貸してやろう。」
ヤサの得意な魔法は変身魔法。確かにこいつは人に化けて神官長なんてものをしていたが、誰にもエルフだとバレていなかった。
「猫にでもすんのか?」
「動物にするのはちと難しいのう。」
自分になら出来るのだが…とシズカの額に皺くちゃな手を添える。
「エルフ?」
シズカの耳が俺やヤサのようにエルフ特有のものへと変わり、艷やかな漆黒の髪も背中まで伸びた。
「すげぇ可愛い。このまま連れて帰りたい。」
自分が変化したのにキョロキョロと左右に視線を走らせる。
「ちょっと背も伸びた気がする…!」
立ち上がって嬉しそうに瞳を輝かせるシズカ。実際に立ち上がって見せてくれるが……
「身長は変わってないな。」
「変えとらんぞ。」
「そんな……」
両手で尖った耳をそろそろと触りつつしょんぼり。
「体格まで変わったら揃いの外套や指輪が合わなくなる。それにしても可愛い。やっぱ髪が長いのも似合うな?」
サラサラとした長髪になって髪紐が取れかけているから後ろを向いて貰って一つに編み込む。
「あ、僕もリオの髪、後ろでみつあみにしたい。」
「ん。ぜひやってくれ。」
笑い合って髪を結い合っていれば急に大きな声を出すマオ。うるせぇ。
「んぬぬぬぬ!だだだだだれじゃ!」
「あ、マオさん起きました?僕です、シズカですよ。ヤサさんにエルフにして貰いました!」
「んぬぬぬぬぬ…」
『ムムムッ!』
メルロはすぐに気づいてシズカの肩に乗ってムイムイ。対するマオはんぬぬとシズカの周りをうろうろ。
「マオさん、エルフの僕は苦手ですか?」
「んぬ!見た目は変わってもシズカはシズカであったぞ!似合っている!」
ホッと一息ついたシズカが俺を見上げて微笑みかけてくるからどきりとする。
「んぅ、麗しのエルフ様は難しいね?」
無邪気に笑うシズカはどのエルフよりも麗しい。
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