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第二章
聖魔法
しおりを挟む『ムムムムムムムッ』
皆で戻ればマリアは寝転んだままメルロに花びらをあげようとしているし、メルロはそれを拒否してムムムッと唸りながら風を送っている。冷やしているつもりだろうか?こいつは元から賢いが、今は毎日毎日夜光草を食べているからか、更に賢い。
「マリア!我が代わろうぞ!」
「あらぁ、マオちゃんは優しい子ねぇ。メルちゃんも私たちを気遣って全然食べてくれないのよ。」
こいつは常にマリアやシズカから花びらを貰っていたから家の中では勝手には食わない。外へ出れば狂ったように頬に詰め込むけど。
「おばあちゃん、魔法で黒いモヤモヤ取ってみるね。」
シズカがマリアの腕へと手を伸ばせば首を振るマリア。
「ニコラスを先にしてくれる?私より早く熱を出してるからその分辛いはずよ。」
マリアの意を汲むシズカは隣のニコラスのもとへ。
「マリアを先にしてくれ。可哀想だろう。」
こくりと頷いてマリアへ顔を向ければ首を振られる。
「よし!じゃあ二人同時に…!」
「無理。ひとりずつな?」
慌てて止めて、後ろから抱き締める。
「辛そうだったら無理にでも止めるからな。」
「はい、あのさ、聖なる光よってやれば良いかな?」
以前の事を思い出しているのか、俯く顔をあげさせる。
「いや、声に出さなくてもいけると思うが…やってみ?」
「じゃあ、やっぱり先に噛まれたおじいちゃんからいきます。」
二人も不毛な言い争いだと思ったのか、今度は大人しい。
ニコラスの足元に座り、両手をシズカのいう黒い靄のところに当てる。
「マオさん、ここであってますか?」
「んぬ!合っておるぞ。」
瞳を閉じて、きっと心の中で聖魔法を唱えているのだろう。口がむにゅむにゅと動くのが可愛い。
「おおっ…!身体の怠さが急に無くなったぞ!シズカ、ありがとうなぁ。」
「わ!良かったぁ…次はおばあちゃんです!」
シズカの様子は大丈夫そうではあるが…
「魔力が無くなった感じはするか?痛いところやおかしなところは?」
「ないよ、大丈夫。ふふ、心配しないで?」
額に触れたり腕を擦ったり。心配しないは無理だ。心配し過ぎて禿そう。
「おばあちゃん、腕に触れるね。」
同じように聖魔法で浄化…なのか?以前のマオのように白い靄になって散っていきながらふわふわと漂うモヤからはもう悪い気は感じない。
「おわり?」
「おばあちゃん、孫に優しくされて幸せよ。」
「……良かったぁっ」
ぽとりとひとつ涙が落ちれば、そこから箍が外れた用にわんわんと涙を流すシズカを強く抱き締めた。
「おじいちゃんとおばあちゃんが死んじゃったらどうしようかと思ったっ…!」
『ムイッ!』
「もう、ぼく、どうしようかとっ…」
こんなに大きく感情を出すシズカは初めてで、抱き締めて、背中を擦れば苦しそうに胸を上下させる。
「うあぁぁ…!我も!我も哀しいぞ!死ぬな!」
いやもう死なねぇし。こっちはこっちでつられて泣き出すマオ。
「やだ…もう、私も泣いちゃうわぁ。本当にありがとうねぇ。」
ハンカチ片手に目元を押えるマリアとそんなマリアに寄り添うニコラス。
いや、シズカ以外泣いても全く可愛くねぇ。
シズカは俺の腕の中から出てよたよたとマリア腕の中に収まった。頭を撫でられ手を握られ、やっと一息。マオとメルロも二人の周りで騒いでいるし…
「お、どうしたステラリオ。」
「なんか飯作るわ。栄養有るもの食え。肉とか。」
「…やだわぁ、おばあちゃん感動しちゃう。ステラリオ様がこんな…気遣い…」
やめろ俺が普段何もしないみたいに。お前らは妖精族、そうそう体調も崩さないだろ。何かあったら治癒すれば済んでいたし。
「んっ、りお…ぼくも…つくる。」
「大丈夫。シズカは二人を見てて。」
こんなに泣いているのに健気で優しい。こいつらは家族だから良いかとこの場を託してキッチへと向かう。
「えらいのう、ステラリオ。」
「お前はパンを焼け。」
俺も休みたいと駄々こねるジジイを引っ張って連れて行く。
「シズカはあんなに泣いて……可愛いのう。」
「あぁ。」
シズカが可愛いのなんて当たり前だ。
「まぁ、とりあえずは良かったわな。」
「あぁ。」
幼い頃から知っている二人が無事で良かった。頭をぐしゃぐしゃに撫で回すヤサの手を叩き落とした。
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