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第二章
可愛い子のお願い
しおりを挟む静かで美しい空間で、時折パチパチと炎が跳ねる。
ココアに焼いたマシュマロを乗せて両手でマグカップを持つシズカを只々抱き締める時間…この時間が永遠に続けば良いのに。
「寒くねぇ?」
「ふふ。大丈夫、あったかいよ。」
シズカが寒くないかが心配で先程から何度も聞いてしまっている。
その度に笑って返事をしてくれる事が嬉しい。
「パンを炙ってー、チーズもとろとろにしてのっけてー、ハムものせてー、ん、出来た。リオの好きなハムチーズパン!」
体を小さく揺らして不思議なリズムを取りながら作ってくれたのは俺が以前美味いと連呼したもの。シズカが作る食事は大抵が美味いのだが。
作る過程での動きが可愛過ぎるから異空間に収納しておくべきだな。
「りーお!ちゃんと食べてね?」
……ジト目で見られたら食べるしかない。
「美味い。シズカが作ってくれたから更に美味い。」
「リオってばそればっかり。でも、ありがとう。」
サラサラな髪を撫で付けて、自分用の珈琲を飲みながら幸せな時間を過ごした。
「シズカちゃん、メルパンみっつ!」
「はい!メルパンが三つですね。」
いつも通りシズカがパン屋をオープンする日、昼前には店内へ入り、入り口近くの壁を背にして目を光らせる。
「ねぇ、このパンは新作?」
「んぬ!それはシズカが作ってくれた我のパンぞ!美味いぞ!いっちばんうまい!」
『ムームー!』
「マオさん、メルさんのパンも美味しいですよ?」
一口大にちぎって口元へ持って行けば大口を開けてシズカから直々に口に入れて貰っている。
「んぬ!メルパンも美味いな!」
『ムイッ!』
「そうでしょう?メルパンはクリームが入っているし、マオパンはチョコレート。どれも違う見た目と中身だけど、全部美味しいんです。」
「シズカはかしこいな!」
「そうですか?ありがとうございます。ふふ、メルさんもマオさんも可愛いです。」
よしよしと頭を撫でるシズカの瞳は慈愛に満ちている。あー、可愛い。
「それでこの子はどこの子なの?ステラリオの愛が重過ぎてシズカちゃん……生んだ?」
何聞いてんだこいつらは。
「えぇっ!そんなわけないです。僕は男だから生めません。この子は白いほわほわだったマオさんです。」
「あらそうなの?あの激重ステラリオはいつかそういう魔法を創り出すんじゃないかって噂されてるのよ。でも、あの綿毛みたいだった子がねぇ…お手伝い偉いわねぇ。」
何だそのしょうもない噂は。シズカがいれば他はいらねぇ。
「んぬ!我はよいこだからな!お手伝いくらいできるぞ!」
「はい。マオさんはとっても良い子な元魔王さんです。もちろんメルさんもとっても良い子なメルロさんです。」
げんなりとした気持ちがにこにこと笑うシズカを見て昇華される。
「シズカちゃん、親みたいねぇ。可愛いわぁ。」
「親とは何か!」
「家族で…マオちゃんを生んでくれた人よ。お父さんとお母さん。」
「シズカは我の親か?」
「えっと…」
シズカは困ったようにキョロキョロ。俺を視界に入れるとホッとしたように息を吐く。
「シズカはお前やメルロの親ではない。生んでねぇし、養子でもない。俺の半身。」
嘘は言わない方が良いだろう。それに、魔族なんて元々血縁なんて気にしないだろ。
「あ!でも、家族だと思っているし、親だと思ってくれて良いんだよ?」
「そうか!シズカと家族か…良いな!……我は父と母にも会いたいぞ!」
「……え?マオさんご両親、いるの?」
「いるぞ!思い出した!我を生み出したのが親であろう!」
げんなり。無理だろ。いるかもわからない元魔王であるマオの親とか…ヤバイ奴でしかない。
「お前の前の魔王か?」
「んぬ!我は元魔王のマオぞ!そうだった気がするな!」
「……リオ。」
あぁ、会わせたいって顔してる。無理だろ…こいつは生まれたばかりで糞女を喰おうとしていたし、簡単にシズカを捕らえた。直ぐに転移で戻ったが…そのマオの親。こいつが生まれて即魔王になったという事は、弱ってはいるだろうが…今、魔王の治める国がどうなっているかの情報はない。
「愛するシズカのお願いでも、無理だ。」
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