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番外編

新たな日常 1

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 全てが落ち着いて、森の中に小さなロッジ調の家を建てた。
 一階は生活に必要なキッチンや水回り、ダイニングなどで、二階は寝室と風呂だけ。
 ゆったりと生活して、エルフの里にも拠点を作った。
 それは、俺が元々していた魔法研究をするのに丁度良かったし、何より…シズカがパン屋をするのに都合が良かったからだ。

 エルフの里で半身として挨拶をして回りたいと言い出したのはシズカ。そんな事はしなくても良いのだが、万が一に備えて顔を覚えて貰った方が良いと考え直した。
 マリアやヤサに手土産は何が良いか聞いたシズカは、いつものあのパンが良いとものすごい熱量で言われ、大量に作り、配った。
 蔓で編んだ大きな籠に沢山のパンを詰めて、挨拶を兼ねて配り歩いたシズカの姿は綺麗なものが好きなエルフたちに"可愛い"を植え付けた。
 可愛いシズカが作った可愛いメルロや羊を模したパンは大いに受け、連日森まで買いに来る始末。
 二人の生活を乱されるのが嫌で、家で余裕がある時に作って、俺が里に行くときに一緒に行き、シズカはマリアとパンを売る。
 エルフたちも弁えて必要な会話しかしなくなったし、何故かあの時の御者二人がパン屋が開くとパンを食べながら店の横で座り込んでるものだから、助かっている。
 謝礼として、珍しい植物や素材を渡しているが、もう護衛として二人を雇おうかとも考えている。











「…んん、りお、おはよう。」

 寝起きでふにゃりとしているシズカは変わらず可愛い。

「おはよ。」

 そのまま抱き寄せて、ごろごろと過ごす。
 頬に手をやればすり寄って来るし、胸のなかに埋めれば頭をぐりぐりとしてくれる。
 少しずつ覚醒していくのが可愛くて、何時もならここで手を出してしまう事もあるが、今日は里へ行く日か…はぁ、時間を止めたい。研究しよ。

「んー、起きる、…!」

 意気込んでから、意を決したようにがばりと起き上がるシズカの額に触れるだけの口づけをして、一緒に一階へと降りた。

 身支度を整えて、朝食を取って。
 今は全てを自分達でしているから、シズカが洗濯物を両手で抱えて外へ行くのを見て、追いかけて魔法で綺麗にする。

「あ。もー、今日はお洗濯したかったのに。」

「悪い。でも、今日は里に行く日だろう?」

 何故かシズカは洗濯や掃除など、魔法に頼らず自分でやりたがる。

「わあ、そうだった!リオありがとう。明日はお洗濯しても良い?」

「もちろん良いが、何がそんなに楽しいんだ?魔法のが楽だぞ?」

「え…?…んっと、あのね、リオのシャツとかを手洗いするのはね、僕だけの特権というか…ね?パートナーというか、家族というか、夫婦というか、伴侶というか…」

 ごにょごにょと語尾につれて小さくなる声もきちんと聞こえている。

「あーもう、シズカが可愛い過ぎて辛い。」

「ふふっ。なにそれ。」

「好きってこと。」

「…僕も、すき。」

 朝からもう一度ベッドに戻りたい。
 とりあえず一通り触れて舐めて甘噛みしたい。
 もう、今日は家に篭ろうと手を引くタイミングでシズカはにっこりと笑って距離を取る。

「そろそろ出発の時間だよ…!」

 溜め息をひとつ。最近、シズカは俺の扱いが上手くなったとヤサに言われたのを思い出す。

「はぁ、行くか。」

 行きたくないけど。
 シズカが笑っているから何でも良い。








 里までは転移でも良いが、時間があれば一緒に歩く。疲れたら転移すれば良いし、数分でも隣を歩くのは楽しい。

「あ、見て?木苺!摘んで行っても良い?」

「ん。俺たちの土地だし、構わない。」

 プチプチと手際よく収穫するシズカの口へ採れたての木苺を放り込む。

「んむっ、おいしぃ~、はい、リオもあーん。」

 差し出されるシズカの指ごと口へ含めば、頬を木苺色に染めて見上げるその姿が可愛くて可愛くて。

「んんッ…りお、ん、だめ。」

 気がついたら唇を奪っていた。

「だめ?」

「、だめ。ちゅう、だめ。ふぁッ、」

 止まれるわけがない。

「あー、瞳がとろんてして可愛い、心臓止まりそう。」

「…なにそれ。」

 むぅ、と拗ねたその顔は反則。
 そろそろ怒らせてしまいそうだから、自粛して、さっさと終わらせてさっさと帰ろう。

「帰ったらちゅーして良い?」

「…だーめ。」

「あー、もー、可愛い。」

 本当に。

「あのね、この木苺でジャム作ろうかな?それとも生地に練り込んで焼こうかな?リオはどっちが良い?」

「シズカが作ったものなら何でも食う。だが…確か、この木苺は加熱すると色が変わる奴だと思う。」

「えぇ、…じゃあ、おばあちゃんに調理方法相談してみるね。」

「ん。また、昼に来る。」

 結局店まで転移して、頬にキスして名残惜しいが離れる。
 店を出るところで、シズカが駆け寄ってきて内緒話のような仕草をするから背伸びしたシズカの口元へ耳を傾ける。

「、帰ったらちゅうと、…ぎゅうもして良いよ。」

「して良いの?」

「…して欲しいの。」

 そのまま俺の頬にチュッと軽くて柔らかい感触。
 全く…この子には敵わない。











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