可愛いあの子を囲い込むには

まつぼっくり

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可愛いあの子を囲い込むには

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 すげぇ幸せな夢をみた。
 起きた今は覚えてないけど、暖かくて、優しい夢だった。だが、それを上回る程の幸せを腕の中に感じる。
 腕の中にシズカ。それは抱き締めて眠った時と変わらない。違うところは…人形のように眠っていたシズカの細い腕が俺の服を掴んでいる。きゅっ、と胸辺りの服を掴む事が多い可愛いシズカ。良く見れば、顔も俺の胸に埋めているし、そろりと撫でればもにゅもにゅと口元を綻ばせる。

「…も…たべれ…ない」

 普段なら起きるまで寝かせてやるけど、今日はもう良いだろうか?

「はぁ。寝言まで可愛い。」

「…んむうッ…!」

 鼻を軽く摘まめば顔を振って、その可愛い瞳を開く。

「…りお。おはよ。」

 ふにゃりとした顔で思い切り抱きつくシズカをきつく抱き締める。
 俺が返事をしないでいるからか、そろりと顔を覗き込んであたふた。どこか痛いかとか…んなわけない。あ、そんな事あった。心が痛い。シズカが起きない間は心が痛くて痛くて死にそうだった。そんで、今は嬉しくて…嬉し過ぎて心が痛い程。そう伝えれば、きょとん顔。いや…可愛いけど。

「お前、5日も起きなかった。俺、辛すぎて死にそうだった。」

 シズカはハッとした顔をして、変にカタコトになる俺の頭を抱き抱える。

「…思い出した…、あの、心配かけてごめんなさい。それで、…マイカと魔族さんは…どうなった?」

 自分の事よりも人の事を考えてしまうシズカにやっと笑う事が出来た。何だ、魔族さんって。

「ふは。シズカ可愛い。」

「もー、どうなったか、教えて?」

「もうちょっと、ぎゅうってして、シズカを堪能出来たら。」

「…ぎゅ。」

 あー、可愛い。

「魔族は何か知らないが小さい光の玉になってメルロといる。危害は加えないが、消しても良い。むしろ消したい。真っ白。あと、元魔王らしい。」

「まおう…マオさん?」

「…ん。シズカが呼びたいように呼べばいい。糞女は、とりあえず捕まえてある。俺は、殺しときたい。あいつがシズカにやって来た事は許せることではない。王子たちは記憶消して、捨て置いた。許可取ってるし、あの国の為でもあるからそれに対してはもう関わりを持ちたくない。」

 シズカが何かしたいなら別だけど。一発殴りたいとか、首跳ねときたいとかなら一緒にやる。

「んと、マイカの事は僕が考えてもいいの?」

「良い…が、俺にも譲れないところはある。このまま仲直りしましたーで近くに居るとかは、本当に無理。王宮の牢屋に入れとくとかもそのうち何か仕出かしそうだから、無理。」

「…ん。わかった。何度も言うけど、僕の一番大切な人は、リオだよ。」

「ありがとう。俺も、何度も言うけどシズカが俺を選んでくれるなら、シズカの大切なものは守りたい。…糞女は例外だけど。」

「もー、糞女じゃなくて、マイカだよ。……マイカと話したい。一緒に来てくれる?」

 当たり前だ。一人でなんて行かせるか。
 病み上がりだからと歩けると言い張るシズカを抱き上げて、糞女の元へ転移した。

 ひやりとした石壁。一部屋に生活用品は全て揃っている。
 外部と接触させない為に食糧は全て転移。手足には長い鎖がついた足枷と手枷。
 この部屋から出る事は、不可能。外には何も無い、魔法で作られた部屋。
 いきなり現れた俺たちをキッと睨み付ける糞女。しおらしくしてれば良いものを。

「ッ、シズカ!あんたのせいで…!あんたのせいよ…!」

「ハイハイ黙って。助けて貰ってその態度、馬鹿なの?殺されたいの?殺してやるけど。」

「…エルフさんっ!助けてくださいっ!こんな…こんな、ところに監禁されてるんです…!」

「ねぇ、俺がやったってわかんねぇの?」

「…え?」

 もう話す事はない。何やら喚いているが、無視して腕の中のシズカを堪能する。

「…マイカ。」

「なによっ、なんなのよっ!」

「あのね、落ち着いて聞いてね?マイカは日本に帰りたいんだよね?」

「当たり前じゃない。こんな文明の遅れてる世界なんてもううんざり。」

「うん。でもね、もう帰れないの。」

「帰れるわよ!あんたが生け贄になれば!」

「ううん。帰れないの。僕はここでリオと生きて行くから。もちろん、他の人を生け贄になんてしちゃだめだよ。」

「嫌よ!あんたが生け贄になりなさいよ。」

 あー、糞苛つく。シズカの首筋に鼻を埋めて、耳ともで殺して良いか問う。

「りお、だめ。マイカも、無理。」

「だから、あんたのせいだって言ってるじゃない!あんたの部屋で、あんたの下が光った。紋章みたいなのが向こうで流行ってたゲームとそっくりだったから…あんたが主人公になってちやほやされるなんて…嫌だったのよ!あんたは一生私の下僕として生きていけば良いの!一生私に痛め付けられれば良いのよ!」

 思わず力の籠った腕を優しく撫でられて、頬に口づけを送られる。…はぁ、可愛い。落ち着いてって瞳が語っている。

「うん。ごめん。無理なの。マイカ、今選んで?王子様たちのところへ行くか、あの国に頭を下げて聖女としてまた頑張るか。…マイカの好きなところへは行かせられない。」

 堂々と、そして淡々と話すシズカにもう無理だと悟ったのか、ぶるぶると震える姿はただただ気持ち悪い。

「ロイドはどこにいるのよ?」

「馬鹿王子たちは記憶消して5日前に国外追放。」

「はぁ?何してるのよ!そんなのとどうやって暮らせって言うのよ!?金がないなら意味ないじゃない…!」

「んじゃ糞聖女一択で。」

「不細工に体を触れられるのは嫌よ!」

 めんどくせぇ。気持ちわりぃ。

「あぁッ、もう嫌っ!本当に、不幸だわ。こんな人生なんて……そうだ!私の記憶も消してよ!シズカの事なんて覚えていたくない。もう忘れたい。それで他国の裕福なイケメンに保護して貰うの。それで良いでしょう…!?」

「…マイカ、」

 駄目だとシズカが答える前に了承の答えを伝える。

「りお…?」

「シズカはちょっとだけ部屋の外にいて?俺の事忘れたら困る。可愛い子限定でここ出たらヤサのところへ行けるようになってるから。」

 あんたを記憶から消せるなんて清々すると狂ったように高笑いする糞女。そんな糞にもきちんと別れの挨拶をして、後ろから俺に抱きつく。
 ふふ。精神操作無効の魔法とか…可愛すぎる。

 ぱたりとドアが閉まれば途端に甘えた声を出す醜い奴。吐きそう。

「口を開くな、黙れ。」

 魔法で口を閉じさせて、眼前に移動する。

「お前の記憶は消さない。お前が消す事を望んだから、消さない。そんで俺たちが住む国へお前が足を踏み入れたら頭が吹き飛ぶ魔法かけとくから、確かめたいならご自由に。シズカに害を与えようとした時も然り。いいか、これはシズカの優しさだ。シズカがいなければお前など存在に値しない。…二度と顔を見せるな。」

 言うだけ言って、王子たちとはまた違う国の森の奥深くへ飛ばす。裕福な相手?身の程を知れ糞が。









 直ぐにシズカの元へ行けばヤサやマリアとニコラスに抱き締められてるし、メルロは肩から降りないし、元魔王をマオさん何て呼んで可愛がっているし。
 半身が可愛過ぎて困る。







 可愛いあの子を囲い込むには…半身に重いくらいの執着があって、半身を溺愛していて、魔法が使えなければならない。メルロを飼っていて、麗しのエルフ様にもなれないといけない。そして、可愛い可愛い半身を守る為ならば、笑顔で嘘もつけないといけない。

 可愛いあの子を囲い込むのは、俺にしか出来ない事。
 可愛いあの子を囲い込む事が出来るのは、俺だけで良い。












 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


ここで本編完結とさせて頂きます
読んで下さってありがとうございました
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