可愛いあの子を囲い込むには

まつぼっくり

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優しすぎる可愛い子

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 1日1日がゆったりと過ぎていく。
 そろそろ目的の地に着くだろう。旅行、とまではいかないが、それなりに楽しめていた。

 本当に、楽しい事が続けば糞みたいな事も起こる。
 馬車の中で、シズカの書き取りの練習を見ていた。黙々と行うその姿勢は背筋がシャンと伸びていて、可愛いと言うより綺麗。
 時折構って欲しさにちょっかいをかけつつ、見守っていた。
 そんな中、結界の揺らぎを感じる。
 ビリビリと人なら痛むだろうに、無機質な物には効かない。ひらひらと封筒が飛びながら、シズカの目の前に落ちた。

「…糞が。」

 あいつはシズカがここにいると確証が欲しくて手紙を飛ばしたのか。きっとそうだろう。外に気配を感じる。手紙の行方を見ながら飛ばしたであろう事実に頭を抱えたくなった。
 何故そっとしておいてくれないのか。

 御者側の連絡窓から一枚の紙切れが飛んでくる。

「聖女、魔力が凄く高い奴とセックスしたらしい。」

 気持ち悪い。それでこんなちっぽけな魔法が使えるようになったとか、気持ち悪い。

「お手紙…マイカだよね?」

「読まなくて良い。もうじき旅も終わるし燃やしておこ。」

「もー、一応読むよ。」

 そう言って封筒を太陽に透かせて見て、手で開けるのを止めてハサミを取り出す。
 上の部分を切って便箋を取り出す。シズカが切り取った部分を見れば、薄い刃がついていて、それを当たり前のように気づいて回避したシズカに悲しくなった。

「見ても良い?」

「いいよ。でも、日本語だよ。」

「大丈夫、何となく読める。」

「え?何で?」

 シズカがこちらの文字表に母国語を書き込んでいたから、こっそり覚えたのだ。知らないより知っていた方が良い。そんな単純な考えからだったが、まさか役に立つとは。
 俺が覚えたのはヒラガナというものだけだが、ほぼほぼこのヒラガナで書かれていたから理解出来た。
 要約すると、シズカへの恨み辛みと、こちらへ来いという事。
 糞女のシズカに対する執着は何だ?
 憎悪があれば関わらなければ良いものを、何故こんなに執着する?

「んと、もう、ここにいるのはバレてるから、お返事書いても良い?」

「は?書くの?」

「だめかなぁ…ハッキリ言わないとわからない子だから…怒るとは思うけど…直接は怖いけど、最近はね?そこまで怖くないの。リオがずっと隣に居てくれてるからだよ?」

 あぁ、可愛い可愛いシズカが最近めっきり綺麗で美しい。
 少しずつでも自信が出てきてるのが、表情に出ているんだろう。
 シズカが糞女に向き合おうとしているなら背中を押してあげたい。
 そんで全部が終わったら、最後にこっそり殺しておきたい。

「ちょっとだけ、意地悪しちゃう。」

 そんなシズカはやっぱり可愛い。どんな意地悪をするのかと思えば、こちらの文字でスラスラと文章を書く。糞女は自分で読めなくて苛立つだろう。本当にうちの子は頭が良い。ヒラガナも、シズカの文字は綺麗だったけど、あいつの手紙のヒラガナはぐちゃぐちゃで汚い。

「…リオの半身は僕って書いても良いかな?」

 そう窺うように上目遣いをされて…はぁ、滾る。可愛い。

「ぜひ、書いてくれ。」

「ん。出来た。飛ばしてみるね。」

「いや、俺がやる。」

「ううん。やった事ないから、やってみたい。」

 知ってる。だからこそ、だ。

「初めては俺が良い。」


 笑い声が聞こえる。
 マリアとニコラスだろう。

「凍った空気が溶けましたねぇ。シズカちゃん、お手紙何て書いたの?」

「えと、リオは僕の半身だから魅了しないでって事と、周りにご迷惑かけないようにって事と、僕はマイカのところには戻らないって事と、自分を大切にしてねって…怒るだろうなぁ…」

「馬鹿とか糞とか書けば良いのに。」

「ふふ。書かないよそんな事。じゃあ、リオこれお願い出来る?」

「ん。」

 ぐしゃりと丸めて投げつけたいが、折角シズカが丁寧に書いたものをそうする事は出来ずに、そっと飛ばすしかなかった。




 変わらず夕食を皆で取り、一応何かあった時のために屋敷ではなく馬車で眠ることにした。

「…ねぇ、リオ。あの手紙の内容、本当だと思う?」

「ニホンへ帰れるからこっちへ来て奴隷やれってやつ?」

「…うん。」

「今までの文献を見る限り、帰れた奴はいない。だが、今回はわからない。」

 本当に、わからない。帰れる方法なんか調べようとも思わない。知りたくねぇ、それだけだ。

「シズカは、気になる?」

 帰りたいのかとは聞けない、ただの臆病者。

「気になるって言うか…うーん…僕には関係のない話なんだけど…」

「関係ない?」

「うん?えと、僕は、ここに居ても良い?」

 ふー、と細く長く息を吐く。

「当たり前。居てくれないと困る。」

「…ぎゅ。」

 こてりと肩に頭を預けるシズカを撫でる。

「僕はもう、リオのいない生活は考えられないの。それに戻ったところで居場所はない。」

 俺もシズカのいない日常は考えられない。

「でも、マイカは違う。愛してくれる両親も、友達も、先生も、ボーイフレンドも。沢山持ってるの。恵まれてたから家事とかも出来ない筈だし、ここは僕にとっては夢のようだけど、マイカにとっては不便な世界だと思う…帰れるなら、帰してあげたいなって。」

 何故、そんな事が思える?召喚されたばかりの痩せ細った体や傷を見る限り、あの女は尋常じゃない。

「マイカはね、昔はとっても優しかったんだよ。」

 微笑むシズカに偽りはないだろう。
 昔はってどれだけ昔の話なんだ。
 どれだけ耐えてきたのか。シズカは優し過ぎる。
 シズカが許したって俺は許せない。
















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