可愛いあの子を囲い込むには

まつぼっくり

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メルパンとモコパン

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 焼きたてのパンをはふはふと頬張る姿はメルロに似ている。シズカのが100倍可愛いけど。

「…おいしいっ。」

「本当に。お外で食べると美味しいわぁ。このパンも可愛くて…シズカちゃん上手ねぇ。」

「好きに丸めて良いってヤサさんが言ってくれたので、メルパンとモコパンにしてみました。」

 メルロと羊の顔型のパン。
 自他共に認める羊好きなヤサは感動して震えている。それは、わかる。俺も仕舞っておきたい。

「リオにはこれ…良かったら食べて?」

 そっと渡されたのは…俺?

「あらまぁ、ステラリオ様にそっくりだわぁ。」

「リオはシュッとしていて綺麗だけど、パンにしたらぷくぷくで可愛くなったよ。」

 名付けて、リオパン!とにこにことしているシズカの頬へ口付けを。これは、仕舞っておこう。頬に手を当て、キョロキョロと周りを気にするシズカを横目に、異空間へ時間を止めてそっと放る。

「シズカありがとう。嬉しい。」

「ふふ。また、作るね?」

「俺にもまた羊パンを作ってくれ。なんなら馬車になど戻らんでここに住めば良い。」

「ふふっ。ヤサさんにも、またもこもこさんのパンを焼きますね?一緒に作りたいです…!」

 こねこねするのが大変だけど、楽しかったと笑顔のシズカ。

 昼食を取って、暫く休めば馬車へ戻る時間だろうか。

「はぁ。行くか。」

「はい。メルさんメルさん、どうしますか?ここにいますか?また、直ぐに戻りますから、ヤサさんともこもこさんと一緒にここでお留守番でも大丈夫ですよ?」

 ズポリと羊の頭の毛から顔を出したメルロは急いで出てくると、シズカの肩へ飛び乗る。

「一緒に来てくれるんですか?ありがとうございます。僕も、メルさんを守りますね。」

『ムムー!ムイムイっ』

 絶対こいつら会話してると思う。シズカはメルロの言っていることが何となくわかると言っていた。普通は何となくもわからなくないか?俺にはムームー言っているようにしか聞こえねぇし。

「んじゃ、また帰ってくる。」

「あまり戻るな。あと少しなんだから、今は耐えることも必要だからな。怪しまれるぞ。」

 ハイハイと気の無い返事をするが、まぁ、わかっている。今はまだ契約中だしな。はぁぁぁ。あと少し。ヤサと視線を合わせて一度頷き、皆で戻った。

「リオ、これ、メルパン。馬の運転手さんに渡してくれる?」

「ん?あぁ、御者な。パン持ってきたのか。」

「あ、御者さんだよね…言い慣れなくて、間違えた。」

 えへへ、と照れたようにはにかむシズカが可愛い。

「御者さん、お昼食べたかな?」

「ん。渡してくる。」

 渡したくないけど。何かしら食ってるだろ。
 御者席への連絡窓につけた目眩ましの布の中へ入り、馬車の中が見えないようにしてから窓を開け、パンを差し出せば、僅かに首を傾ける。

「俺の半身から。」

「………かわい、」
「………メルロ。」

 こいつらの声は久方ぶりだ。無口同士でくっついたから、中々声を聞く機会もなかった。

「そう。メルロ飼ってんの。だから、メルパンだって。」

 頷いて、礼をとって頭を下げるその二人に御者を頼むと告げ、あっちの奴らに気づかれる前に引っ込んだ。

「ありがとうだって。」

「貰ってくれた?良かった。」

『ムムッ!』

 ずっと羊の頭に埋もれていたメルロは今はマリアとシズカから花びらを貰っている。
 てしてしとシズカの手を叩いて催促するのはいつも通り。
 メルロをマリアに頼んで、シズカを抱き上げ膝へ乗せるのも、いつも通り。
 静かに動き出す馬車へ身を預け、可愛い半身を抱き締めた。





 夕日が沈む前に、夜営地へ到着した。
 馬車の中で十分なのだが、怪しまれても困るので、天幕を出し、馬車の出口に合わせて設営する。
 御者二人と俺とニコラスで手際よく動いていれば…まぁ、来るわな。

「わぁ。エルフさんたちはやいですね…!素敵です…!」

「…ありがとうございます。皆慣れていますからね。」

「エルフさんの半身って人は、お手伝いもしないんですか?私なら、手伝うのに。」

 いや、こいつ手伝ってなくね?ってか、王子共が天幕を張れるとは思わない。周りがやってるのを見ているだけか。

「貴女は、何を手伝ったのですか?」

「私は手伝いたいって言っているのに、皆が危ないから駄目って言うんですよぉ。お役目があるから、怪我でもしたら大変って。エルフさんの半身はお役目ないのにゆっくりですか?羨ましいです…!」

 敢えてでかい声を出す糞女。
 聞かせたいだけか。うぜぇ。糞うぜぇ。

「そうですか。私の半身は居てくれるだけで良いんです。傍に居てくれるだけで、力も沸きますし、癒されますし、何より心が暖かくなります。お役目というのは、大変なことですから、貴女もゆっくり休んでくださいね?」

「…そう。ねぇ、エルフさん。私の眼をみてくれますか?」

 キィンと頭の中で高い音が鳴る。これがこの糞の魅了の力か。あー、まじ糞。死ねば良いのに。

「…どうしました?」

「…何ともないですか?」

「そういえば…半身を抱き締めたくて堪らないような。何かしました?」

「…ッチ、いいえ。してません。」

 え?こいつ舌打ちした?え?殺していい?

「そういえば、エルフさん。あの子…うちの召し使いは元気ですか?出来れば返して欲しいんですけど。」

「ふふ。うちの?違いますよ。それに元々モノじゃありませんし。」

 また何を言い出すかと思ったら。
 そう返せばグッと堪えるように唇を噛む。
 ブスがブスになるだけ。

「あの子は私たちに大切な子です。元気に過ごしていますよ?」

「…シズカはただの召し使い。奴隷みたいなものです。あまり甘やかさないでくださいね。」

「ふふっ。貴女にあの子の事に口を出す権利はありませんので勘違いされませんように。」

 召し使いと奴隷では意味が全く違う。
 シズカは多くは語らないし、糞女も阿保だし。
 とりあえず、微笑んで時が過ぎるのを待つことにした。

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