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出立

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 ローブのフードは大きめに作り直した。それを被れば顔は見えない。
 馬車は中を拡張してゆったりと過ごせるし、マリアとニコラスは護衛として一緒に居る。空調も完備してある。
 馬車自体にも結界を張り、シズカに精神操作無効の魔法をかけてもらう。
 御者はヤサの親族二人。この二人は半身で研究者であり、採集も目的としていて、何かあっても自分たちでどうにかなるから気にするなと言われている。
 ヤサのように端から見れば人にしか見えない。

 準備は万端。何時でも行ける。だが…

「あぁ、行きたくねぇ。」

 面倒くせぇ。うぜぇ。行きたくねぇ。

「そんなんじゃシズカに愛想つかされるぞ。」

「…シズカが居たら言わねぇ。」

「ぶはは!」

 シズカが居たら言わない。今は張り切って荷物を運び込んでいるのだ。愚痴ばっか言ってると思われたくないし、出来れば余裕あるとこも見せたい。

「はぁ。余裕ねぇな。」

「澄ましているステラリオよりも好感がもてるさ。」

「…留守を頼む。」

「気を付けて行ってこい。」

 嫌だ嫌だと言っていてもやらなきゃいけない。
 元はと言えば自分でこの国に来ると決めたのだ。腹を括るしかない。…嫌だけど。







「リオー!」

「どした?」

 走り寄ってくるシズカはにっこり笑顔。
 凄く癒されるな…

「あのね、荷物運んだよ。あとね、馬さんが、かわいい。」

「おー、速いな。ありがと。」

「あとね、御者さんにおばあちゃん達とご挨拶したらぺこりって。お話苦手かな?僕、失礼な事しちゃったかな?」

「いや、あいつらはそれが普通。互いの事と研究にしか興味ないから気にすんな。俺にもヤサたちにも言葉を発しない。」

 それにホッと息をつく。他人の事など気にしなくても良いのに。それがシズカの良いところだが。

「そろそろ馬車に乗っておくか。」

「はい!」

 外から見れば普通の馬車。
 シズカを中に乗せて、最終確認。出立の挨拶は先に済ませた。そろそろ出るかというところで、一台の馬車が護衛を引き連れて近づいてくる。
 うぜぇ。本当に、うぜぇ。
 バンっと乱暴な音がして、糞女が笑顔で走り寄る。
 こいつ最初は清楚に畏まっていたのに、最近じゃ王子や民の前でも天真爛漫に振る舞っているらしい。
 普通に怖い。不安定過ぎないか?そんでうざい。

「エルフ様!おはようございます。今日からよろしくお願いします!」

「聖女様、皆さんも。よろしくお願いしますね。」

 ふわりと微笑んで、自分の馬車へ戻るように促せば、ニコニコと機嫌良く話始める。

「あの!こっちの馬車は私たち4人と侍女が乗っていてぎゅうぎゅうで…皆が可哀想なので、私もエルフ様の馬車へ乗ります…!」

「マイカ!」

「皆が寛げないのは可哀想で…」

「……」

 いや、馬鹿なの?なんでここで王子黙るの?馬頭おかしいの?それで良いの?ってか糞女はなんなの。一億歩譲って、乗っても良いですか?だろう。乗りますって…糞だろ。

「エルフ様!エルフ様は優しいですもの。良いですよね?」

 あー、ぶっ殺したい。

「申し訳ありません。こちらの馬車も、常に4人から6人が乗りますので。」

「…え?何でそんなに?そんなはず…ない。」

「?…護衛と侍女と御者2名は交代で。それと、大切な半身が乗っております。」

 そんなはずないと呟いたその一言が引っかかる。

「半身?これから危ないところに行くのに?わざわざ着いてくるなんて…その半身はエルフ様に迷惑かけている事に気づいてないの?優しいエルフ様が言いにくいなら、私が言ってあげますよ!」

「いえ。私からどうしても離れたくないからと頼んだのです。それに、私の半身はとても優秀なので…自分の身は守れます。なのでそちらの護衛もいりませんので。」

 怒りが頭を支配する。この糞女がシズカの事に触れるだけでぶん殴りたくなる。

「え?それは…」

 大方自分の息のかかった護衛でもこちらへ送り込もうとしていたのだろう。気持ちわりぃ。

「折角なので聖女様も、王子方も、護衛の皆様も聞いてください。この馬車にはエルフである私の半身が乗っています。よって、馬車には触れないようにお願い致します。」

 王からも一筆書いて貰っている。要約すれば、馬車を開けようとした者、危害を加えようとした者への安全の保証はないということ。

「…どうなるのですか?」

「犯罪を犯した者へつけられる焼き印が自動でつけられます。それと、かなり強い痛みを感じる事かと。」

「…酷い」

「えぇ。そうですね?でも、触れなければ何も起きませんので。」

 だから大人しくしてろ糞女。何が酷いだ。
 一礼して、馬車へ乗り込もうと扉を開ければ、糞女と王子がそっと身を乗り出して入り口を覗く。糞が。
 認識阻害の垂れ布を仕込んでおいて正解だった。
 マリアと妖精たちが紡いだこの特殊な布越しでは、人影が僅かに移るだけだろう。

 釘を指しても覗き込もうとするその精神がうぜぇ。
 早くも帰りたくなるが、まだ出発すらしていないことが怨めしい。


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