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微睡み
しおりを挟む1日だらだらと過ごした。
朝食後に一緒に風呂に入って、風呂から出たら二人でベッドへ寝転んで読書。
馬鹿でかい挿し絵入りの図鑑を並んで一枚一枚捲って、昼はシズカを抱き上げて厨房へ行き、後ろから抱きついていて貰って簡単なものを作った。
結論から言うと、すげぇ楽しかった。
ぐだぐだだらだらと目的なく、何となく思い付いた事をするのも、シズカと一緒ならただ幸せだった。
「やっぱ治癒するか?」
治癒魔法は中々使い手がいないのだが、数少ない使い手でも自分にかけるのは難しい。シズカが自身に使えるか確認するためにもかけてみるように言ったのだが…
「し、しない…!」
「足ぷるぷるじゃないか。もう、俺がやる。」
「しないぃ…!」
何度押し問答したか。ここまで頑ななシズカも珍しくて、だからこそ強行はしなかった。
「身体しんどいだろ?楽になるぞ。」
「だっこ、いや?」
「それはするけど。」
当たり前に、治癒して痛みがなくなっても今日は抱っこ移動だけど。むしろ明日も明後日も、未来永劫抱っこでもいいけど。いや、それがいいけど。
「答えるのはやい。」
「当たり前。」
ふふって笑い合って、俺の手のひらに頬をくっつけてくる。
はぁ、可愛い。
「辛くないか?」
「ん。あのね、ちょっとだけ痛いし、だるいけど、幸せな傷みだから…それも、嬉しい。」
「…ならいい。」
はぁ、シズカが可愛すぎて辛い。
腰を擦りながら幸せな傷みとか…
「明日まで痛かったらちゃんとしような?」
「…はぁい。」
拗ねたように尖らす唇が可愛くて可愛くて。
「誘ってんのか?」
「うぅぅ」
指でその唇を挟めば上目遣い。
「はぁ。誘ってんの?」
「…ちゅ」
俺の指へ可愛い口付け。
「手じゃなくてここにして。」
トントンと唇を叩けば、一生懸命背伸びして、俺の首に腕をかけて引き寄せる。あと数センチというところで…
「…りおがして?」
この子は俺をどうしたいんだ。
「んむッ、ふ、ぁあッ、」
深い深い口付けを送る。
「ふぁ、ちから、はいらない」
「だろうなぁ。ふは、眠そうに目ぇ溶けてる。ちょっと昼寝して、シズカの足腰復活したらメルロの散歩いこ。」
「メルさんとお散歩…たのしみ…メルさんも一緒にお昼寝しましょう?」
『ムムッ』
籠の中の回し車でカラカラと音をたてて走っていたメルロがシズカの手元へ。無意識だろうか、転移させてるし。
メルロはメルロで一瞬戸惑ったものの俺が朝やった時のように不機嫌ではなく、シズカに甘えて、頬を寄せ合って…
シズカが幸せそうにすぴすぴしてるから、許すか。
「…ん、りお、ねよ。…ぎゅ。して、」
「はいはい。」
ぎゅうと強く抱き締めて頭を撫でる。きっと俺の口元はだらしなく笑みを浮かべているだろう。
このままずっと休みならいいのに。
まぁ、暫くは休みだしシズカの持ち物も揃えたい。
街へは…行きたくねぇな。
他国だってどこだって安全とは言い切れない。
絶対はないだろうが…100%安心出来るところ…
里なら行けるか?半身以外興味ないし、結界張ってあるし、俺の様子はヤサを通して面白おかしく伝わっているだろうから、話しかけても来ないだろう。
面白おかしくというか、「あのステラリオが半身見つけてぞっこんで、話しかけでもしたら塵にする勢いだ。」という感じだろうか。
里には一般の者には使いづらいが、魔力さえあれば動く魔道具も多い。エルフの魔道具はごく稀に市場に出れば高値で取引される希少価値があるものなのだ。
そういえば、ただ魔力を溜めるだけの魔力タンクもあったな。
あれ買ってきて、シズカにたまに魔力を流して貰ってその分を買い取るのはどうだろうか。家の事だと賃金としては受け取ってくれねぇし。
魔力を買うか。買ったものはもちろん市場には出さないで、俺のシズカとの思い出ばかりの異空間へ仕舞おう。
俺が死ぬまでにどれだけシズカの魔力が溜まるのか。あ、死ぬ時にそれに包まれて死ぬとか…天国行けそ。
起きたら近々里へ転移してみないか聞いてみよう。髪紐もあったら買おう。揃いが良い。
未来が楽しみでにやけているが、じっとこちらを見つめるメルロと視線が合ったら無表情に戻る。こいつは、もう蹴らないが…じっとりと睨んでいるのか、真ん丸な瞳を細めている。
「お前攻撃する術を覚えねぇ?」
『ムーイー』
「何かないの?一発でスパッと糞の頭落とせるようなもの。」
『ムームー!』
これだけ知能があがっていれば、そのうち魔術とか使えるようにならないか?蹴らなくなったし。
「お前のあの蹴りに風魔法くっつけて一振でスパッと行くのが理想。」
俺が側にいない時…そんな状況は作りたくないが。シズカは性格的に攻撃系は絶対しないだろうし。そんな時にこいつが何かやってくれたら良いんだが。時間稼いでる間に転移出来るだろう。
この子を少しも怖がらせたくないし、少しも危険な目に合わせたくない。
縛って閉じ込めておけたらどんなに楽か。
シズカが可愛すぎて、好き過ぎて。
だからこそ縛り付ける事には踏み切れず。
「はぁ。可愛い寝顔。」
どうか、可愛い可愛いこの子の笑顔が少しも曇ることがありませんように。
寝てるシズカの頭へ腹を付けているメルロに薄い布をかけて、俺も少し眠ろうと、微睡みに溶けていった。
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