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幸せな朝から
しおりを挟むこんなにも幸せな朝を迎えた事はない。
昨夜は、眠るシズカを浄化で綺麗にすることなく、しっかりと自らの手で風呂に入れた。
気を失って眠ったはずなのに、俺の出した白濁を掻き出す時には甘い甘い声を洩らすから、少しだけ、悪戯もしてしまったが…
バレてはないだろうから良しとする。…可愛い声を出したシズカにもほんの少しは責任がある。
改めて、腕の中の宝物に視線を落とし、思わず笑みを溢す。
昨夜適当に着せた俺のシャツ一枚で、眠るときにわざわざ俺の腕に寝かせて、抱きよせて。
すぴすぴと眠るこの子は俺が中々寝付けなかったのも、朝早くから目覚めてしまって寝顔を眺めているのも知らない。
時刻は朝の9時前。そろそろ顔が見たくて、起こしてもよいが、体も辛いだろうからゆったりと寝かせてやりたい。
今日はシズカに髪を切らないか提案してみよう。
今まで自分でザクザクと切っていた、と言うシズカの髪は毛先がバラバラで、お世辞にも整っているとは言えない。長さは変えなくても良いから、整えさせて貰えるか聞いてみるか。
髪紐で結わえても可愛いだろうなぁ。
うなじとか…色っぽいだろうなぁ…
…昨日のシズカの可愛さもやばかったな。
犯罪級の可愛さだった。これ以上無い程の可愛さだった。
その可愛い可愛いシズカをこれからも見れるなんて、何て幸せな事だろうか。
そんな、可愛い可愛いシズカの事を考えていれば聞こえる騒音。
この部屋は防音になっているが、俺は耳が良い。
「私は聖女です。エルフ様が一緒に旅に出てくれると聞いて、ぜひ一言お礼をと思いまして…!」
まず、謝罪だろ糞女。
「え!まだお休み中なのですか?エルフ様ったらお寝坊さんですね?大丈夫です。私が起しますよ。」
げんなりとしながら、かなり寄ってしまった眉間の皺を揉みほぐす。
糞が。あー、まじ糞。爽やかな朝が台無し。
ふわふわとマリアの妖精が飛んで来て、小さな紙を差し出す。
開けば聞こえるマリアの声。
「ステラリオ様ステラリオ様、聞こえてますよね?来ましたよ、噂の聖女様。国賓ですから私たちでは追い返せませんよぉ。国賓どころか第一王子もいらっしゃいますし。あらまぁ、ニコラスがうまく隠していますが…ぶちギレそうですよぉ。」
殺していいか?いいよな?俺はこいつらのせいで一緒に魔獣駆除に行くことになって、出発まで用意という名の休みをもぎ取ったんだ。ふざけんな。今はまだ9時。アポ無しで来るような時間ではない。
シズカを置いて対応したとして、起きたときに俺がいなかったらどう思う?
逆に俺が起きたときにシズカがいなかったら?
…無理。寂しすぎて、死ぬ。死ねねぇけど。
起すのも、可哀想だしなぁ。あいつらのせいで起こすというのが癪に障るから、起したくねぇ。
ペンと紙を手元に。サラサラと文字を並べる。聖女宛にしようかと思ったが、上手いこと違う意味に取られそうで王子の名前を封に書く。
メルロを手元に転移させ、無理矢理手紙を咥えさせるとかなり不満気な顔。
「ホールにいるのが俺たちの敵。これをマリアかニコラスに渡すついでに顔を覚えて来い。」
「ムーーイーー」
嫌そうな顔で返事をしながら部屋の外へ転移させれば歩き出す気配。
あいつ、夜光草を食べ始めてから本当に知恵がついた気がする。あれ、こっちの言うこと理解し過ぎだろ。シズカの育てる夜光草は驚くようなスピードで育ち、今や主食が夜光草で、間食として、花びらを食しているメルロはシズカの前では従順なペットではあるが、俺やニコラスの前では狂犬みたいだ。
「王子殿下、こちらエルフ様からでございます。」
「わぁ、なにこの子。可愛い~!おいで。おいでよ!ねぇ、お姉さんのところにおいで。…おばあさん、抱っこさせてください!」
「おほほ…この子は人見知りで。聖女様、申し訳ありませんが、怪我をさせてしまったら大変ですわ。」
「えー、私、自分の怪我は治せないからそれは困っちゃう。ロイド!エルフ様はなんて?」
あ、糞女はまだ文字が読めない馬鹿だったか。
「読み上げるよ?
王子、おはようございます。本日は晴天であり、気持ちの良い朝ですね。さて、私事で大変恐縮ではありますが、本日より魔獣討伐までの期間は私も準備期間となりまして、執務はお休みになります。今朝は半身を腕に抱き目覚め、私が離れたくない為に身動き出来ません。大切な伴侶となる聖女を得られた王子なら、解って頂ける事と思います。なお、この休暇期間は、すでに御承知おきくださっていると思いますが、王より承っておりますので。…王子、せめて事前に連絡をお願い致します。」
寝てるから対応できねぇと王子に言えるのは後にも先にも自分くらいじゃないだろうか。
これが終わったらこの国は出るし、もういいだろう。
「え?ロイドは王子ですよ?エルフ様の雇い主側ですよね?ってか、その半身って人もいつまで寝てるの?」
「マイカ、エルフ様に関しては雇うとか、そんな簡単な事ではないんだ。やはり帰ろう?約束していると言っていたじゃないか…」
「だって、ロイド!お礼を言うのは礼儀です…!」
アポ無し突撃は礼儀がなっているとでも?
阿保なの?王子よりも阿保なの?
シズカの頭の下にある腕とは反対の手を軽く振る。
「わあっ、」
「おほほ、この家は風が良く通るんですの。」
少しずつ、面倒くせぇから怪我しないように屋敷から外へと風を使って追い出す。
「もうお帰りですか?大したお構いもしませんで~、お気をつけてお帰りくださいませ。」
そう言って扉を閉めるマリアは強い。
そもそも自宅を訪ねるのは契約違反。罰せられることはないと思うが…一応王に報告を。
はぁ、爽やかで幸せな朝が台無し。
色々と、急がないと。
それでも今は、今だけは、腕の中のシズカを堪能したい。
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