可愛いあの子を囲い込むには

まつぼっくり

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溜め息が止まらない

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「ニコラス、この間の件なんだが出来る限り急いで欲しい。」

「…何かあったのか?」

 あーもう、溜め息しか出ねぇ。

「絶対、何かある。嫌な予感しかしねぇ。」

 無言で頷き片手を差し出される。

「あ?なんだ?」

「金。金寄越せ。差し出すものがなけりゃドワーフは動かんぞ。まぁ、お前の名前でもう動いてくれてはいるが。」

「へいへい。」

 帰宅前から力んでしまっていたか。肩に入ってしまっていた力が抜ける。

「あと、シズカにも金渡せ。飯作ってくれたり、掃除とかの雑務までしてるんだろう?」

 それは何度も渡そうとした。でもシズカは頑なに貰ってくれないのだ。

「置いて貰ってるって思いが強すぎて受け取り拒否。ちゃんとシズカの賃金として毎月取り置いてはいる。」

「あー、こないだな、マリアが一緒に花瓶に花活けたんだよ。んで、厨房の掃除も一緒にしてくれたからって1000Gあげたんだよ。お小遣いって。あいつ、孫に小銭握らせるの夢だったから。」

「あの玄関の花?道理で、何時もより綺麗だと思った。」

「あ?マリアが活けた花も中々だ。」

「はいはい、そんで?」

「したらシズカがよ、その1000G渡して来て、クッキーを作りたいのでこれで材料を売ってもらえますか?だとよ。いやぁ、あまりの可愛さにマリアと抱き締め…て、は、なかったなァ。ないない。」

 チッと堪らず舌打ちが出た。何勝手に抱き締めてんだふざけんな。名前で呼ぶな。そう言いたい。だが、シズカがかなり懐いているのも知っているから。…ハァ。溜め息が止まらない。

「あいつかなり勉強してるな?1000Gで買える分きっかりだった。クルミも進めたが、金が足りないからいらないって頑なだった。」

 決めた事には意外と頑固な面もある。
 今まで、金や名誉やこの見た目なんかで言い寄られた事しかない俺にとっては、そんなシズカが愛おしくて、怖い。今までの俺ではなく、本来の自分で勝負しなくてはならないのだから。

「…俺、シズカに愛想尽かされたら死ぬかも。」

「残念。お前は中々死ねないだろう?ぶは。そんな事思う相手に出会えて良かったなぁ。」

 確かに簡単には死ぬことすら出来ないだろう。

「ん。んじゃ、死ねないならしょうがないから逃がさずに閉じ込めておくわ。」

 愛想を尽かされなければ良いだけだ。離れていこうとしたら…しょうがない。

「あぁ。そうなったら、俺が逃がそうとしてやるから。無理でも何でもシズカの事逃がしてやる。だから安心して囲い込んどけ。」

 何か矛盾してねぇか。やるなら俺を倒してからにしろ的な?ほんと…

「保護者うぜぇ。」

「お前の保護者でもあるぞ。」

「うぜぇ。」

 ぶはは!と珍しく仏頂面が弛んでいる。楽しそうで何よりだジジイ。




 翌日、俺はこの時感じていた嫌な予感を身を持って知る事となる。






「申し訳…ない。」

「エルフ様…!本当に、申し訳ありません。ですが…父上も…何者かに操られていたのです…」

 昨日第二王子に渡した髪紐。様子がおかしかった王の髪紐をこっそり変えたところ、次第に元の王に戻って行ったと。めでたしめでたし。とは、ならない。

「これは、何に対しての謝罪でしょうか?」


 …………………糞が。

 話を纏めると、本当に糞。何者かに魅了されていたという王。何者かに、と言うのは犯人は一人しかいないだろうに、断定出来なかったらしい。何なの?王家馬鹿なの?魔術師いないの?
 後追い出来ない程の魅了って…最早聖女じゃなくて、魔物じゃね?いやもう畜生で良いから、魔獣じゃね?
 本題はここから。魅了されていた王は魔獣駆逐の旅を糞女たちに命じた。いつもの三人組もセットで。馬鹿なの?第一王子と神官長と団長が抜けて良いわけがない。阿保なの?
 そして、あろう事か…

「お断りさせて頂きます。」

「申し訳ない…名も、判も、済ませ契約魔法を用いて正式に決まった事柄なのだ。」

「私には、私のやり方があります。聖女とはそもそもの方法が違うかと。」

「すまない。」

 ッチ。使えねぇ糞共が。どうする、殺せばいいか?旅の初日に四人殺せば良くね?
 沸々と怒りで頭の中が真っ赤だ。

「一応聞きますが、旅というのは魔獣の森までですか?そちらで一斉に?」

 魔獣の森まで馬や馬車で数週間。どうせ聖女の治癒アピールしながら進んで、そこから駆除して、帰ってきてどれくらいだ。二月以上か…?正直、今まで通り隠れて転移して夜は屋敷に帰ってくれば良い。だが、シズカを残しておくのは…領地の森へ屋敷ごと転移させたとしても心配だ。だからと行って連れていくのはもっての他。
 そして何よりも…糞女たちと共に行動するのが嫌だ。何よりも嫌だ。
 あーーーー、うぜぇ。

 黙りこくる俺を見て、第二王子がこちらを窺う。

「あの…エルフ様、今回の計画はエルフ様が数年かけて行うとしていた魔獣の数を一定に戻す、というものです。全ての魔獣を駆逐すれば何があるかわかりません…それは兄上たちに何度も説明しています。…ちみに兄上にも髪紐を忍ばせて見ましたが、お変わりありませんでした。」

 召喚したのはあの馬鹿王子だしな。残念ながら魅了ではなく、元々馬鹿だと証明されたな。

「それで…この旅の期間を定めたらどうかと畏れながら父上にも進言させて頂きました。二ヶ月…二ヶ月で魔獣の数を契約した数まで減らせたら、エルフ様とこの国の契約は終結するという新しい契約魔法を上書きするのは如何でしょう?」

 初日に全部ぶち殺せば1日で終結?と喉まで出かかって止めた。二ヶ月我慢すれば、シズカとずっと一緒にいられる。悪くはないが…
 四人を殺してしまうのは、最後の手段か。
 逃げれるだろうし、一生楽させてやれるが、犯罪者の半身とさせるのは俺が嫌だ。

 やることが山積みだ。シズカには何と話す?言わずにシレッと毎夜帰る?
 …シズカにはひとつも嘘をつきたくない。
 それに、結界は張るが、あっちの森ならメルロと外で自由に遊べるか。


「それでは、その契約には私の半身を害した場合の処罰についても記させて頂きます。よろしいでしょうか?」



 神妙に頷く二人にはもう、微笑みはいらない。


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