可愛いあの子を囲い込むには

まつぼっくり

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本当に臆病なのは?

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「悪い。もういっかい。」

「んん…も、でないぃ」

 だろうなぁ。でも、出なくてもきっと可愛い。
  
「挟むだけ。」

 息も絶え絶えのシズカをベッドに運び、クッションを敷き詰めたそこにうつ伏せに寝かせて…もう二回ほど付き合って貰った。一回で終わらなかったのは、確実にシズカに原因がある。ぽろぽろと生理的な涙を流しながら「気持ちいいのが終わらないぃ」なんてべそをかくから。






「はぁ。昨日は天国を見たな、」

 ほぅ、とため息が出る。

「ステラリオ様、お顔。お顔がにやけてますよぉ。気を付けないと付け入られる隙ができます。」

 気配を消して近づくのはマリア。

「屋敷でだけだ。あっち行ったらちゃんとする。」

 そう返せば、それならいいですけどぉ。と間延びした答え。

「シズカは?」

「んふふ。厨房にいますよ?」

 朝食を取ったばかりなのに厨房?疑問に思いながら覗けばふわりと甘い香り。

「、リオ…!」

「ん。何やってたんだ?」

「んと、いつもお世話になってるリオとおじいちゃんおばあちゃんに…プレゼント…。皆もっと美味しいものが買えるだろうけど…」

 僕は怖がりで街に行けないから。と差し出される包み。

「クッキー?」

「そう。メルさんの形と、お花型と、リオにはハート。」

「可愛いな?メルロと花は解るが…ハートは何だ?」

「えぇ…こっちの世界はハートないのかな、マークというか何というか…すきって事を表すのに使うの。」

「好き…そうか…俺も好き。ありがとう。大切に食う。」

 おやつに食べてね、と微笑むシズカが可愛くて、メルロ型と花型だけ食ってこのハートは時間を止めて永久保存する事に決めた。

「…ちゃんと食べてね?」

「ん?」

「リオはこの間僕が作ったパンケーキも初めての手料理だからって保存しようとしてたでしょう?取っておく様なものじゃないから、食べてね?また作るから。」

「ん。また作ってな。」

 ここは変に反論しない方が良いだろう。
 勿論バレないように初めての手料理は記念に保存してある。
 シズカのコレクションの為の空間も作ろうと思案中なくらいだ。

「んじゃ、行ってくる。さっきシズカは自分の事を怖がりだって言っていたが、本当に外は怖い。それが解っているだけ凄い。無鉄砲に出ていく奴ほど良い結果にはならない。」

 まぁ、出ていこうとしても出してやれないんだが。
 結界は厳重に。それは当たり前だが、実は入ってくるより出ていく方が大変な仕様になっている。シズカを信用していないわけじゃない。
 …本当は、臆病で怖がりなのは俺の方なんだ。
 いつだって、閉じ込める用意は出来ている。


「…りお?どうしたの?」

「いや、シズカの事が好きだなぁって、しみじみ。」

「ふふ。ぼくも、リオがすき。」

「ん。ちょっと抱き締めて。勝手にどっか行かないで良い子で留守番しててな?」

「…行くわけないじゃない。僕にはリオしかいないんだから。」

 その言葉に胸が喜びで満たされ、更にきつく抱き締めるが、不満を持つ者が一匹。げしっと俺に蹴りを入れて、シズカをてしてし。くるくると喉を鳴らして甘えた顔してすりすり。

「わわ!メルさんごめんなさい。焼きもちですか?かわい。ふふ。違うんですよ、メルさんとかおじいちゃんおばあちゃんはまた、違うの。リオはね?特別なんです。あぁっ、もうっ…!リオを蹴ったらメッですよ…?」

「いや、もう、いい。」

 蹴られても構わない。正直、苛つくけどそんなに痛くないし。

「嬉しいから、いい。」

「…ぎゅ。」

 行きたくねぇ。今までの人生の中で一番行きたくねぇ。このままベッドに戻りたい。

「いってらっしゃい。気を付けてね?」

「はぁ。行ってくる。」










 シズカと別れて数分。もう帰りてぇ。


 この日の俺の気分は絶好調だった。
 勘づかせはしないが、気持ちが高ぶっていたのだろう。
 普段はしないようなことをしている自覚はある。草臥れた顔している第二王子がいたから、つい声をかけてしまったのだ。

「それで…最近父上も聖女の事を良く思っているみたいで。急におかしいとは思いませんか?それだけでなく、私にまで茶会や食事の誘いが来るのです。それが…怖くて。出来る限り避けているのですが。」

 王はこの第二王子と一緒で割とまともだった印象だが、何かきな臭い。俺がいる手前、糞女の事について触れることもなく、第一王子には手を焼いていた筈だが。
 まぁ、どうなったって俺の知ったこっちゃないが。

「王子は剣技に長けておりましたよね?」

「はい、少しは自信があります。王となった兄上をお守りする事が宿命だと思っていましたから。」

「そうですか…では、魔獣に襲われるのと、聖女に襲われるのはどちらがよろしいですか?」

「そんなの、魔獣に決まっています…!只でさえ最近兄上に睨まれているのに…」

 ふぅ、とため息をひとつ。シズカの可愛い贈り物のお返しに揃いの髪紐を買ったのだが、シズカの分を渡したら俺と揃いに…気持ち悪い。俺の分を渡したらシズカと揃いに…無理。

 諦めて二本の髪紐を取り出し、両方差し出す。

「この髪紐に毒や魅了などの精神操作が打ち消される魔法を込めました。肌身離さずお使いください。一本は、王にお渡ししても構いません。」

「…そんな、貴重なものを…宜しいのですか?」

「ただ、私の魔力は魔獣たちにはご馳走だそうで、狙われる確率は高くなるかもしれません。それでも、宜しければ。」

「それは大丈夫です。父上にも私にも、優秀な護衛がついていますし、私も自分の身は自分で守れます。」

 はぁ。シズカには帰りにまた何か買って帰ろう。

「エルフ様、こちらの対価は如何いたしましょう?払えるものなら良いのですが。」

「それでは、王がこの髪紐で何かお変わりありましたらお教え願えますか?少々気になります。」

「それは、もちろん…!」

「もし、何か変わりましたら、王に請求させて頂きますね?何もなければただの髪紐ですし。」





 本当にあの糞女はどこまでも糞だな。
 巻き込まれる前に、引っ越しを進めないと。
 目の下の隈が酷い第二王子に治癒をかけて、エルフ様の微笑みを残してその場を後にした。
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