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7 ずっと一緒に

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 お風呂からでて、ほかほかでぽかぽかで。
 さっきの出来事が頭から離れなくてふわふわしていると、いつの間にか服を着せられて、髪も乾いていて。歩いて浴場を出ると、本来の目的であった兄様の部屋へ歩みを進めた。

 カルは何故か、今から走ってくると言っていたので部屋の前で見送り、兄様の従者さんに部屋へ通して貰う。

 うん、大人になった兄様も大きい。
 僕を見るなり突進して、ガッと脇に手を入れて持ち上げて。そのままくるりくるりと回って着地。
 一瞬の出来事に目をぱちくりしているとぼたぼた涙を流す兄様の顔。

「兄様、泣かないで。ごめんなさい。」

「ずっと謝りたかった。あの時、落ちるのは私であったのに、幼いユイリが身代わりとなってくれて…不甲斐ない兄で本当にすまなかったと思っている。」

「兄様、違うよ!僕が勝手に飛び込んだんだもの。それにね?落ちたところではとっても愛されて、とっても幸せだったんだよ。」

 それは自信を持って言える。

「ユイリ…ありがとう。おかえり。これからは兄からも沢山愛させてくれ。」

「ふふ。うん!嬉しい。でもね?兄様はもっと愛さなきゃな人がいるでしょう?」

「オルガか。そうだな。ではオルガと共にユイリに愛を送ろう。」 

 その時、タイミング良く扉が開いた。

「はぁ、はぁ、リオネル、今兄上にここにユイリがいるって聞いて、走って、きた。はぁ。」

「そんなに走るな。転んだらどうする?」

「いいから!どこ??」

「いや、ここにいるが…ユイリ、何隠れてるんだ?オルガだぞ。」

 僕はぴったりと兄様の後ろに隠れる。
 そこにいるのはカルと同じ赤毛のオルガ。
 カルとは違って長髪だけど、柔らかいオルガの雰囲気にぴったり。でも…

「本当にオルガ?」

「え、何で疑われてるの!?」

 だって、だって…

「オルガは僕くらい小さかったはず。」

「ふは!」

 思わず…と言ったように吹き出す兄様。オルガは困り顔。

「ユイリ、オルガはユイリのひとつ下だっただろう?当時は小さくて当たり前だ。」
  
「こんなに大きくなるなんて聞いてない…」 
  
「これでも小さめな方なんだけど…何か、ごめん。ねえ、それよりも顔みせて?」

 そろりそろりと近づいてハグ。幼なじみの成長に驚きが隠せないけど…

「ユイリ、会いたかった。」
「僕もオルガに会いたかった。」

 懐かしい幼なじみで親友のオルガ。
 沢山遊んだオルガ。 

 昨日からもう枯れるほど涙を流しているのに、溢れでる涙でぐしゃぐしゃになりながら兄様とオルガともこれまでの話を沢山した。

 流れでカルの話になったのだけれど…告白されたと告げるときは真っ赤になってしまった。
 それを二人とも微笑ましく見つめてきて。

「僕、オルガみたいな可愛い子と結婚するって決めてたんだよ。」

「うーん。それは良く言ってたけど、ユイリの幼いながらの照れ隠しだったよな?口ではそんなこと言いながら眠くなるとカルの膝にふらふら吸い寄せられてたし、大好きって言ってたぞ?」

「…覚えてない。」

「うん。眠いときの意識がハッキリしてないときに出る本音ってやつだねぇ。実際再会してどう思った?」

「あのね、ドキドキしたりほわほわしたり頭が真っ白になったりするの。今、一緒にお風呂に入ってたんだけどね、」

「待て。今何て言った?」

「うん?ドキドキしたり、」

「違う。最後。」

「一緒にお風呂に入ってたんだけどね?」

 兄様は急に真顔だ。

「ちょっと急用。オルガと留守番してて。」

「はぁい。」

 返事をしたのはオルガ。何だか楽しそうである。でも、兄様には恥ずかしい話もオルガにならできる。

「オルガ、質問してもいい?」

「うん。もちろん。」

「あのね、触れられて心がドキドキって跳ねたり、体が熱くなったり、えっちな気分になるのは好きだから?」

「うーん。僕はその質問の時点で答えはでてると思うけど…ユイリは僕とハグしてドキドキしたり熱くなったり、そういう気分になった?」

 そっか。展開が早すぎてどこか疑心暗鬼だったけど、もっと自分の気持ちに素直になっていいのかな。

 ポンポンとオルガに頭を撫でられて、落ち着くけどカルに頭を撫でられるのとは全然違うと理解した。




 それからは大変だった。
 カルは父上と兄様に連れていかれ、しばらく会えない日が続いた。
 その間に僕の帰国祝いが開かれ王都では3日間のお祭りとなった。

 バルコニーから父上、父様、兄様と僕の帰りを喜んでくれている人達に手を降りたくさんの歓声にまた涙が止まらなかった。

 こちらの世界に戻ってきてからは本当にあっという間で今まで一緒にいられなかった分のたくさんの愛情を貰っている。









 父上と父様が高台に両親のお墓をたててくれて、僕は時間ができるとここで両親へ話をしている。
 もちろんお墓の中は空っぽであるしいくら話しかけても返事が帰ってくることはない一方通行だ。

 それでも僕はこの場所が、僕の心の声が、両親に届いていると信じて今日も心のなかで両親へ問いかける。



 お父さん、お母さん、お元気ですか?
 アルヴェに戻ってきて、もう五年の月日がたちました。
 神様のところはどうですか?
 しばらく会いに来れなくてごめんなさい。

 ほら、二人の孫を連れてきたよ。
 産後、やっと出歩いていいって過保護な彼と父上から許可がでたんだよ。

 僕は二人と血は繋がってないけれど
 この子の黒い髪の毛は僕とお父さんと一緒だね。
 この子の緑がかった瞳は僕とお母さんの色を混ぜたみたいに素敵な色でしょう?

 小さな共通点にとても嬉しくなります。
 お父さんとお母さんに話したいことがたくさんあるの。
 でも心配性な旦那様がそろそろしびれを切らして迎えに来るだろうから、最後に一言だけ


 僕は昔も今もとても幸せです。









「父しゃまー!ごほんよんでくださいっ!」

 小走りで近づいてきた元気な可愛い僕の宝物、サクラ。

 サクラに合わせてしゃがんだ僕の腕の中に勢いをつけて飛び込んでくる。

 そのまま頬にキスをして抱き上げる。

「今日は何のご本にする?」

「うーんとね、ゆいくんのごほんがいいな。」

「もう寝る時間だからベッドで読もうね。」

 抱いたまま移動し、ベッドへ寝かせて本棚へ行く。
 この世界は絵本というものがあまりないので僕は手作りしている。
 手作りといっても日本の昔話や映画などの話を思い出しながら紙にまとめて挿し絵程度に僕の下手な絵を描いているだけ。
 お父さんとお母さんのように綺麗には作れないけれど幸いサクラには好評なのだ。

 でもサクラに1番人気な本は「ユイ君の大冒険」僕の宝物の本は四隅が丸くなってきているけど仕舞い込むことはせずに厚めの布でブックカバーを作って貰い他の本たちと一緒に本棚に並んでいる。

 僕は少し眠そうに、嬉しそうに待つサクラの
 頭を一撫でして毛布を肩まで引き上げる。



 スゥスゥと可愛い寝息をたてるサクラに笑みを溢して小さく書かれた おしまい の下の一文を指でなぞる。


 『ユイリ 両手で抱えきれないほどの愛を君に』




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