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ある日のゆうるい(湊谷悠里×神宮寺瑠衣)

君に贈る花の名前は 2

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悠里side

あれから、1週間。

ある日、楽屋に瑠衣くんが大慌てで入ってきた。
「聞いて聞いてー!」
「どうしたの?瑠衣くん!」
「悠里!映画決まったよ!」
「え!映画!?」
「すごーい!どんなの?」
「ミステリー映画!しかも…」

瑠衣くんがスっと息を吸う。
「主演!!!!!です!!!!!」

「「「えーーーーーー!」」」

楽屋に響き渡る声。

「やばーーー!」「え!?まじ?!凄くない?」「ドリスト初主演じゃん!?」
みんな口々にまくし立てる。

当の俺はびっくりしすぎて、え?としか出てこない。

「この前、ドラマに出たでしょ?」
「あぁ、チョイ役の…」
「それを見た今回の監督さんから、直接オファーが来たんだよ!凄いことだよ!悠里!」
「やばいよ悠里!」「え、しかも脚本南野圭吾じゃん!絶対大ヒットするじゃん!」「これ、上手くいくとそのまま新人男優賞いけるかもしれないよ!」

メンバーの熱量を感じていると、だんだん自分がすごい大役を任された事を実感してくる。

「え、うわ…頑張ろう…」
「応援してるよ!」「今日飲みいこーぜ!」「主演決定おめでとう会しよー!」
「じゃ、僕お店探しておくね!」

みんなの方が俺より喜んでくれて。
その日の夜は、盛大に祝ってくれた。




クランクイン当日。
どことなく夢心地だったけど現場へ行くと、一気に緊張が高まる。

監督、名の知れたキャスト達…この中で自分が主演をはるなんて…
思わず武者震いした。

「じゃ、最初のシーンそろそろいきまーす!」
早速、スタンバイの合図が。

ここで、俺がちゃんとやらなきゃドリストの格が下がる…
大丈夫。セリフも頭に叩き込んだし、たくさん練習したし…

頭の中でぐるぐると自分に言い聞かせる。

その時、ポンッと背中を叩かれた。

「!瑠衣くん…」
「悠里、大丈夫だよ!いつも通りの悠里でやれば完璧だから!初主演だもん。緊張して当たり前だよ!僕もちゃんと見てるから落ち着いて!リラックス、リラックス」

ニコッと笑う瑠衣くんの笑顔でふっと肩の力が抜けた。

フゥっと息を吐き、「よし!」いよいよ撮影に入った。




連日、撮影で気の休まらない日々。

撮影に加え、ドリストでの仕事、セリフ覚えや演技練習などスケジュールに余裕のない日々が続いた。

それでもなんとか気合いで乗り切っていた。


撮影2ヶ月後……

「カーーーット!湊谷くん!そこもう少し相手に迫る感じで言えるかな!」

撮影終盤、どうしても監督のOKが出ないシーンがあった。

それは、主人公がある重要情報を持った女性に「情報が欲しい」と迫るシーン。

監督曰く、容姿も武器にしているという前提の主人公だから、顔で女性を魅了し情報を引き出すような感じを出してほしいというのだ。
そのためには、女性を一瞬で恋に落とすような色気を出す必要があると。

「湊谷くん!もっと本気で相手を落とすような…もうちょっと本気感が欲しいなー!相手が欲しくて欲しくてたまらない…みたいなー!」
「はい!」

そうは言っても、今やっている自分の演技が最大限の色気のイメージだ。

『色気って…どうやって出すんだっけ…』

結局、その日は何テイクもやったが監督に満足してもらえずこのシーンだけ明日取り直しとなった。

「…………………………」
楽屋で机に突っ伏し、今日の撮影を振り返る。

あぁ、疲れた…………
例のシーン。なんで、あそこだけ……。

何度もやり直しを求められ、最後の方には現場の雰囲気も微妙になってしまい完全に自信を無くしていた。

蓮だったら監督の求める色気が出せるのかな…
他の人だったらどんな風に演じるんだろう…
自分にはこの役は向いてなかったんじゃないか…

思考がどんどんネガティブな方に進んでいく。

涙を流せれば楽になれるかと思いきや、プライドが邪魔して泣くことさえできない。

「……………………」
コンコンコン…
ドアをノックする音。

返事をする気もなくて無視する。
「僕だよ。悠里、いる?」
優しい声。

無言でいると、キィ…とドアが開いて瑠衣くんが入ってきた。

「悠里…」
今は喋りたくない。こんなとこ、瑠衣くんに見せたくない。
俺は突っ伏したまま、黙っていた。

「寝てるか…」
そっと、ブランケットのようなものをかけられる。
ふわっとまたあの瑠衣くんの匂いがした。

「悠里、悠里はよく頑張ってるよ。大丈夫、焦らずに自分を信じて。悠里にしか出来ない演技がある。」
俺が起きてるのを知ってか知らずか、瑠衣くんが語りかける。

「撮影終わったら、またみんなでご飯いこうね」
ヨシヨシと頭を撫で始めた。

その手が優しくて。
瑠衣くんの匂いと相まって、またあの感情がぶり返す。

ムラムラムラムラ…………

そもそも、なんで色気が出ないのか。
自分なりに今、答えが出た。

………セックスしていないからだ。
女への迫り方すら忘れつつある事にショックを受けたんだ。

欲しくて欲しくてたまらない相手には出会ったことないけれど、セックス中だけは目の前の相手の体を心から求めてる。
そのパッションを思い出せれば………!

そして、その相手にふさわしいのは…

パシッ!!
「わぁ!!」
頭を撫でる瑠衣くんの手を掴む。

「びっくりしたぁ!」
「瑠衣くん…相談があるんだけど…」
「ど、どうしたの?なんでも言って?」
「俺……セックスしたいんだ」
「…………………へ!!?」
「今日は監督に色気が足りないって言われて…ずっと考えた。なんで出ないんだろうって。で、分かったんだ。多分、セックスしてないからなの」

一方的にアホみたいな事を言う俺に真剣に耳を傾ける瑠衣くん。

「な、なるほど…」
「だから、瑠衣くん…」
「分かった!なんとか手配するよ!明日撮り直しだから…急いだ方がいいよね!どんな女性が好み?」
スマホで検索をかけようとする手を止める。

「いや、探さなくて大丈夫」
「えっ???」
「いるじゃん、目の前に」
「えっ???」

一瞬ポカーンとする瑠衣くん。
そして、キョロキョロと楽屋を見渡す。もちろん俺と瑠衣くんしかいない。

「えっ………………と、そ、れって…」
「瑠衣くん…俺の相手してくれない?」
「でーーーーーーーー???!!!!」

いや、いや、いや、ちょっとちょっと!!と大慌てで俺の手を振りほどこうとする瑠衣くん。
力が弱くて、全然意味無い。

「なんっで、無理だよ!僕…そんな経験ないし…そもそも僕は男だよ…!?なんの足しにもならないよ…っ」
「大丈夫、寝ててくれるだけでいいから」
「いや、でもマネージャーとしてどうかっていう………」

なかなか折れない仕事人間な瑠衣くん。
だけど俺は瑠衣くんの攻略法は分かっている。

「俺…こんな事頼めるの瑠衣くんだけなんだよ…明日のシーン上手くいかなかったらもうメンタル持たない…そのくらい切羽詰まってるんだ。ドリストのためにも…自分のためにも…俺はこの仕事は成功させたい」

「ゆ、悠里…」
俺を見つめる瑠衣くん。

「だから、ね?瑠衣くん…俺とドリストのために…一肌脱いでくれないかな?」
「うっ…………………!!!!」

キタ。完全に瑠衣くんのストライクゾーンに入ったはず。

瑠衣くんはうぐぐぐぐ……と、少し考え込んでいたけど、
「分かった…。僕に出来ることがあればなんでもします」
キリッとした顔で、そう言ってくれた。

ごめんね?狡くて。
でも、俺今瑠衣くんを抱きたくて仕方ないんだ。

「そうと決まれば、早速俺の家に行こう」

スクッと立ち上がり、荷物をまとめて瑠衣くんを引っ張っていった。
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