8 / 36
ある日のれんりく(結城蓮×咲間凉空)
LOVE only for u 1
しおりを挟む
凉空side
「りっくーーん!ドラマ決定おめでとー!!」
瑠衣くんが、嬉しそうに楽屋に入ってきた。
「ありがと!瑠衣くん!」
今回のドラマは«ダンス男子!»というタイトル。
高校生の男子2人が、部員の少ないダンス部を立て直すという定番のスポ根青春ストーリー。
女子との恋愛要素はなく、主人公とその親友2人の友情メインで話が進んでいく。
今回はW主演。
俺が主人公の三谷祐希(みたにゆうき)役、そして親友の田中玲央(たなかれお)役を演じるのは、人気の若手俳優・御門淳史。(みかど あつし)
身長184cm、甘いマスクで女子からの人気は安定していて、子役時代からのベテランで演技にも定評がある。
「あ~、俺大丈夫かな~…」
片や俺はドラマは初めて。演技も初めて。
御門くんと主演を張るのに、少し気後れしていた。
「大丈夫だよ!僕も会ったことあるけど、彼とっても礼儀正しくて優しい子だったよ!りっくんとは同い年だし、きっと仲良くなれるよ!」
夏らしい爽やかなドラマ!りっくんにピッタリ!
と瑠衣くんがウキウキして言うけど、俺は内心不安でいっぱいだった。
悠里や蓮がドリストのドラマ班。
この2人は既に演技において高い評価をされている。
『俺も頑張らなきゃ…』
2人の足を引っ張るわけにはいかないっ。
「クランクインは2週間後だよ!しっかり役に入り込んでね!」
原作の漫画と、台本の入った紙袋をドサッと渡される。
「ありがとう!瑠衣くん!頑張るね!」
よぉーし!
早速、台本に目を通した。
・
・
・
そして、クランクイン当日。
「おはようございまーす!」
現場に行くと、まだ御門くんは到着していなかった。
何度も何度も台本を読み返す。
演技も蓮に見てもらったし、大丈夫、大丈夫…。
セリフミスしないように頭に叩き込む。
ガチャ。
扉が開いた。
「おはようござい…あ、咲間君?」
「はじめまして!よろしく…っ」
あ、御門淳史だっ…。
涼しげな目元の整った顔。いい声。スラッとしたスタイル。人を惹きつけるオーラ。
華があって、さすが人気俳優。
『挨拶しなきゃっ…!』
ニコッと笑い、スっと手をさしだした。
「あ~大丈夫、そういうの」
入ってきた時は笑顔だったのに急に真顔になって、スーッと俺を無視して席に座る御門くん。
あ、あれ…?
「あ…俺、ドラマの仕事初めてでっ。色々迷惑かけるかもしれないけど…精一杯頑張るからよろしくねっ」
スマホを触る御門くんに声をかけた。
「あ、君ドラマ初めてなんだ。」
「う、うん」
「ふーーーーん。初主演がこの枠ってさすが大人気アイドルだね~。」
もしかして俺、今嫌味言われてる??
「まー、せいぜい頑張ってね」
背の高い御門くんに、見下ろされポンと肩を叩かれた。
そのまま部屋を出ていく御門くん。
『えーーーーーーー?!!!』
どこが、礼儀正しくて優しい子ォ!!!?
『ていうか、俺、もしかして出だしミスった…?』
全く自分を受け入れてくれなさそうな彼に、正直泣きそうになった。
・
・
・
「あっ、瑠衣くーーん!聞いてよ~」
雑誌の表紙撮影中の俺を覗きに来てくれた瑠衣くんに、御門くんとの出来事を話す。
えぇ!?そんな態度だったの!?
と、瑠衣くんはびっくりしてたけど、「W主演だから、彼も負けられないと思ってるんじゃない?りっくんはりっくんなりに、マイペースにやれば大丈夫だよ!」
元気よく励ましてくれるけど、すぐに「はい!」と電話に出る。
さっきから電話がひっきりなしに鳴っている瑠衣くんのスマホ。
今はメンバーそれぞれ仕事が重なってるからなぁ…。
それを把握する瑠衣くんもかなり忙しいはず。
ウジウジ言ってたって仕方ないよね…
「はぁ、蓮…会いたいな…」
やっぱりこういう時に会いたくなるのは蓮。
そうは言っても、次のグループでの仕事の前に撮影は挟まってて。
蓮は蓮で忙しいし愚痴言いに会いに行くのもなぁ…。
うーーーーっと、やり切れない気持ちを飲み込み台本を開いた。
・
・
・
「カット!一旦休憩!」
ドラマの撮影は順調に進んでいた。
周りには何人か俳優がいるけど、割と時間が経ったのにみんなそれぞれ行動していてあまり仲良しこよしな雰囲気じゃない。
『みんな、やっぱライバル意識あるのかな…』
普段、グループで仕事をする事に慣れてる俺はこのうっすら感じる殺伐とした雰囲気は苦手に感じた。
ふぅ。といちごオレを飲む。
「咲間くん!次、ダンスシーンだけど大丈夫かな?」
「はい!大丈夫です!」
俺の演じる三谷祐希は、ダンスが天才的に上手くてそのスキルで部員を引っ張っていく役どころ。
フリはアドリブでと言われたけど、これに関しては特に心配はしてなかった。
まずは、親友の田中玲央が俺のダンスを見て感銘を受けるシーン。
『御門くんが納得出来るダンスか…』
ダンスシーンは2分。
ダンスの2分は短いようで、長い。
どんなフリにしようか考えていると、御門くんが隣に座った。
「あ、御門くんお疲れ様っ」
「ダンスシーンアドリブなんだってね?大丈夫なのー?アイドルっていつも振り付け通りに踊る感じなんでしょ?」
フン。と鼻で笑い、俺を見る御門くん。
まーた、嫌味ぃ?
俺、ダンスには結構自信あるんですけどぉー?
なんて、言葉はスっと飲み込んで
「あ、うん。俺なりに、構成練ってみたよ!」
ニッコリ笑った。
「ふーーーん。ま、楽しみしとくわ」
去る御門くん。
はーーーー!?なんっじゃ、その態度はー!
んべー!と舌を出し、フリを考える。
『ここまでバカにされちゃあ、ガチで踊るしかないね?』
俺の闘争心に火がついた。
・
・
・
「音は後でつけるから、音無しで踊って!」
監督が指示する。
「はい!」
「3、2……」
チラリと、御門くんの顔を見る。
アイドルなめんなよ~!!!!
踊った。踊りまくった。
ドラマじゃなく、ダンス大会に出場した気分で踊った。
ダン!
最後はバク宙でしめた。
『あ、俺、やり過ぎたかな…っ』
ふと、我に返って不安になる。
「カーーット!!!素晴らしい!」
わ~!すごーい! さすが咲間くん!!
スタッフさんや監督がワーッと拍手をくれた。
「あ、」
良かったあぁぁあ!
やりすぎだって言われるかと思った!
ホッとして、ふと御門くんと目が合う。
ニコッと微笑みかけると、ふいっと目を逸らされた。
だけど、気分は良かった。
・
・
・
「いやー、やっぱすごいね!」
監督がダンスを絶賛してくれる。
「このドラマのダンスレベルが一気に上がってみんなにいい刺激になったよー!」
嬉しい。褒められた。
咲間くんはちょっと休憩ねー!
と言われ、椅子に座る。
次は、御門くんが踊るシーンか…。
主人公と親友の田中は同じレベルのダンススキル。
大丈夫かな…。
自分で言うのもなんだけど、俺は今までガチでダンスに打ち込んできた。
さっきのダンスは、つい負けじと本気で踊ったけど、それと同レベルを求められる御門くんにとってはいい迷惑だったかもしれない…。
ハードル上がってないといいけど…。
「もう一回!!」
監督の声が鳴り響く。
「そのダンスだと主人公と差がありすぎる!もっと余裕のあるダンスちょうだい!」
「はい!」
「…………………」
撮影現場をこっそり覗く。
原作通りの振り付けをミスなく完璧に踊っている御門くん。
だけど、もう少し改良出来るところはある。
御門くんは多分かなり練習したんだろうけど、自己流。
「カット!とりあえず、序盤はそれでいいけど最終回に向けてもっと練習しといて!」
「はい!」
スタッフさん達が移動して、ドサッと腰を下ろす御門くん。
「…………………」
どうしようかな…
嫌がるかもしれないけど……
「お疲れ様っ」
隣に座り、お茶を彼に渡した。
「………」
ふいっと顔を逸らす御門くん。
「あ、あのさっ…ダンス、良かったと思うよ。」
「なに?馬鹿にしにきたの?」
「えぇっ?」
「君、ダンスプロレベルじゃん。知らなかったわー。でも、あんまり勝手にレベル上げられるとこっちは困るんだけど。」
うっ…。確かに…
「自分の得意分野のドラマなんて、気が楽でいいね」
カッチーーーン。
さすがに頭にきた。
立ち上がろうとした御門くんの裾を引っ張る。
「あたっ!」
尻もちつく御門くん。
「ちょ!なにす…」
「音のとり方甘い。伸ばすとこ伸ばしてない。もっと大きく動かさないと映えない。キレが悪い。表情に余裕が無さすぎる」
「は、なに…」
「悪いけど、御門くんのダンスは素人より全然下。」
「………っ」
「俺はダンス一筋で今まで生きてきた。その実力を見て、この役に抜擢された以上、ダンスで妥協は出来ない。俺のレベルが高くて困るなら、御門くんが付いてくるべきじゃない?」
「な…っ」
「でも、ダンスのスキルなんてそんなすぐ上がらない。だけど…」
「俺が上手く見せられるコツを教えてもいいよ?」
う、う、わわわわ!
あの御門くんに勢いでつい言ってしまった!
怒る?怒るかな?
言ったはいいものの、キッと睨まれ心臓がプルプル震える。
「………ふん。仕方ないな。」
「え…」
「ダンス、教えてください」
ガバッと立ち上がり、頭を下げる御門くん。
「あっ、う、うん!!任せて…!」
まさか頭まで下げられると思わなくて、慌てて返事をした。
「じゃあ、とりあえず次のダンスシーンの練習しよう…!いつ空いてる…?」
「連絡先、教えて」
それから、俺と御門くんのダンスレッスンが始まった。
御門side
咲間凉空。
今回のドラマのW主演相手。
「Dream Storyの1人か…」
ただの人気枠で、主演をぶんどるアイドル。
5歳の頃から俳優一筋でやってきた俺。
そんな俺が一番嫌いなのが、こういう演技のイロハも知らないアイドルと一緒に仕事をする事だった。
普段からチヤホヤされているアイドルは、自分の能力を過大評価されていて現場でもふんぞり返っていることが多い。
なんの実力もないくせに、何食わぬ顔で自分は演技出来てます、という雰囲気を出されると虫唾が走る。
ま、こいつらはすぐに消えていくから俺の敵ではないんだけどね…。
仲良く折り合うなんて、絶対ごめんだ。
そして、撮影初日。
部屋に入ってすぐわかった。
咲間凉空。
ピンク色の髪の毛で、華奢で小柄な体のくせにエネルギーがバチバチ溢れ出している感じ。
中性的で可愛い顔、だけど、目の奥に秘めた熱いものが見え隠れする。
嫌いなタイプだな…。
アイドルには珍しく、握手なんか求めてフレッシュな雰囲気を醸し出して挨拶されたけど、相手になんかしない。
俺は自分の仕事をこなすだけ。
と思っていたら、まだ喋りかけてくる。
キラキラした大きな目で、屈託なく話す彼を見て悪い奴では無さそうだなと思った。
けど、所詮はライバル。
皮肉を投げかけ、初日は終わった。
そして、撮影が進み咲間凉空のソロダンス。
『アイドルのダンス…どんなもんかな』
なんて期待せずに見ていた。
大きく期待外れだった。
素人目に見たって分かる。彼はプロ。
『綺麗だ………』
体のしなやかさ、表現力、技術…
圧倒的スキル。
美しく踊る彼から目が離せない。
終わった瞬間、周りの歓声。
自分も拍手を送ろうとしたけど、プライドがそれを邪魔した。
浸っている場合じゃない。
次は自分の番だ。
踊る前から、今の自分じゃ実力不足だと分かっていたけれど。
監督から散々ダメ出しされ、仕方なくOKを出された時にはプライドはズタボロだった。
自分なりには練習したつもりだったけど…本物の前ではお遊戯会レベルだな…。
そんな事を思いながら、座り込んでいるとスっと差し出されるお茶。
咲間凉空か…
あざ笑いに来たのか?あんだけ嫌味言ったしな。
どんな嫌味を言われるか待ち構えていると、
「あ、あのさっ…ダンス、良かったと思うよ。」
なんて、拍子抜けの言葉。
良かったはずない。
あんたの踊りと雲泥の差だったじゃないか。
同情にイラついて、口からは嫌味が出てくる。
グラッと咲間凉空の瞳が揺れる。
…くそっ、八つ当たりなんてかっこ悪い。
この空気が嫌すぎて、立ち上がった。
そして、始まる俺へのダメ出し。
嫌味でもなんでもなく、的確な指摘。
でも、それだけじゃ終わらなかった。
「俺が上手く見えるコツを教えてもいいよ?」
びっくりして彼を見つめる。
俺が上手くなったって、彼にはなんの得もないのに。
自分だけ評価が上がるチャンスなのに。
なんで?あんなに嫌味言ったのに。
目の前の彼は、損得勘定なんて抜きのただ真っ直ぐな目をしていて。
『変なやつ………』
だけど、こんなチャンス不意にするわけには行かない。
それなら、彼には敬意を払わなきゃ。
頭を下げてお願いした。
急にあたふたしてる咲間凉空を見て、やっぱり変なやつだなぁ、と思ったけど心のどこかで彼に対する意識が大きく変わり始めていた。
そして、始まった俺と咲間凉空のダンスレッスン。
お互い忙しいスケジュールの合間をぬって、待ち合わせる。
俺より忙しいはずなのに、毎度嫌な顔せず俺に教えてくれた。
的確な指導のおかげで、メキメキ上達した俺。
監督からもびっくりされた。
「すごいじゃん、御門くん!咲間くんと並んで踊っても全然見劣りしないよ!」
「あ…ありがとうございます!」
褒められる俺を見て、ニッコリして小さくガッツポーズを送ってくる咲間凉空。
長い芸能生活の中で、こんなに裏表なく優しい人と出会ったのは初めてだった。
彼の温かさに直に触れて過ごしたこの期間。
撮影も終盤に差し掛かった頃には、俺は完全に咲間凉空に心を掴まれていた。
「りっくーーん!ドラマ決定おめでとー!!」
瑠衣くんが、嬉しそうに楽屋に入ってきた。
「ありがと!瑠衣くん!」
今回のドラマは«ダンス男子!»というタイトル。
高校生の男子2人が、部員の少ないダンス部を立て直すという定番のスポ根青春ストーリー。
女子との恋愛要素はなく、主人公とその親友2人の友情メインで話が進んでいく。
今回はW主演。
俺が主人公の三谷祐希(みたにゆうき)役、そして親友の田中玲央(たなかれお)役を演じるのは、人気の若手俳優・御門淳史。(みかど あつし)
身長184cm、甘いマスクで女子からの人気は安定していて、子役時代からのベテランで演技にも定評がある。
「あ~、俺大丈夫かな~…」
片や俺はドラマは初めて。演技も初めて。
御門くんと主演を張るのに、少し気後れしていた。
「大丈夫だよ!僕も会ったことあるけど、彼とっても礼儀正しくて優しい子だったよ!りっくんとは同い年だし、きっと仲良くなれるよ!」
夏らしい爽やかなドラマ!りっくんにピッタリ!
と瑠衣くんがウキウキして言うけど、俺は内心不安でいっぱいだった。
悠里や蓮がドリストのドラマ班。
この2人は既に演技において高い評価をされている。
『俺も頑張らなきゃ…』
2人の足を引っ張るわけにはいかないっ。
「クランクインは2週間後だよ!しっかり役に入り込んでね!」
原作の漫画と、台本の入った紙袋をドサッと渡される。
「ありがとう!瑠衣くん!頑張るね!」
よぉーし!
早速、台本に目を通した。
・
・
・
そして、クランクイン当日。
「おはようございまーす!」
現場に行くと、まだ御門くんは到着していなかった。
何度も何度も台本を読み返す。
演技も蓮に見てもらったし、大丈夫、大丈夫…。
セリフミスしないように頭に叩き込む。
ガチャ。
扉が開いた。
「おはようござい…あ、咲間君?」
「はじめまして!よろしく…っ」
あ、御門淳史だっ…。
涼しげな目元の整った顔。いい声。スラッとしたスタイル。人を惹きつけるオーラ。
華があって、さすが人気俳優。
『挨拶しなきゃっ…!』
ニコッと笑い、スっと手をさしだした。
「あ~大丈夫、そういうの」
入ってきた時は笑顔だったのに急に真顔になって、スーッと俺を無視して席に座る御門くん。
あ、あれ…?
「あ…俺、ドラマの仕事初めてでっ。色々迷惑かけるかもしれないけど…精一杯頑張るからよろしくねっ」
スマホを触る御門くんに声をかけた。
「あ、君ドラマ初めてなんだ。」
「う、うん」
「ふーーーーん。初主演がこの枠ってさすが大人気アイドルだね~。」
もしかして俺、今嫌味言われてる??
「まー、せいぜい頑張ってね」
背の高い御門くんに、見下ろされポンと肩を叩かれた。
そのまま部屋を出ていく御門くん。
『えーーーーーーー?!!!』
どこが、礼儀正しくて優しい子ォ!!!?
『ていうか、俺、もしかして出だしミスった…?』
全く自分を受け入れてくれなさそうな彼に、正直泣きそうになった。
・
・
・
「あっ、瑠衣くーーん!聞いてよ~」
雑誌の表紙撮影中の俺を覗きに来てくれた瑠衣くんに、御門くんとの出来事を話す。
えぇ!?そんな態度だったの!?
と、瑠衣くんはびっくりしてたけど、「W主演だから、彼も負けられないと思ってるんじゃない?りっくんはりっくんなりに、マイペースにやれば大丈夫だよ!」
元気よく励ましてくれるけど、すぐに「はい!」と電話に出る。
さっきから電話がひっきりなしに鳴っている瑠衣くんのスマホ。
今はメンバーそれぞれ仕事が重なってるからなぁ…。
それを把握する瑠衣くんもかなり忙しいはず。
ウジウジ言ってたって仕方ないよね…
「はぁ、蓮…会いたいな…」
やっぱりこういう時に会いたくなるのは蓮。
そうは言っても、次のグループでの仕事の前に撮影は挟まってて。
蓮は蓮で忙しいし愚痴言いに会いに行くのもなぁ…。
うーーーーっと、やり切れない気持ちを飲み込み台本を開いた。
・
・
・
「カット!一旦休憩!」
ドラマの撮影は順調に進んでいた。
周りには何人か俳優がいるけど、割と時間が経ったのにみんなそれぞれ行動していてあまり仲良しこよしな雰囲気じゃない。
『みんな、やっぱライバル意識あるのかな…』
普段、グループで仕事をする事に慣れてる俺はこのうっすら感じる殺伐とした雰囲気は苦手に感じた。
ふぅ。といちごオレを飲む。
「咲間くん!次、ダンスシーンだけど大丈夫かな?」
「はい!大丈夫です!」
俺の演じる三谷祐希は、ダンスが天才的に上手くてそのスキルで部員を引っ張っていく役どころ。
フリはアドリブでと言われたけど、これに関しては特に心配はしてなかった。
まずは、親友の田中玲央が俺のダンスを見て感銘を受けるシーン。
『御門くんが納得出来るダンスか…』
ダンスシーンは2分。
ダンスの2分は短いようで、長い。
どんなフリにしようか考えていると、御門くんが隣に座った。
「あ、御門くんお疲れ様っ」
「ダンスシーンアドリブなんだってね?大丈夫なのー?アイドルっていつも振り付け通りに踊る感じなんでしょ?」
フン。と鼻で笑い、俺を見る御門くん。
まーた、嫌味ぃ?
俺、ダンスには結構自信あるんですけどぉー?
なんて、言葉はスっと飲み込んで
「あ、うん。俺なりに、構成練ってみたよ!」
ニッコリ笑った。
「ふーーーん。ま、楽しみしとくわ」
去る御門くん。
はーーーー!?なんっじゃ、その態度はー!
んべー!と舌を出し、フリを考える。
『ここまでバカにされちゃあ、ガチで踊るしかないね?』
俺の闘争心に火がついた。
・
・
・
「音は後でつけるから、音無しで踊って!」
監督が指示する。
「はい!」
「3、2……」
チラリと、御門くんの顔を見る。
アイドルなめんなよ~!!!!
踊った。踊りまくった。
ドラマじゃなく、ダンス大会に出場した気分で踊った。
ダン!
最後はバク宙でしめた。
『あ、俺、やり過ぎたかな…っ』
ふと、我に返って不安になる。
「カーーット!!!素晴らしい!」
わ~!すごーい! さすが咲間くん!!
スタッフさんや監督がワーッと拍手をくれた。
「あ、」
良かったあぁぁあ!
やりすぎだって言われるかと思った!
ホッとして、ふと御門くんと目が合う。
ニコッと微笑みかけると、ふいっと目を逸らされた。
だけど、気分は良かった。
・
・
・
「いやー、やっぱすごいね!」
監督がダンスを絶賛してくれる。
「このドラマのダンスレベルが一気に上がってみんなにいい刺激になったよー!」
嬉しい。褒められた。
咲間くんはちょっと休憩ねー!
と言われ、椅子に座る。
次は、御門くんが踊るシーンか…。
主人公と親友の田中は同じレベルのダンススキル。
大丈夫かな…。
自分で言うのもなんだけど、俺は今までガチでダンスに打ち込んできた。
さっきのダンスは、つい負けじと本気で踊ったけど、それと同レベルを求められる御門くんにとってはいい迷惑だったかもしれない…。
ハードル上がってないといいけど…。
「もう一回!!」
監督の声が鳴り響く。
「そのダンスだと主人公と差がありすぎる!もっと余裕のあるダンスちょうだい!」
「はい!」
「…………………」
撮影現場をこっそり覗く。
原作通りの振り付けをミスなく完璧に踊っている御門くん。
だけど、もう少し改良出来るところはある。
御門くんは多分かなり練習したんだろうけど、自己流。
「カット!とりあえず、序盤はそれでいいけど最終回に向けてもっと練習しといて!」
「はい!」
スタッフさん達が移動して、ドサッと腰を下ろす御門くん。
「…………………」
どうしようかな…
嫌がるかもしれないけど……
「お疲れ様っ」
隣に座り、お茶を彼に渡した。
「………」
ふいっと顔を逸らす御門くん。
「あ、あのさっ…ダンス、良かったと思うよ。」
「なに?馬鹿にしにきたの?」
「えぇっ?」
「君、ダンスプロレベルじゃん。知らなかったわー。でも、あんまり勝手にレベル上げられるとこっちは困るんだけど。」
うっ…。確かに…
「自分の得意分野のドラマなんて、気が楽でいいね」
カッチーーーン。
さすがに頭にきた。
立ち上がろうとした御門くんの裾を引っ張る。
「あたっ!」
尻もちつく御門くん。
「ちょ!なにす…」
「音のとり方甘い。伸ばすとこ伸ばしてない。もっと大きく動かさないと映えない。キレが悪い。表情に余裕が無さすぎる」
「は、なに…」
「悪いけど、御門くんのダンスは素人より全然下。」
「………っ」
「俺はダンス一筋で今まで生きてきた。その実力を見て、この役に抜擢された以上、ダンスで妥協は出来ない。俺のレベルが高くて困るなら、御門くんが付いてくるべきじゃない?」
「な…っ」
「でも、ダンスのスキルなんてそんなすぐ上がらない。だけど…」
「俺が上手く見せられるコツを教えてもいいよ?」
う、う、わわわわ!
あの御門くんに勢いでつい言ってしまった!
怒る?怒るかな?
言ったはいいものの、キッと睨まれ心臓がプルプル震える。
「………ふん。仕方ないな。」
「え…」
「ダンス、教えてください」
ガバッと立ち上がり、頭を下げる御門くん。
「あっ、う、うん!!任せて…!」
まさか頭まで下げられると思わなくて、慌てて返事をした。
「じゃあ、とりあえず次のダンスシーンの練習しよう…!いつ空いてる…?」
「連絡先、教えて」
それから、俺と御門くんのダンスレッスンが始まった。
御門side
咲間凉空。
今回のドラマのW主演相手。
「Dream Storyの1人か…」
ただの人気枠で、主演をぶんどるアイドル。
5歳の頃から俳優一筋でやってきた俺。
そんな俺が一番嫌いなのが、こういう演技のイロハも知らないアイドルと一緒に仕事をする事だった。
普段からチヤホヤされているアイドルは、自分の能力を過大評価されていて現場でもふんぞり返っていることが多い。
なんの実力もないくせに、何食わぬ顔で自分は演技出来てます、という雰囲気を出されると虫唾が走る。
ま、こいつらはすぐに消えていくから俺の敵ではないんだけどね…。
仲良く折り合うなんて、絶対ごめんだ。
そして、撮影初日。
部屋に入ってすぐわかった。
咲間凉空。
ピンク色の髪の毛で、華奢で小柄な体のくせにエネルギーがバチバチ溢れ出している感じ。
中性的で可愛い顔、だけど、目の奥に秘めた熱いものが見え隠れする。
嫌いなタイプだな…。
アイドルには珍しく、握手なんか求めてフレッシュな雰囲気を醸し出して挨拶されたけど、相手になんかしない。
俺は自分の仕事をこなすだけ。
と思っていたら、まだ喋りかけてくる。
キラキラした大きな目で、屈託なく話す彼を見て悪い奴では無さそうだなと思った。
けど、所詮はライバル。
皮肉を投げかけ、初日は終わった。
そして、撮影が進み咲間凉空のソロダンス。
『アイドルのダンス…どんなもんかな』
なんて期待せずに見ていた。
大きく期待外れだった。
素人目に見たって分かる。彼はプロ。
『綺麗だ………』
体のしなやかさ、表現力、技術…
圧倒的スキル。
美しく踊る彼から目が離せない。
終わった瞬間、周りの歓声。
自分も拍手を送ろうとしたけど、プライドがそれを邪魔した。
浸っている場合じゃない。
次は自分の番だ。
踊る前から、今の自分じゃ実力不足だと分かっていたけれど。
監督から散々ダメ出しされ、仕方なくOKを出された時にはプライドはズタボロだった。
自分なりには練習したつもりだったけど…本物の前ではお遊戯会レベルだな…。
そんな事を思いながら、座り込んでいるとスっと差し出されるお茶。
咲間凉空か…
あざ笑いに来たのか?あんだけ嫌味言ったしな。
どんな嫌味を言われるか待ち構えていると、
「あ、あのさっ…ダンス、良かったと思うよ。」
なんて、拍子抜けの言葉。
良かったはずない。
あんたの踊りと雲泥の差だったじゃないか。
同情にイラついて、口からは嫌味が出てくる。
グラッと咲間凉空の瞳が揺れる。
…くそっ、八つ当たりなんてかっこ悪い。
この空気が嫌すぎて、立ち上がった。
そして、始まる俺へのダメ出し。
嫌味でもなんでもなく、的確な指摘。
でも、それだけじゃ終わらなかった。
「俺が上手く見えるコツを教えてもいいよ?」
びっくりして彼を見つめる。
俺が上手くなったって、彼にはなんの得もないのに。
自分だけ評価が上がるチャンスなのに。
なんで?あんなに嫌味言ったのに。
目の前の彼は、損得勘定なんて抜きのただ真っ直ぐな目をしていて。
『変なやつ………』
だけど、こんなチャンス不意にするわけには行かない。
それなら、彼には敬意を払わなきゃ。
頭を下げてお願いした。
急にあたふたしてる咲間凉空を見て、やっぱり変なやつだなぁ、と思ったけど心のどこかで彼に対する意識が大きく変わり始めていた。
そして、始まった俺と咲間凉空のダンスレッスン。
お互い忙しいスケジュールの合間をぬって、待ち合わせる。
俺より忙しいはずなのに、毎度嫌な顔せず俺に教えてくれた。
的確な指導のおかげで、メキメキ上達した俺。
監督からもびっくりされた。
「すごいじゃん、御門くん!咲間くんと並んで踊っても全然見劣りしないよ!」
「あ…ありがとうございます!」
褒められる俺を見て、ニッコリして小さくガッツポーズを送ってくる咲間凉空。
長い芸能生活の中で、こんなに裏表なく優しい人と出会ったのは初めてだった。
彼の温かさに直に触れて過ごしたこの期間。
撮影も終盤に差し掛かった頃には、俺は完全に咲間凉空に心を掴まれていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
28
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる