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ある日のはるなな(城崎遥陽×七瀬葵)

ゼロ距離フレンド 1

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遥陽side

「遥陽!おはよ!」
「ななちゃんおはよ~」

俺の幼なじみの七瀬葵。あだ名はななちゃん。

家がほんの近所で、ななちゃんの家は老舗料亭を営んでいる。
俺の両親は交際時からそこの常連だったらしく、同世代の子供が産まれた時は母親同士、かなり喜んだそうだ。

「ななちゃん、今日もモニコありがとね」
「どういたしまして」

一緒に過ごして10数年。
お互いのことはある程度知り尽くしている。
いつも一緒で、なにするにも共有。

もともとなにをするにもどこか冷めていて、他人に壁のある俺。
もうすぐ高校生だし、ちょっとは直すべきなのかなーと思いつつななちゃんといれば満足してしまい、結局今までそのスタンスを貫いている。

ななちゃんがいてくれれば、友達なんて他にいらない。

それが俺の口ぐせ。

秋晴れの気持ちいい朝空。
学校までの歩き慣れた道をななちゃんと2人で歩く。

退屈な学校もななちゃんと2人だから楽しい。

パカ。
靴箱を開けると、1枚の紙が。

『またか…』
「あっ、ラブレター?」
「うん。」
「ちゃんと読んであげなよ?」
「んー…」

通路のゴミ箱にそのまま突っ込む。

「あ!遥陽!」
拾おうとするななちゃんの腕を掴んで止めた。

「いいって。」
「も~…。たくさん貰ってるからマヒしちゃうかもだけど、書いてる本人は一生懸命なんだよ?無下にしちゃダメだよ」

ななちゃんがお説教するけど、毎度のことで「はいはい」と軽く流した。

ほぼ毎日放り込まれてる手紙。
俺の事何も知らないくせに何をそんなに書いてるんだろう。

好き?付き合ってください?

適当で軽々しい言葉は俺は一番嫌いなんだ。
そんな生半可な気持ちに向き合おうとすると、こっちが疲れるから。

手紙を貰うのはなにも俺だけじゃない。
ななちゃんだってかなりモテる。
俺とは反対に毎度手紙をじっくり読んで、「ありがとう」なんて呟いてるのを見ると、シンプルにすごいなって思う。

教室へ着いた。
俺たちは3年間同じクラス。

今の席は俺が1番後ろの窓際、ななちゃんが俺の斜め前。

「〰️〰️〰️〰️〰️。」
教師のやる気のない声。退屈な授業。
勉強が好きじゃない俺はいつも、ななちゃんの後ろ姿を見ている。

「………………」

頬杖をついて、ボーッとしていると俺の前の席の子が消しゴムを落とした。

「ぁっ……。」
コンコンコン…とななちゃんの方に転がっていく。
「はい。」
笑顔で女子に消しゴムを渡してあげるななちゃん。

「~ありがとう//////」

顔を真っ赤にして消しゴムを受け取る女子。
あ~ぁ、完全に恋する乙女。
そんな大事そうに握りしめちゃってさ…。

すぐ人の心を掴むんだよね~…。ななちゃんのタラシ。

こうやって気のない人にも優しくして自分から離れられなくするって、手紙を読まないで捨てる俺よりずっと、残酷なんじゃない?

まぁ、そんな事わざわざななちゃんには絶対言わないけど。

キーンコーンカーンコーン…

「なー城崎!お前、文化祭なにやりたい!?」
「城崎メインでやれば絶対俺らのクラス1位取れるって!」

昼休み。
クラスの男子がワイワイ話しかけてくる。

俺たちの通う学校は私立のいわゆる金持ち学校。
それなりに行事にも力を入れている。

それぞれのクラスで出し物をして、投票で1位になったクラスには賞品が贈呈される。今年はテーマーパークの1dayフリーパスらしい。

『めんどくさ…』

賞品はおろか、文化祭自体に全く興味のない俺は「んー…」と生返事。

「ななちゃぁん!城崎のやる気を引き出してー!」
「ははは」
困ったように笑うななちゃん。

「おい、ななちゃん困らせんなよ」
「じゃー、城崎早く決めてよ!」
「えぇ~…」

そんな事言われても全くやる気が出てこない。

「………………」
「あっ、料理だったら、俺役立つと思うけどなぁ。カフェとかどう?遥陽」

見かねたななちゃんが案を出してくれた。

「ななちゃんがそう言うなら……」
「絶対城崎ウェイターね!それか呼び込み!」
「やだよ。俺ななちゃんの助手やる。」
「アホか。お前が呼び込めばみんな付いてくるって」
「おい!みんなー!俺らのクラスは出店にしよーぜ!」
「よし!メニュー決めよう!ななちゃん何得意?」
「ななちゃんが作るとこ見せたらめっちゃ客来そう!」

勝手にどんどん盛り上がっていくクラス。

「遥陽、中学最後の文化祭楽しもうね!」
「うん」

ななちゃんが楽しそうに笑ってるから、別になんでもいいや。




そして、文化祭当日。

全校生徒に保護者や他校の生徒---
たくさんの人でごった返す校内。

カフェをやることになった俺らのクラスは、サンドイッチやコーヒー、簡単な食事を提供している。

俺は教室の前で呼び込み。

キャーキャー言いながら、話しかけてくる女に適当に相づちを打ち壁にもたれかかる。

中を見ると、限られた器具を駆使しながら料理を作っているななちゃん。

お客からも好評みたいで、俺らのクラスはずば抜けて盛り上がっていた。

昼休み。

「城崎!そろそろ昼休憩行っていいよ!」
「分かったー。ななちゃん行こー」
「ごめん、遥陽!俺あと少しオーダーさばくから、ちょっと待ってて!」

ななちゃんは忙しそうだ。
ここで待っていよう。

すると、1人の女子が話しかけてきた。

「城崎くん…ちょっといい?」

同じクラスの廣瀬結衣。男子から人気のある女子。
ウェイトレスの格好をしている。

「ちょっとこっち来てくれない?」

グイグイと手を引かれ、教室から少し離れた人気の少ない階段へ連れてこられた。

「なに?」
「ごめん。急にこんな所連れてきちゃって。あのね、相談があって…実は、私、七瀬くんの事…好きなんだ。」
「………へぇ」

別に珍しい事じゃないので、特に反応しない。

「で?」
「それで…文化祭が終わったあと、告白…しようと思ってて…」
「…」
「七瀬くんいつも、周りにたくさん人がいるじゃない?だから城崎くんから、七瀬くんにちょっとだけ私のとこに来てくれるように言ってくれないかな…って。」

うざ。

「…うざ。」
「………えっ。」
「なんで俺が廣瀬さんの告白なんか手伝わなきゃ行けないわけ?」

トゲトゲしい言葉を言う俺にびっくりしている廣瀬さん。
「あ…城崎くん、七瀬くんと仲良いから…頼むなら城崎くんかなって…」
「そんなのさぁ、ホントに好きなら自分の力だけでなんとかしなよ。いちいち回りくどいことしなくてさぁ」
「…えっ」
「ていうか、そんな度胸もなくてよくななちゃんに告ろうとか思えたね。言っとくけど、お前みたいな小賢しい女、ななちゃんとは不釣り合いだよ。幸せになれるはずない。そもそもさ、ななちゃんのなに知ってんの?顔?優しさ?どうせ、上っ面しか見えてないくせに。一人占めしようなんて図々しいよ。」

思った言葉がそのまま出てくる。
なんで彼女に対してこんなにも激しい言葉が出てきたのか分からない。

ななちゃんを取ろうとするやつへの拒絶反応か、それとも焦りか…。

言い過ぎた。
ハッとして、そう思った時には廣瀬さんの目には涙が浮かんでいた。

こぼれ落ちる寸前、廣瀬さんが下を向く。

『あ~泣くなよ。めんどくせ…』

「……わり」
「……、でしょ」
「…え?なに…」
「七瀬くんを一人占めしたいのは城崎くんの方でしょ」
「は?」
「なに七瀬くんの幸せ勝手に決めようとしてんのよ。いくら幼なじみで仲良いからって城崎くんに七瀬くんの幸せを管理する権利なんてない。」
「は?おま、」
「七瀬くんのこと、自分の所有物みたいに扱うのはやめて!いっつも七瀬くん、城崎くんの事ばっか気にかけてるじゃん!城崎くんがもっと自分で…」

バン!!

「きゃっ!!」

「お前なんかに、俺らの何が分かんの?」

思わず壁に押し当てた。廣瀬さんはひどく怯えた顔をしていた。

「…ごめん」
すぐに体を離す。
「………城崎くんに変なこと頼んでごめんね。私、自分でなんとかするから」

吐き捨てるように呟いて、彼女は走っていった。

「あ~…もうなんなんだよ」
最悪な気分。

確かに言い過ぎた。なんであんなムキになったんだろう。

でも、あんな女ななちゃんにふさわしくない。
ななちゃんの何知ってんだよって。
俺の方がななちゃんの事、大事にする自信がある。

〝一人占めしたいのは城崎くんの方でしょ〟
〝所有物みたいに扱うのはやめて!〟

頭の中で鳴り響く廣瀬さんの言葉。

どんどん頭の中で、言葉の意味が俺を支配していく。
俺、ななちゃんの事縛り付けてんの?
だって、俺ら幼なじみで、親友で、いつも一緒で…
この距離感が当たり前だと思ってたから。

普通なら快く手伝ってあげるのだろうか。
可愛い彼女が出来るのを一緒に喜んであげるのかな。

『一人占め…したいだけ?』

「あっ、遥陽!こんなとこいた!探したよ~!」

ななちゃんがパタパタと駆け寄ってくる。
声を聞くだけで安心する。
心の中がじわじわと穏やかな感情で満たされていく。

「遥陽?どうした?」
「ななちゃん…」

この出来事を言おうか、どうしようか。

「………………………」
「遥陽?」
「なんでもない。お昼食べよ」
「うん!」

ななちゃんが気にかけるのは俺だけで十分だ。


午後のパートも忙しく俺らのクラスが圧勝の1位を取り、文化祭は終了した。
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