氷の中で

雲椛湊己

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悪夢

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「おいっ。見付けたぞ。」

其の声で数人が、駆け寄って来た。

「生きてるか?」

僕の体を揺すった。

僕は、重い瞼を開けた。

「生きとる。」

男が、叫んだ。

僕は、数人の男達に持ち上げられた。

迚も、寒い。

僕は、暖かい部屋に運ばれた。


暫くすると救急車が到着した。


僕は、朦朧とする意識の中で心配そうにしている美悠の姿が見えた様な気がした。


病院に着くと異常が無いか検査された。
異常が、無かったので僕は普通の病室に運ばれた。

非常に気持ち良い温度の部屋だった。

「無事で良かったわ。」

気が付くと美悠が、僕の右手を握っていた。

僕は、目を開けて美悠の顔を見た。

「アレン」

美悠は、僕に抱きついた。

「私ね、アレンと此の子と一緒に生きたい。」

「…此の子?」

非常に現実味を感じられた夢で見た蓮香の事だろう。

「名前ね。蓮香って言うの。」

美悠は、起きて膨らんだお腹を触った。

僕は、目を見開いた。

卒業式は、一ヶ月程前…こんなに大きく成るのだろうか。

「可愛い名前だね。」

僕は、美悠のお腹を触った。

此の子が、蓮香に成るのか…。
此れで良かったのか…
幸せな家庭を築けるのだろうか。

「五ヶ月なの。七月か八月かに産まれるの。其れまで保健室登校するの。」

美悠は、嬉しそうに語る。

結婚を望んでいる。

もう、遊べなくなる。

「結婚、僕が就職してからで良い?」

友達と未だ遊びたい。

本当に美悠が、好きだけれど。
未来も僕を好きでいてくれるから、もう少し、先でも良いでしょう。

「乗り気だったじゃない。」

美悠は、少し声を荒げた。

そりゃそうだ。
確かに乗り気だった。
あんな夢を見ると、もっと幸せに成りたいって思うさ。
結婚するなら勿論、美悠だけだよ。
でも、僕も友人と遊びたい。
子育てとか未だ早い。
可愛い蓮香が、産まれるのは良い事。

「待っていてくれる?」

何て罪深い言葉を言ってしまったのだろう。

「良いわよ。でも、同棲は絶対よ。」

美悠は、厳しい口調で言った。

「分かったよ。」

急に美悠が、クスクスと笑い出した。

僕は、美悠を眺める。

「中学生の時を思い出したの。」

中学生は、美悠と出会った頃だ。

僕は、昼休みや放課後の天気の良い日に、人通りが少ない学校が一部所有する山の敷地で、切り株に座り本を読んでいた。


此の学校は、元は歴史ある中高一貫の男子校であった。
しかし、今から一〇年前に反対を押し切り、男女共学に成った。
共学に成ったと言っても、男女が一緒に学ぶのは、芸術系の科目、体育祭、文化祭、生徒会、委員会、一部の郊外学習だけだった。

生徒会では、女子と男子のバトルが凄かった。
教室を別け互いに競争させていたので、自立心、思考力、協調性、団結力が、身に付いた。

「私、夏頃からずっと、アレンの事追ってたね。」

「ああ、昼休みに何時も来ていたね。」


僕が、何時もの様に切り株に座って本を読んでいると、長い黒髪を後ろに束ねた美悠が、やって来て向かいの切り株に座っていた。

「月島さんって、何時も此処に居るんですね。」

美悠は、ニコニコしていた。

「結城か…。何しに来たの?」

僕は、独りで静かに本を読みたかった。

「委員会以外でも、お話したかったんです。」

美悠は、お弁当を膝に置いていた。

僕は、美悠を睨んだ。

「後輩に慕われるのは、嬉しいんだけど…。独りでのんびりしたいから。」

冷たい声で言った。

「…偶然、居合わせたって思って下さい。」

美悠は、悲しそうに俯いた。



「彼の時、冷たかったよね。」

「興味無かったからね。」



其の次の晴れの日も又、次の晴れの日も美悠は僕の前の切り株に座った。

今更、場所を変えるのは嫌だったので其の儘にした。

学年が一つ上に上がった爽快の春の日、僕は、放課後に切り株の上で転寝をしていた。

あれ…何か違和感が。
僕は、目を開けた。

美悠が、切り株に膝を乗せ、僕の顔を至近距離で覗き込んでいた。

「わっ。」

僕は、驚いて後ろに在った木に背中を打つけた。

「何?」

驚いて心臓が、バクバク動いている。

「…月島さん、私と付き合いませんか。」

意味が解らない。
如何してそうなるの。
気があったのは、知っていたけど。

「御免ね。僕、誰とも付き合いたく無いんだ。」

僕は、思わず綺麗な黒い美悠の髪を撫でてしまった。

美悠は、兎みたいだった。

「…モテるのに贅沢ですね。」

美悠は、潤んだ目で立ち去った。



「何回か告白したよね。」

「五回だね。」

僕は、笑った。



二回目は、僕が中三の時の夏休み前。


三回目は、クリスマス前。

「クリスマスは、寂しいから一緒に居て下さい。」

周りに友達が、居た時だった。

「御免ね。僕、クリスマスは家族と過ごすんだ。」


四回目は、高校の入学式。

「私と付き合って下さい。」

其の時、美悠は、僕に抱き付いた。

僕は、少し戸惑った。

僕は、美悠の髪を撫でた。

「…君とはね、付き合わないの。」

流石に僕は、苦笑いした。

一途過ぎる。


僕が、高校に入ってからは、迫って来る様になった。


そして、五回目。

秋の放課後、美悠は、僕の座っている切り株の前に立った。

「私を彼女にして下さい。」

美悠は、肩を震わせていた。

僕は、又か、もう良いだろうと思っていた。
付き合ったら、諦めてくれるかもしれない。

僕は、美悠の顔を暫く眺めた。

「…良いよ。彼氏に成ってあげる。」

僕は、溜息混じりの声で言った。

美悠は、喜んで思いっきり僕に抱き付いた。



「恥ずかしかったなー。色仕掛けっぽい事していたし。」

美悠は、照れた。

「結構、してくる人多かったよ。」

「え?そうなの、私だけじゃ無かったんだ。」

美悠は、目を見開いた。

「ああ、複数で襲われた事もあったし。」


美悠は、小さく可愛らしかったので結構人気が有った。

付き合って二ヶ月。

「結城ちゃん、先輩とは何処まで進んだの?」

美悠の同じクラスの同級生だ。

美悠は、俯いて僕の腕を掴んだ。

「下品過ぎないか。」

僕は、彼を睨み付けた。

其の頃、僕は、美悠の事を好きでは無かった。

手も出していなかった。

「そう言えば、私の事、何時好きに成ったの?」

僕は、目を逸らした。
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