氷の中で

雲椛湊己

文字の大きさ
上 下
9 / 16
悪夢

8

しおりを挟む
夢を見た。

僕と美悠の結婚式だった。
夢の中の僕達は、幸せそうだった。

今更、何故。

断ち切った筈だよ。
後悔しているのだろう。

仕方が無いよ。

此ればかりは、もう何も出来ない。
一五年の月日は大き過ぎた。

タイムスリップ出来るなら別だけど。

理論上は、可能らしいが…。


僕は、パソコンを立ち上げた。
レイモンドに頼まれていたメールを書く。
とある会社宛に上手く取り次いで欲しいそうだ。


返信が返った。


どうやら直接会って話したいらしい。
成功させなければならないから、会う位如何でも良かった。

レイモンドに言うと変装して欲しいとの事だった。

「桜、髪を巻いて化粧をしてやってくれないか。」

「女装?」

桜さんは、悪戯する子供の顔をしていた。

「そうだよ。」

レイモンドは、笑った。

「あらー。アイリス。」

桜さんは、手招きした。

僕は、桜さんの傍で立ち止まった。

「化粧映え、良さそうね。」

椅子に座らされた。

桜さんは、僕の顔に化粧水を塗ってファンデーションを馴染ませる。
睫毛をビューラーで上げて、マスカラをし、ラインを引き、アイシャドウをした。
最後にチークを入れられた。

「うん、良いわ。」

桜さんは、僕に鏡を渡した。

僕は、見て驚いた。

母の若い頃にそっくりだ。

「此れが、僕か…」

「髭生えてないから、メイクし易かったわ。一人称は、私よ。」

桜さんはメイク道具を片付けていた。

僕は、椅子から立ち上がった。

「レイが、机の上の服着てだって。」

僕は、机の上の白いシャツを取った。
僕は、自室へ向かった。

シャツを着たら、ボタンが何時もと反対の位置にあった。

少し手間取った。
女物か…

パンツは、大丈夫だろうけど、ジャケットは如何なのだろう。

着ないという事で良いか。

アクセサリーとか…

着けているか…
此のネックレス…

雪崩に遭った時も池に飛び込んだ時も取れなかったな。
何時までも身に付けているのも女々しいかな。

まあ、今後誰とも付き合う気が無いから付けていても問題無いだろう。

結構、気に入ているデザインだし良いか。

今更になってもう、執着はしていない。
美悠…新しい恋が、出来ると良いな。
僕の分まで楽しんでね…


世の中顔。
顔が良ければ人が、集まる。
しかし、最初だけはね。
其の後が、重要。
性格、能力、センス。
今までそうだった。

僕は、家に出て待ち合わせの場所の図書館まで歩いた。

緑のストライプのネクタイに紺色のスーツの男って言っていたな。

「今晩は。アイリス・フィッツロイです。」

僕は、会釈した。

「今晩は、私、篠田和人と申します。本日は、有難う御座います。」

篠田さんは、会釈した。

「お店取っていますので、行きましょうか。」

篠田さんは、先に歩いた。

僕は、篠田さんの左横に付いて歩いた。

篠田さんは、僕の顔を見た。

「あの。女性に道路側を歩かせる訳にはいかないので、右側にどうぞ。」

僕は、会釈して後ろから右側に移った。

「何処出身の方ですか?」

篠田さんは、僕の顔を見た。

「愛知です。」

僕は、嘘を言った。

篠田さんは、思った答えと違ったからか戸惑っていた。

「愛知って…。ハーフですか?」

「いえ、日本とイギリスのクォーターです。」

篠田さんは、再び僕の顔を見た。

「察するにイギリスの血の方が、多い様ですね。」

「そうですね。」

篠田さんが、渋い緑色の建物の前で立ち止まった。

「此処です。」

「和食ですか。」

篠田さんが困った顔をした。

「お嫌いですか?」

「好きですよ。」

僕は、笑顔で言った。

名前だけで見ると、外国人だから日本のモノが良いだろうとかいう考えだろう。
外国人は、皆ジャポニズムとでも思っている類の人間だろう。
其の様な人は、ある意味使い易いかもしれない。

席に座り、料理を注文した。

「本題に入っても宜しいですか。」

僕は、篠田さんの目を見た。

「はい。」

「其方の真木彩綾さんを此方の新作の服を着て頂きたいのです。」

僕は、服の写真をタブレットで見せる。

「彩綾には、ぴったりなのですが、彼女よりRainにして貰いたいのです。」

確か、謎の人気急上昇モデルとか言っていた。

顔、調べるのを忘れていたな。

「因みにこんな顔です。」

篠田さんは、自分の仕事用のタブレット見せた。

「アイリスさんと少し似ていますよね。私、会った時驚きました。」

僕は、驚いてタブレットを目の前まで近付けた。

此れは、もしかして…。

「驚きました。面白そうなのでRainさんにします。」

言われた人とは、違うけど此れは此れで良いかもしれない。

其れに気になる。

「有難う御座います。」

「此方こそ有難う御座います。」

僕は、会釈した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...