氷の中で

雲椛湊己

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悪夢

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其の丘は、世の中で最高級の枕と言っても過言では無い程心地好い。
女性は、皆其れを持っている。
使うのは、本人では無い所が惜しいが、非常に羨ましい。
僕に女性の素晴らしさを教えてくれたのは。美悠である。
男尊女卑なんて馬鹿げた考えは、改めた方が良い。
僕は、腕の力を緩めて美悠の髪の毛を撫でた。

「絶対、私から離れないでね。」

美悠は、僕の背中に両手を回した。

「離れたくないよ。」




僕は、此の関係がもう終わりを告げようとしている事に気付かなかった。



昨日は、美悠が泊まったから一緒に学校へ行ける。

先に玄関へ出て待っていると家の庭の前に兄の幼馴染の沙百合が立っていた。

「久しぶりね。アレン、今日は話がしたいの。」

僕を見掛けると歩み寄って来た。

「ああ、学校終わってから話そうよ。今日は、美悠が泊まりに来ていたからね。」

美悠に見られたく無い。

沙百合は、俯いた。

「じゃあ、此処で言うわね。あたし、ずっと黙ってたけど、今。見て気づいたでしょ、妊娠してるの。」

大きなお腹を摩りながら言った。

「それって誰の?」

僕は、恐ろしかった。

軽々しくするモノでは無いと後悔した。

「充。心配しなくても一人で育てるわ。未だ、高校生の子供も居るし。私は、もう社会人だわ。」

全身の血の気が引いた。
何を言っているのだろう。

「父さんには、言わない方が良いよね?」

命の重大さは、理解出来る。
同時に行為の重大さに気付いた。

「そうね。仕方無いのよ。気に病む事無いの。アレン、貴方は、美悠ちゃんにそんな失礼な事しちゃ駄目よ。」

沙百合の姿は、凛々しかった。


沙百合と僕が出会ったのは、一〇年前。
小学生の時、家の近辺に引っ越して来た。
父と沙百合が、関係を持ったのは、半年前である。
兄の友達とこんな関係に成っているとは思ってもいなかった。


「有難う、御免ね。」
沙百合は、静かに立ち去って行った。

「お待たせ。行こっか。」
美悠は、何も知らずに僕に笑顔を向けた。
僕は、居た堪れない気分だった。
父が、不倫をしているのを黙って見ているなんて。


学校の校門の前には、美悠の父親が恐ろしい顔をして立っていた。

「君、もう、美悠に近付かないでくれ。」

冷たい声で言われた。

僕は、何も言えなかった。

「嫌。」

美悠は、凄い剣幕で言い、僕の右腕を引っ張って校内に入った。


僕は、受験生なのに勉強に身が入らなかった。


放課後、何時もの待ち合わせ場所に行って待っていたが、美悠は来なかった。
父親に無理矢理連れ帰られたと美悠の友達に聞いた。
もう、会えなくなってしまうのではないかそんな気がしていた。

美悠と会えなくなってもう一週間経った。

別れたとか言う噂話も聞こえてくる。

家に行ったら門前払い。

何時も両親の何方かが、迎えに来ているらしい。
休み時間に行ってみると居ない。

音信不通。

絶望的だった。

もう、諦めるか。
でも、忘れたくない。
くよくよ悩んでいても格好悪い。
格好良く生きなくても良いから、美悠が欲しい。

「アレン、気晴らしに放課後遊びに行こうぜ。」

落ち込んでいる僕を励まそうとしているのだろう。

「良いけど、勉強大丈夫なの?」

「今日だけな。」

彼は、歯を見せて笑った。

「行こう。」

僕も同じく歯を見せて笑った。

放課後、少し教室に残って遊びに行く人を集めた。
女三人、男二人で行く事になった。

「お前等、アレン狙いだろ。」

彼は、ふざけて言った。

「うん、そうだな。お前目当てでは行かねえよな。」

「そうよねえ。」

女の子達は、くすくすと笑った。

「何だよー。行くぜ。」

僕達は、バッグを持って教室を出た。
ファミリーレストランで食事をした。

「アレン君、別れたんならウチと付き合おうよ。」

「真希ちゃん、有難う。気持ちは受け取っとくよ。」

こういう事が、別れた途端に増えるのか。
別れてないんだけどね。
しかし、僕は、モテる筈が無い。
何か可笑しかった。

食事が終わって帰る最中に舞実ちゃんが並んで歩いて来た。

「行こう。」

真希ちゃんは、僕の腕を勢い良く引っ張って走った。

「此処、私の家ね。」

そう言うと僕を家の中に押し込んだ。
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