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poppin' orange. 蓮多

07.

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「…お前、緊張とかねえのかよ?」

学校帰りに寄ったコーヒーショップで向かい合わせに座って、なんちゃらフラペチーノをすする木瀬に、蓮多は不満を隠し切れない。

俺は今日一日中木瀬がキラキラしすぎて、見るたびに死にそうな思いをしてたっていうのに、木瀬は平然と数式を解いたり、ボールを投げたり、弁当食ったりしやがって。登下校だってそれとなく肩を抱いたり、今だってそんな、向かい合わせでフラペチーノとか、デートの王道だろう???

「…あるよ?」

疑いのまなざしを向ける蓮多に、木瀬はしれっと答えて微笑んだ。

「でも俺、お前といられればそれだけで幸せっていうか、他に何にもいらない感じだから、…」

だああああ――――――っ

なんでこいつ、こんな公衆の面前で平気な顔してそんな甘い爆弾投下できるかな!?

木瀬爆弾に瞬殺された蓮多は胸を押さえた。
…胃が苦しい。

「大丈夫、蓮多? やっぱお前調子悪いんじゃ、…」

胸を押さえて前かがみになった蓮多を、木瀬が心配そうにのぞき込む。

「絶好調じゃ、ボケ」

見上げた蓮多は至近距離の木瀬と目が合った。

自分のキャラが崩壊していることはこの際どうでもいい。木瀬の顔が近い。木瀬のサラサラの前髪が垂れて、長いまつ毛に縁どられた黒々とした瞳が陰りを帯びたように細められ、ふっと柔らかい唇が唇に触れた。

「…――――――っ!!!」

声にならない。のけぞり落ちる。

「…ごめん。ちょっと我慢できなかった」
「おっっ前、いるだけでいいとか言って、手ぇ早すぎんだろっ!!」
「…だって。蓮多が物欲しそうな顔して見てくるから」
「俺のせいかよっ!?」

ギャアギャアしている男子高校生二人に、周囲からの生温かい視線を感じて、ようやくここが昼日中のコーヒーショップだと思い出した。

くっそぅ木瀬のやつ。
人目気にしなさ過ぎだろう。なんだこの、生温かく見守る視線は。

蓮多が呼吸と顔色を整えて立ち上がると、

「…帰る? お前んち」

木瀬がそのまま蓮多の肩を抱いて意味ありげに囁きかけてきたので、またしても蓮多の心臓はもの凄い乱高下を繰り返す羽目になった。

「帰、…っっ」

木瀬のトンマ。俺を殺す気か。

「…、るに決まってんだろっ」

まともに木瀬を見ることが出来ず、乱暴に言い捨ててそそくさとショップを出る蓮多を、それでもどこか嬉しそうに木瀬が追いかけてくる。

クソ、…

それが蓮多は、とても嬉しい。

やっぱり木瀬には勝てない。負けっぱなしだと蓮多は思う。でも、…

「蓮多、夕陽」

蓮多に追いついた木瀬が後ろから肩に腕を回して暮れゆく空を指差した。

「…ああ。綺麗だな」

夕陽が最後の残光を放って空を茜色に染め、蓮多と木瀬を明るく照らす。

でも、それも悪くない。と蓮多は思う。
木瀬に挑むのは楽しい。ずっとそこにいて、永遠に追いかけっこをしていたい。

「…うん。最強だろ? 俺のオレンジ」

感慨深げに木瀬が呟き、

オレンジ、ってより赤くないか? 

と思って蓮多が見ると、木瀬は真っ直ぐに蓮多だけをその目に映して、この上なく愛しそうな笑みを見せた。




――――――――――――――――――
この後 →
番外編 公開予定です。
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