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poppin' orange. 蓮多

03.

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「はい、そこのバカップル。俺の功績を褒め称えてもらおうか」

木瀬が表彰式をすっぽかして来たと言うので、慌てて木瀬を引っ張って弓道場に戻ると、大会は既に終わってギャラリーは退席しており、会場の片付けもほぼ終了して、選手もスタッフも引き上げようとしているところだった。

木瀬の荷物を持ってきてくれたのは凛都先輩で、凛都は木瀬と蓮多の姿を認めると、速攻でパカップル認定をして得意げに口の端を上げた。

…なんで分かる? 俺らが両想いになったこと。

両想いという響きに脳内でこっそり酔いしれながら、凛都に向けてうさん臭さ全開の視線を投げてみると、それまで何があっても離れようとしなかった木瀬が、あっさり蓮多の手を離して凛都に飛びついた。

「凛くんっ、本当にありがとう!!」

おい、そこの大型犬。誰彼構わず抱き着いてんじゃねえよ。
離された手が宙ぶらりんで、途端に心もとなくなる。

そんな蓮多を見て、凛都は鼻で笑いながら、

「俺と昴の関係、よく分かったろ? 蓮多くん。俺ら完全なビジネスパートナーだから、そんな怖い顔しないでくれる?」

大型犬をあやすように昴の背中を撫でた。

いやいや、先輩。
完全に俺に当てつけてますよね。思いっきり恋のライバル宣言してましたよね?

凛都のどや顔に納得がいかず、蓮多はむっつり押し黙る。

だいたい木瀬は凛都先輩を信頼しすぎじゃないのか。
ユリちゃん共々苦汁をなめさせられてきたにっくき相手じゃねえのかよ。

木瀬を守って然るべきという、そのナイト然とした態度が気に入らない。

懐きすぎだ。抱きつくんじゃねえ。
お前が好きなのは俺だろ。

そんな蓮多の内心の葛藤などまるで気づかず、木瀬が明るく凛都を紹介してくる。

「蓮多にちゃんと紹介できてなかったな。凛くんは俺の異母兄にいさんなんだ。勉学もビジネスも才能豊かで、器も深い。俺、将来は凛くんと春日井グループの経営に関わりたいと思ってる」

「あ、…そう」

さっきまで俺と一秒も離れたくないみたいな勢いで食いついてきていたくせに、なんで俺が二人の将来の約束を聞かされなきゃならねんだ。

「ふ、…良かったな、昴。蓮多くんお前にべた惚れじゃん」

悶々としていると、こらえ切れないように凛都に笑われた。

「は? 違うし。木瀬が俺に、…っ」

木瀬がどれだけ熱烈にアプローチしてきたか。死んでも離さないと言われたくだりを(正確には言われていない)一言一句余さずに教えてやろうと意気込んだ蓮多は、

「…凛都。昴が帰ってきたのか」

厳かに現れた老人に一蹴された。

「はい、帰ってきました。世界一大事な相手を連れて」

さりげなく大袈裟に売り込まれた蓮多は、一瞬で場の空気を静まり返らせる独特の鋭さを持った春日井グループ総帥と対峙することになった。

いや、待て。俺の前に木瀬と向き合え。

という渾身の突っ込みは総帥には届かず、

「こちらは?」

「星丸ホールディングスのご子息です。今日の昴の活躍は100%彼のおかげといっても過言ではありません。彼とは公私にわたって生涯の付き合いになると思いますよ」

真意を見抜く恐ろしい眼光に値踏みされ、挙動不審に迎え撃つと、

「…昴と凛都の祖父です。今後とも仲良くしてやってください」

その後、ふいうちで訪れた柔和な笑顔で握手を求められる羽目に陥った。

「…星丸蓮多です。木瀬といると幸せです」

てんぱった蓮多は、木瀬とは良いお付き合いをさせてもらっています的なことを言いそうになり、なんかこれって結婚の挨拶みたいじゃねえかと思いつき、余計に焦って訳の分からない幸せ宣言をしてしまった。

春日井凛都が声を押し殺して笑いを耐えているのが目の端に映る。
うるせえ。お前が急に俺に振るからだろ。
今日一日で一生分の羞恥心を使い果たしたような気分だが、春日井総帥は意外にもとても優しい顔をして頷きながら蓮多の手を取った。

爺、意外といいやつ。

蓮多の中で急速に好感度を上げた総帥は、それから木瀬に向き直ると、

「…昴。今までつらい思いをさせて本当にすまなかった。今更虫のいい話かもしれないが、お前とお前のお母さんにできる限りのことをしたいと思っている。今後の相談をしにお前の家に行きたいと思うが、許してもらえるだろうか」

木瀬に向かって深々と頭を下げた。
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