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poppin' orange. 蓮多
02.
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「ごめん、好きだ。蓮多が好きだ」
木瀬はそのまま瞼に口づけて、頬に耳に柔らかいキスを降らせる。木瀬の吐息がくすぐったくて胸の奥がギュッとなる。
「わ、…分かった。分かったから落ち着け」
まさか自分が木瀬にこんなことを言う日が来ようとは。
木瀬の熱に浮かされて、蓮多は頭がくらくらした。
「ちょっと一旦離れろ。俺らすげー見られてる」
休日の真昼間。
参拝客でにぎわう神宮で、男二人してハグにキスを繰り広げているのだから、注目を集めるのも無理はない。周りは悪くない。自分らが悪い。木瀬だって我に返ったら恥ずかしさに身もだえするだろう。
と、思うのに。
「…嫌だ」
木瀬の長い腕はしっかりと蓮多を引き寄せて離さない。
「嫌だぁ??」
誰だ、コイツ。なんだこのわがまま野郎。ホントに木瀬か? 木瀬なのか?
「絶対離さない」
宇宙人に乗っ取られてどっかに丸ごと羞恥心を落っことしてきちゃったんじゃないか??
痛いほどに周りの視線を感じてもがく蓮多を、木瀬は易々と閉じ込める。弓道で名を馳せた木瀬の腕力をナメていた。いや、思えば体力測定でも一度も勝てたことがないんだった。
「離したら、お前逃げるだろ?」
「逃げねえよ」
この星丸蓮多がそんなみっともないことするか。と、さっきまでの追いかけっこなどきれいさっぱり忘れて、言い切った。
「…だって、お前の勝ちだよ? 俺に勝ったらもう、お前はそれで満足だろ?」
あ、…
そろりと目を上げると、間近にある木瀬の瞳にぶつかった。強くきれいな瞳がわずかに揺れている。あの木瀬が。いつも余裕しゃくしゃくで、蓮多から一位を根こそぎ奪っていくあの木瀬が。
…不安なんだ。俺がいなくなるの。
「いや、まあ、…」
なんだか胸が締め付けられるような、むず痒いような。でも飛び上がりたいくらい嬉しいような。じわじわ幸せがこみ上げてくるような。
「…俺も好きだから」
何とも言えない照れ臭さにそっぽを向いて早口で告げると、一瞬木瀬がフリーズして、
「お前、何言ってんの?」
信じられないものを見るような目を向けてきた。
「いや、それはお前だろっ!!」
さっきお前から言ってきたんだろうが。
「…俺は男で、お前も男だぞ?」
「知ってるっつーの!!」
「負けず嫌いもいい加減にしろ? 衆人環視の中だぞ?」
「お前が言うなっ!!」
こんの、薄らボケっ、こっちがどれだけ恥ずかしい思いをしてると思ってんだ。
木瀬を睨み上げると、木瀬は全く想定外とでもいうように、目を真ん丸に見開いている。
え、…こいつ。
あんな熱烈に告白しといて、付き合うとか考えてねえの?
「俺が好きでお前も好きなら、それでオールオッケーなんだよっ」
もどかしさと腹立たしさがこみ上げて、こっちからキスしてやると、木瀬は驚きに瞬いて、それから、世界一幸せそうな顔で笑った。
「…お前、最高。愛してる」
木瀬に絞め殺されそうな勢いで抱きしめられた。ドキドキが近過ぎてどっちの心音か分からない。恥ずかしさも気まずさも頭の芯が溶けそうなほどの多幸感に吹き飛んでいった。
勝ったのか負けたのか。
木瀬をギャフンと言わせることは出来なかったけど、こんななりふり構わない木瀬も可愛、…まあ、悪くない。それだけ蓮多が好きってことだから。
パチパチパチパチ、…
どこからともなく拍手が沸き起こり、
「Bravo!」「Sweets are forever!」
訳の分からない喝さいを浴びた。
完全に見せ物じゃねえか。
吹き飛んだはずの羞恥が戻ってきたが、バカみたいに嬉しそうな木瀬を見たらもうどうでも良くなった。
半ばやけくそで木瀬から身を剝がして両手を挙げて応えたら、木瀬も満面の笑顔で蓮多の肩を抱いて観客(?)に手を振っていた。
俺らどっちもバカなのかも。
だって。
緩んだ木瀬の顔が何より愛しく思えるし、恥ずかしさよりも幸福感の方が大きくて、次々と溢れてくる幸せに押しつぶされそうになっているのだから。
木瀬はそのまま瞼に口づけて、頬に耳に柔らかいキスを降らせる。木瀬の吐息がくすぐったくて胸の奥がギュッとなる。
「わ、…分かった。分かったから落ち着け」
まさか自分が木瀬にこんなことを言う日が来ようとは。
木瀬の熱に浮かされて、蓮多は頭がくらくらした。
「ちょっと一旦離れろ。俺らすげー見られてる」
休日の真昼間。
参拝客でにぎわう神宮で、男二人してハグにキスを繰り広げているのだから、注目を集めるのも無理はない。周りは悪くない。自分らが悪い。木瀬だって我に返ったら恥ずかしさに身もだえするだろう。
と、思うのに。
「…嫌だ」
木瀬の長い腕はしっかりと蓮多を引き寄せて離さない。
「嫌だぁ??」
誰だ、コイツ。なんだこのわがまま野郎。ホントに木瀬か? 木瀬なのか?
「絶対離さない」
宇宙人に乗っ取られてどっかに丸ごと羞恥心を落っことしてきちゃったんじゃないか??
痛いほどに周りの視線を感じてもがく蓮多を、木瀬は易々と閉じ込める。弓道で名を馳せた木瀬の腕力をナメていた。いや、思えば体力測定でも一度も勝てたことがないんだった。
「離したら、お前逃げるだろ?」
「逃げねえよ」
この星丸蓮多がそんなみっともないことするか。と、さっきまでの追いかけっこなどきれいさっぱり忘れて、言い切った。
「…だって、お前の勝ちだよ? 俺に勝ったらもう、お前はそれで満足だろ?」
あ、…
そろりと目を上げると、間近にある木瀬の瞳にぶつかった。強くきれいな瞳がわずかに揺れている。あの木瀬が。いつも余裕しゃくしゃくで、蓮多から一位を根こそぎ奪っていくあの木瀬が。
…不安なんだ。俺がいなくなるの。
「いや、まあ、…」
なんだか胸が締め付けられるような、むず痒いような。でも飛び上がりたいくらい嬉しいような。じわじわ幸せがこみ上げてくるような。
「…俺も好きだから」
何とも言えない照れ臭さにそっぽを向いて早口で告げると、一瞬木瀬がフリーズして、
「お前、何言ってんの?」
信じられないものを見るような目を向けてきた。
「いや、それはお前だろっ!!」
さっきお前から言ってきたんだろうが。
「…俺は男で、お前も男だぞ?」
「知ってるっつーの!!」
「負けず嫌いもいい加減にしろ? 衆人環視の中だぞ?」
「お前が言うなっ!!」
こんの、薄らボケっ、こっちがどれだけ恥ずかしい思いをしてると思ってんだ。
木瀬を睨み上げると、木瀬は全く想定外とでもいうように、目を真ん丸に見開いている。
え、…こいつ。
あんな熱烈に告白しといて、付き合うとか考えてねえの?
「俺が好きでお前も好きなら、それでオールオッケーなんだよっ」
もどかしさと腹立たしさがこみ上げて、こっちからキスしてやると、木瀬は驚きに瞬いて、それから、世界一幸せそうな顔で笑った。
「…お前、最高。愛してる」
木瀬に絞め殺されそうな勢いで抱きしめられた。ドキドキが近過ぎてどっちの心音か分からない。恥ずかしさも気まずさも頭の芯が溶けそうなほどの多幸感に吹き飛んでいった。
勝ったのか負けたのか。
木瀬をギャフンと言わせることは出来なかったけど、こんななりふり構わない木瀬も可愛、…まあ、悪くない。それだけ蓮多が好きってことだから。
パチパチパチパチ、…
どこからともなく拍手が沸き起こり、
「Bravo!」「Sweets are forever!」
訳の分からない喝さいを浴びた。
完全に見せ物じゃねえか。
吹き飛んだはずの羞恥が戻ってきたが、バカみたいに嬉しそうな木瀬を見たらもうどうでも良くなった。
半ばやけくそで木瀬から身を剝がして両手を挙げて応えたら、木瀬も満面の笑顔で蓮多の肩を抱いて観客(?)に手を振っていた。
俺らどっちもバカなのかも。
だって。
緩んだ木瀬の顔が何より愛しく思えるし、恥ずかしさよりも幸福感の方が大きくて、次々と溢れてくる幸せに押しつぶされそうになっているのだから。
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