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poppin' 3. 蓮多

08.

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「あの二人、実は兄弟なんだって」
「ええ? でも名字が、…?」
「木瀬っていう選手、春日井グループ総帥のお孫さんなんだって。なんでも亡くなった息子さんの隠し子だとか」
「へええ? じゃあ因縁の相手ってことか。この勝負、彼らの将来にも関わってくるのかもねえ」

ああ、そうか。そういうことか。

今、木瀬の目に映っているのは目指すべき未来。
木瀬はずっと虐げられた環境で戦っていた。自身を証明するために。
その戦地に互角に立てるのは春日井凛都だけだ。

2人は本物の好敵手ライバル。お互いを高め合い支え合って共に生きていくべき相手。表と裏。明と暗。光と影。周りの思惑に呑まれて、すれ違ったり憎んだり、複雑に絡まり合うこともあれど、分かち合えるのもまたお互いだけ。

『俺はお前とは住む世界が違う。お前と遊んでるほど暇じゃないんだよ』

蓮多が入る隙間なんてどこにもない。
負けたくなくて勝負を挑んでいるだけの外野。最初から相手にもされていない。

観客席の中央、来賓席とも言うべきところに気位が高そうな老人が座っている。彼が、春日井凛都と木瀬昴の祖父であり、元財閥である春日井グループの総帥であることは、今日この場にいる人はみんな知っている。

彼の目が木瀬の放つ矢を注視していた。
的中させ続けた方が勝ちらしく、木瀬と凛都先輩はどちらも外さず同点のまま射続けていたが、集中力も限界らしく先行している凛都先輩の矢が先ほどわずかに逸れた。つまり、ここで木瀬があてれば、木瀬の勝ちだ。

木瀬の横顔に、汗が滴り落ちる。
それが綺麗で、胸が痛い。こんなにも必死な木瀬は見たことがない。

静まり返った会場の中、そこにいる全員の視線を一身に受けて、呼吸を整えた木瀬が矢を放った。

いけ、あたれ!!

全員、息を止めて。
見つめた先、的の、ほぼど真ん中に刺さった矢じりがあった。

最初に立ち上がって拍手をしたのは春日井総帥だった。続いてみんなが立ち上がり、スタンディングオベーションが巻き起こる。大会結果が高らかに告げられる中、木瀬と凛都先輩が互いを讃え、握手し、抱き合った。

あ、…

「どした、蓮多?」
「…帰るわ」
「え~? リン先輩とスバル先輩にお祝い言わないんですか?」
「そんな重い横断幕持ってきて?」

一瞬、木瀬が視線を投げかけた気がして、連多は慌てて顔を逸らした。ふいに席を立って歩き出した蓮多に、友人や中学生たちから声がかかったが、無視して足早に会場を出た。

完敗だ。

歓声が遠のいていく。
目の奥が熱い。鼻の奥が痛い。

この期に及んで木瀬になんて会えないし、凛都先輩相手にどの面さらせってんだ。

凛都先輩は、自分の持てる力をすべて使って、木瀬を春日井家に認めさせた。それでさっき、健闘をたたえてハグして、多分、頬にキスした。留学帰りとか関係ないだろう。完全に見せつけてた。木瀬の阿呆は嬉しそうに笑ってた。

門に向かって足早に歩く。泣くな。
さすがにカッコ悪すぎる。泣くなよ、俺。

蓮多には、木瀬を本気にさせることも、木瀬が目指す場所に連れていくことも出来ない。

目の前が涙に滲んで、必死で奥歯を食いしばった。

『蓮多って誰かを好きになったことないでしょ』

そうだ、その通り。当たってる。
初めて分かった。これが、好きっていうことだ。
こんなにも、痛くて、痛くて、世界が終わる。
これが、恋だ。分かった瞬間終わってしまった。

これが恋なら。
もう二度と。恋なんてしない。
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