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poppin' 3. 蓮多
07.
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しかも。
「蓮多さぁ~~~ん」「こっちこっち」
「めっちゃ熱烈な横断幕」「愛が重い」
会場に着くなり、ファンクラブを結成した中学生たちに見つかった。
「これはっ、断じて俺が書いたんじゃ、…っ」
慌てて否定する蓮多の言い訳は、
「わああ、木瀬くんカッコいい~~~」
「リン先輩さすが~~~」
麗しい道着姿で試合準備をする選手たちに向けられた黄色い歓声にかき消された。弓道場の観客席はほぼ満席で、木瀬と春日井凛都を応援する霞が関高校の生徒を始め、他校生、保護者、弓道関係者、報道関係と思われる人も大勢詰めかけ、カメラやマイクも設置されている。木瀬と春日井凛都に寄せられる期待の高さがうかがわれた。
「LOVEき・せ・くん」「LOVEり・ん・さん」
「頑張れ霞高、負けるな霞高」
張り切って応援する木瀬ファンと凛都ファン。ポンポン片手に、女子たちが装飾の施されたメガホンを振り回す。なんなら派手にデコられたうちわを掲げる生徒もいる。もはやアイドルオンステージと見まごう霞が関高校の観客席は、厳粛な空気間の中で場違いに目立っている。その異様な盛り上がりをみせる声援をさすがに無視できなかったのか、道着姿の選手たちの中で、一際目を引く二つの長身のうちの一つ。凛として、厳かに、美しい。木瀬が一瞬こちらに目を向けて、…
やべ。
蓮多と目が合った。
木瀬を思い切り避けておいて、のこのこ応援に来るとか、本当は知られたくなかった。
けれど。
逸らせない。逃れられない。
澄み切った静かな木瀬の目は蓮多だけを映した。心臓が鷲づかみにされて、痛い。ドクドク鳴って、周りに聞こえてしまいそうだ。
何か声をかけられた木瀬の視線が逸れたので、バクバクうるさい心臓を持て余しながらようやく瞬きすると、ふと別の視線を感じた。凛都先輩がしっかりこっちを見て不敵な笑みを浮かべている。
くそ。振られる覚悟もないくせに、挑戦状を受け取ってしまった。
『俺と昴の関係、分かると思うよ』
木瀬と凛都先輩の関係。
知りたくないけど。知らずにもいられない。
上等だ。もうこうなったら、しっかりバッチリ見てやろうじゃねえの。
そう決めて、ガンガンに見開いた蓮多の目に映ったのは、圧巻の弓捌きを見せる木瀬と凛都先輩の姿だった。
格が違う。
所作に鳥肌が立つ経験をしたのは初めてだった。
動作の一つ一つが美しく軽やかで凛々しい。立ち姿に息を呑む。頭のてっぺんから足のつま先まで完璧に研ぎ澄まされていて、周りの空気すら気迫で跳ね返している。弓道の作法など一つも分からない蓮多にも二人の凄さがひしひし伝わってくる。
最初は浮かれて歓声を上げていた応援の生徒たちも、木瀬と凛都先輩の一挙手一投足に声が出ない。固唾を飲んで見守っている。張りつめた空気が凄くて、沈黙が緊張ではち切れそうだ。
シュッ、…―――――
つがえた矢が、空を切る。
真っすぐに。一直線に。的を目がけて。
静まり返った会場に矢が的にあたる音が響いて、感嘆のため息が漏れた。一瞬の後に拍手と喝采が沸き起こる。
「素晴らしい中りです、春日井選手。彼は若干18歳にして国際大会で優勝経験をもつ実力派です。さすが、射法に全く無駄がありません。非常に美しい」
テレビ中継をしているらしく、実況している声が聞こえてくる。
「しかし、全く互角の中りを見せている選手がもう一人。木瀬昴選手。こちらはまだ16歳ですが、美しさと正確さに定評があり、ジュニア大会での活躍も素晴らしく、数々の大会で最年少記録を塗り替えています。今後最も活躍が期待されている選手と言っても過言ではないでしょう」
実際のところ、今日の個人戦は木瀬と凛都先輩の一騎打ちと言って良さそうだった。
「蓮多さぁ~~~ん」「こっちこっち」
「めっちゃ熱烈な横断幕」「愛が重い」
会場に着くなり、ファンクラブを結成した中学生たちに見つかった。
「これはっ、断じて俺が書いたんじゃ、…っ」
慌てて否定する蓮多の言い訳は、
「わああ、木瀬くんカッコいい~~~」
「リン先輩さすが~~~」
麗しい道着姿で試合準備をする選手たちに向けられた黄色い歓声にかき消された。弓道場の観客席はほぼ満席で、木瀬と春日井凛都を応援する霞が関高校の生徒を始め、他校生、保護者、弓道関係者、報道関係と思われる人も大勢詰めかけ、カメラやマイクも設置されている。木瀬と春日井凛都に寄せられる期待の高さがうかがわれた。
「LOVEき・せ・くん」「LOVEり・ん・さん」
「頑張れ霞高、負けるな霞高」
張り切って応援する木瀬ファンと凛都ファン。ポンポン片手に、女子たちが装飾の施されたメガホンを振り回す。なんなら派手にデコられたうちわを掲げる生徒もいる。もはやアイドルオンステージと見まごう霞が関高校の観客席は、厳粛な空気間の中で場違いに目立っている。その異様な盛り上がりをみせる声援をさすがに無視できなかったのか、道着姿の選手たちの中で、一際目を引く二つの長身のうちの一つ。凛として、厳かに、美しい。木瀬が一瞬こちらに目を向けて、…
やべ。
蓮多と目が合った。
木瀬を思い切り避けておいて、のこのこ応援に来るとか、本当は知られたくなかった。
けれど。
逸らせない。逃れられない。
澄み切った静かな木瀬の目は蓮多だけを映した。心臓が鷲づかみにされて、痛い。ドクドク鳴って、周りに聞こえてしまいそうだ。
何か声をかけられた木瀬の視線が逸れたので、バクバクうるさい心臓を持て余しながらようやく瞬きすると、ふと別の視線を感じた。凛都先輩がしっかりこっちを見て不敵な笑みを浮かべている。
くそ。振られる覚悟もないくせに、挑戦状を受け取ってしまった。
『俺と昴の関係、分かると思うよ』
木瀬と凛都先輩の関係。
知りたくないけど。知らずにもいられない。
上等だ。もうこうなったら、しっかりバッチリ見てやろうじゃねえの。
そう決めて、ガンガンに見開いた蓮多の目に映ったのは、圧巻の弓捌きを見せる木瀬と凛都先輩の姿だった。
格が違う。
所作に鳥肌が立つ経験をしたのは初めてだった。
動作の一つ一つが美しく軽やかで凛々しい。立ち姿に息を呑む。頭のてっぺんから足のつま先まで完璧に研ぎ澄まされていて、周りの空気すら気迫で跳ね返している。弓道の作法など一つも分からない蓮多にも二人の凄さがひしひし伝わってくる。
最初は浮かれて歓声を上げていた応援の生徒たちも、木瀬と凛都先輩の一挙手一投足に声が出ない。固唾を飲んで見守っている。張りつめた空気が凄くて、沈黙が緊張ではち切れそうだ。
シュッ、…―――――
つがえた矢が、空を切る。
真っすぐに。一直線に。的を目がけて。
静まり返った会場に矢が的にあたる音が響いて、感嘆のため息が漏れた。一瞬の後に拍手と喝采が沸き起こる。
「素晴らしい中りです、春日井選手。彼は若干18歳にして国際大会で優勝経験をもつ実力派です。さすが、射法に全く無駄がありません。非常に美しい」
テレビ中継をしているらしく、実況している声が聞こえてくる。
「しかし、全く互角の中りを見せている選手がもう一人。木瀬昴選手。こちらはまだ16歳ですが、美しさと正確さに定評があり、ジュニア大会での活躍も素晴らしく、数々の大会で最年少記録を塗り替えています。今後最も活躍が期待されている選手と言っても過言ではないでしょう」
実際のところ、今日の個人戦は木瀬と凛都先輩の一騎打ちと言って良さそうだった。
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