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poppin' 2. 蓮多

07.

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「…あいつ、マジでクソだよな」
「何様だよ」「くっそムカつく」

木瀬を捜して走り回る中、部室棟から引き揚げてきた1年連中に鉢合った。

「どんだけ上手いか知らないけど、練習には全然参加しないわ、雑用とは無縁だわ、文化祭の出し物もパスしやがって」
「片付けくらい当然だよな」「朝までに終わるか分かんねーけど」

こいつら確か、木瀬と同じ弓道部の奴らじゃないか?
すれ違いざま聞こえた会話に蓮多の身体が反応する。

「おい、弓道部って体育館で演技発表したんだったよな?」
「あ、…」

声をかけた蓮多を見た時のやましそうな顔で確信して、蓮多は体育館に向かって走った。

木瀬は弓道が上手いらしく、その界隈では有名らしい。が、弓道部に所属していながら、練習には参加していない。それは生活費を稼ぐためにバイト三昧だからだと蓮多は知っているし、顧問や学校も認めているのだろうが、共に活動する仲間としては面白くないのが当然だ。

木瀬にだけ開放されている昼休みの弓道場。
免除される雑用、役割、上下関係。不本意な同調圧力からの解放。

突出することは、悪だから。

クラスの出し物に夢中になって、木瀬の部活動での立ち位置にまで頭が回らなかった。木瀬は1Fの餃子にかかり切りで、弓道部の活動にはノータッチだった。それはどれほど弓道部員の神経を逆なでしただろう。

たどり着いた体育館は人気がなく、お祭り終わり特有の寂しさが漂っていた。

乱雑に並んだ客席の椅子。床に散らばる飾りや紙吹雪。
袋から溢れるゴミ。放置されたままの音響設備。

舞台裏の倉庫の方で物音がするのに気づいて、蓮多は足早に体育館を横切った。

「…なに?」

覗き込むと、一人で片付ける木瀬の姿があった。
こんなの、人海戦術だ。人手さえあれば何でもない作業なのに。

滴る汗もそのままに黙々と作業を続けている木瀬の姿が胸に痛い。

「俺もやる」
「…お前、関係ないだろ」

畳んだ椅子を舞台裏の収納に納めていた木瀬は蓮多から目を逸らして作業を再開する。

また、だ。

『…もう来るなよ』『俺はお前とは住む世界が違う』

あの時とは違う。
同じ時間を共有して、同じ経験を積み重ねて、笑ってキスして。
近づいたと思ったのに。

木瀬は簡単に蓮多を遠ざける。決して踏み込めない線を引き、1人で何でもこなしてしまう。

「…せえな」

それがムカつく。
もどかしくて悔しくて悲しい。

そりゃあ木瀬は完璧だけど。
誰かを、…俺を。時には頼ってもいいのに。

「俺がやるっつったらやるんだよ」

蓮多は内心の痛みを隠して、強引に作業に加わるべく倉庫を出たところで、

「…わっ」

こちらにやってきた人とぶつかった。
鼻が潰れる。奥の方がツンと痛んで涙が出そうになるのは、ぶつかった衝撃であって、断じて木瀬とは関係ない。

「…ごめん、大丈夫?」

蓮多とぶつかったのは背の高い先輩男子で、心配そうに細められたくっきりした瞳が優し気だった。

「あ、はい、すみません、…」

鼻を啜りながら、脇に退けると、

「…凛くん?」

後ろから木瀬の声が聞こえた。

「昴、一人でやるなよ。俺を呼べって言っただろ」

振り向くと、凛くんと呼ばれた先輩が木瀬に近づいて、親し気に木瀬の頭を撫でた。
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