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poppin' 1 蓮多
07.
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「で、木瀬に彼女は出来そうなの?」
「あ、…!」
夏休み終盤の登校日。
久々に会った仁志に聞かれて、蓮多は本来の目的を思い出した。
そうだった。木瀬に彼女を作って振られて慰めて、自分の株を上げるんだった‼︎
すっかり忘れて、この夏休みは人生初バイトに精を出し、木瀬の交通整理のバイト仲間と仲良くなり、早朝モモの散歩も日課になって、木瀬宅の鍋に肉を差し入れしたりしていた。ちなみにすっかり木瀬家の夕飯常連になった蓮多は、木瀬母親であるユリちゃんと連絡先を交換し、今ではSNS上で気軽なトークに花を咲かせている。
まあしかし。すっかり忘れていたとは言え、計画は完璧に進んでいる。
蓮多は自分を取り戻した。
今年の夏休みは、未だかつてない充実ぶりを見せている。なにしろ、四六時中、木瀬とつるんでいたのだ。モモもすっかり木瀬の虜で、新聞配達のコースも完璧に覚えた。
これはもう、名実ともに俺らは親友だろう! 木瀬だって俺に恋バナの一つや二つ、したくなっているに違いない。
早速、その日の昼休み。
部活動以外の生徒は下校した校内の弓道場で、いつものように蓮多だけ弁当を広げながら、凛々しく矢を射る木瀬を捕まえて聞いてみた。
「木瀬ってさぁ、好きな人いる?」
調子良く的を射ていた木瀬の矢が、大きく逸れた。
「なに、突然」
木瀬は少し怒ったように上気した顔を蓮多に向けた。
お。なんか以前と反応が違う。信頼を得たっぽい。
蓮多は内心小さくガッツポーズしてから、弁当の続きを頬張った。
「俺ら親友じゃん? お前が好きなやつと上手くいくように、絶対協力してやるから」
葉山が作った弁当の中でもお気に入りのおかずである唐揚げをもぐもぐと噛み締めながら嘯く蓮多に、
「…ふうん」
木瀬はどこか訝しそうに相槌を打つと、弓を置き、袴姿で凛とした姿勢のまま、ほとんど音もなく近づいて、
「じゃ、頼むわ」
「え、…」
衣擦れの気配に顔を上げた蓮多の唇に、柔らかく触れた。
は?
まるで展開についていけず、呆然と固まるばかりの蓮多に、
「…俺はお前のこと、親友なんて思ってないから」
木瀬のかすれた声が届く。
な、…!?
蓮多の手から転がり落ちた箸が、床に当たって音を立てる。
「それ、どういう、…」
道場の床を転がっていった箸が止まり、ようやく我に返った蓮多が問いかけを発した時には、木瀬はもうどこにもいなかった。
「えっ!? ええっ!? はああっ!?」
後に残された蓮多の喚き声が道場にこだまする。驚きと困惑が大き過ぎて、言われた言葉の意味が分からない。
『親友なんて思ってない』
怒るべきか。怒っていいのか。悲しむべきか。
蓮多は自分の唇に、指でそっと触れてみた。
なに今の。
現実味はまるでないのに、柔らかくて瑞々しく弾む木瀬の唇の感触は、確かにそこに残っている。
まさかあいつ、この期に及んで。
…俺の唐揚げ食べたかった、とか、言わねえよな?
「あ、…!」
夏休み終盤の登校日。
久々に会った仁志に聞かれて、蓮多は本来の目的を思い出した。
そうだった。木瀬に彼女を作って振られて慰めて、自分の株を上げるんだった‼︎
すっかり忘れて、この夏休みは人生初バイトに精を出し、木瀬の交通整理のバイト仲間と仲良くなり、早朝モモの散歩も日課になって、木瀬宅の鍋に肉を差し入れしたりしていた。ちなみにすっかり木瀬家の夕飯常連になった蓮多は、木瀬母親であるユリちゃんと連絡先を交換し、今ではSNS上で気軽なトークに花を咲かせている。
まあしかし。すっかり忘れていたとは言え、計画は完璧に進んでいる。
蓮多は自分を取り戻した。
今年の夏休みは、未だかつてない充実ぶりを見せている。なにしろ、四六時中、木瀬とつるんでいたのだ。モモもすっかり木瀬の虜で、新聞配達のコースも完璧に覚えた。
これはもう、名実ともに俺らは親友だろう! 木瀬だって俺に恋バナの一つや二つ、したくなっているに違いない。
早速、その日の昼休み。
部活動以外の生徒は下校した校内の弓道場で、いつものように蓮多だけ弁当を広げながら、凛々しく矢を射る木瀬を捕まえて聞いてみた。
「木瀬ってさぁ、好きな人いる?」
調子良く的を射ていた木瀬の矢が、大きく逸れた。
「なに、突然」
木瀬は少し怒ったように上気した顔を蓮多に向けた。
お。なんか以前と反応が違う。信頼を得たっぽい。
蓮多は内心小さくガッツポーズしてから、弁当の続きを頬張った。
「俺ら親友じゃん? お前が好きなやつと上手くいくように、絶対協力してやるから」
葉山が作った弁当の中でもお気に入りのおかずである唐揚げをもぐもぐと噛み締めながら嘯く蓮多に、
「…ふうん」
木瀬はどこか訝しそうに相槌を打つと、弓を置き、袴姿で凛とした姿勢のまま、ほとんど音もなく近づいて、
「じゃ、頼むわ」
「え、…」
衣擦れの気配に顔を上げた蓮多の唇に、柔らかく触れた。
は?
まるで展開についていけず、呆然と固まるばかりの蓮多に、
「…俺はお前のこと、親友なんて思ってないから」
木瀬のかすれた声が届く。
な、…!?
蓮多の手から転がり落ちた箸が、床に当たって音を立てる。
「それ、どういう、…」
道場の床を転がっていった箸が止まり、ようやく我に返った蓮多が問いかけを発した時には、木瀬はもうどこにもいなかった。
「えっ!? ええっ!? はああっ!?」
後に残された蓮多の喚き声が道場にこだまする。驚きと困惑が大き過ぎて、言われた言葉の意味が分からない。
『親友なんて思ってない』
怒るべきか。怒っていいのか。悲しむべきか。
蓮多は自分の唇に、指でそっと触れてみた。
なに今の。
現実味はまるでないのに、柔らかくて瑞々しく弾む木瀬の唇の感触は、確かにそこに残っている。
まさかあいつ、この期に及んで。
…俺の唐揚げ食べたかった、とか、言わねえよな?
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